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死んだおっさん、天使になる。~天界のお仕事、思ってたのと違います~  作者: 月欠けラムネ
第1章 新人天使フンノシエル

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第9話 新人研修終了

 

 ララエルは手元の半透明な板を確認した。


「はい。これで簡単な新人研修は終了です」


「終わり?」


 俺は思わず聞き返した。


「はい」


 ララエルはうなずく。


「ここでは本当に基本的なことしか説明していません。もっと詳しいことは、この後の職場案内で説明を受けてください」


 ゴゴゴ・ザ・シャインが聞く。


「職場案内?」


「はい。天使の仕事についての説明や、配属に関する手続きですね」


「じゃあ、まだ研修そのものは続く?」


「部署ごとの説明は続きます。でも、私の担当はここまでです」


 そう言って、ララエルは俺たちに向かって頭を下げた。


「お二人とも、お疲れさまでした」


 俺とゴゴゴ・ザ・シャインも頭を下げる。


「ありがとうございました」


「お世話になりました」


 なんだかんだで、ここまで来た。


 天使になって。


 飛べないことを知って。


 変な名前を付けられて。


 浮遊術と上昇術を覚えて。


 かつらまで飛んだ。


 最後の一つは俺じゃないけど。


「あ、そうだ」


 俺は顔を上げた。


「ララエルさん」


「はい?」


 俺はララエルの頭を指差した。


「その輪っかって、いつも付いてますよね」


 ララエルの頭上には、金色に光る輪が浮いている。


 それから白い衣装。


 背中の羽。


 どう見ても天使だ。


 俺は自分の頭上を見る。


 何もない。


 白い服は着ているが、ララエルほど天使らしい格好ではない。


「俺たちの輪っかって、いつもらえるんです?」


 ゴゴゴ・ザ・シャインも気づいたらしい。


「そういえば、私たちにはありませんね」


「それについても、職場案内の方で説明がありますよ」


「そこで貰えるんです?」


「正式な配属が決まってからですね」


「まだ先か」


「詳しいことは、そちらの担当者から聞いてください」


「また担当が違うんですね」


「はい。そこはきっちり分かれています」


 俺はもう一度、ララエルの輪を見る。


 淡い金色の光を放っている。


「やっぱりこれあると、天使って感じしますよね」


「そうでしょう?」


 ララエルは少し得意そうだった。


 ゴゴゴ・ザ・シャインも輪を眺める。


「光り方もいいですね」


「目印にもなりますからね」


 俺も自分の頭の上に輪が付いた姿を想像した。


 白い服。


 白い羽。


 金色の輪。


 悪くない。


 むしろ、ようやく天使らしくなれる気がする。


「これ付いたら、俺もかなり天使っぽく――」


 ララエルの肩が震えた。


「……」


「何です?」


「い、いえ」


「今、絶対何か思いましたよね?」


「何も」


 ララエルは口元を押さえた。


 ゴゴゴ・ザ・シャインが怪訝そうにする。


「どうしました?」


 ララエルは俺を見る。


 次にゴゴゴ・ザ・シャインを見る。


 そして二人の頭を見る。


「……ふっ」


 吹き出した。


「また!?」


「す、すみません!」


 ララエルは笑いをこらえようとしている。


「だって、お二人が金色の輪っかを付けて、頭まで光ったところを想像したら……!」


「頭までって言うな!」


 ゴゴゴ・ザ・シャインも傷ついた顔をした。


「私までですか!?」


「ごめんなさい!」


「私は今かつら付けてますよ!」


「だから余計に……!」


 ララエルはとうとう声を出して笑い始めた。


「何が余計になんですか!」


「すみません、本当に……!」


 俺はため息をついた。


「最後の最後までハゲで笑われるのかよ……」


 隣のゴゴゴ・ザ・シャインが小さく呟く。


「私のことまで、もうハゲ扱いなんですね……」


 少し本気で傷ついている。


 ララエルは何度か深呼吸して、ようやく落ち着いた。


「すみません。今度こそ本当に終了です」


「本当でしょうね」


「はい」


 ララエルは笑顔で俺たちを見た。


「職場案内・配属受付は、この道をまっすぐ行けばあります」


「分かりました」


「そこで仕事について詳しく聞いてください」


「はい」


「では、お二人とも頑張ってくださいね」


 ララエルが手を振る。


 俺たちも軽く手を上げた。


 そうして歩き始めた。


 しばらく無言だった。


 ゴゴゴ・ザ・シャインが先に口を開く。


「……フンノシエルさん」


「何?」


「私のこと、もうハゲって広まるんでしょうか」


「気にするなよ」


「でも、ララエルさんには完全に知られました」


「俺なんか最初からだぞ」


「あなたは堂々としてるじゃないですか」


「堂々としてるんじゃない。隠すものがないんだ」


「……」


「黙るなよ」


 ゴゴゴ・ザ・シャインは少し考えた。


「でも私なんて、ゴゴゴ・ザ・シャインで、しかもハゲですよ」


「俺なんかハゲでフンノシエルだぞ」


「……」


「……」


 互いに顔を見る。


「私の方がひどくないですか?」


「いや、俺だろ」


「私はシャインですよ」


「俺は汚物の御使いだぞ」


「でも上級天使でしょう?」


「名前のダメージは階級じゃ消えないんだよ」


「私は一般級でハゲです」


「俺は銀文字でフンノシエルだ」


 ゴゴゴ・ザ・シャインは少し考えた。


「……名前が目立つ分、そちらの方がひどいですね」


「だろ?」


 なぜか少し嬉しくなった。


 不幸自慢で勝って嬉しくなるのもどうかと思う。


 二人並んで歩いていく。


 さっきまでなら、こんな話をしながら歩くとは思わなかった。


 でも今は、妙に居心地がいい。


 前方には、


『職場案内・配属受付』


 と書かれた大きな建物が見えてきた。


 俺は自分の右手を見る。


 銀色に光る、


『フンノシエル』


 の文字。


 隣には、


『ゴゴゴ・ザ・シャイン』


 という黒文字を持つ男。


 天使になってから、


 想像していたことと違うことばかりだった。


 でも。


 少なくとも一人、


 一緒に歩いていけそうな奴はできた。


 俺たちは、


 新しい仕事を決めるため、


 職場案内・配属受付へ向かって歩いていった。



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