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嫌われ者と生徒会長〜誰にも心を開かなかった私を、生徒会長はなぜか見捨ててくれない〜  作者: 月星 星成
第二章

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57話

「へぇ。そんなことがあったんだ」

「ほんと、めんどくさいよね」


 次の日の昼休み、私はいつも通りの校舎裏で、いつもと同じように茜と昼食を食べていた。

 ただ、珍しいというわけではないけれど、今ここに居るのは私達だけで、雪乃先輩はここに来ていなかった。


「遠藤先輩だっけ? その人から見れば、澪のことは嫌いになるかもね」

「だろうね。嫌々ルールに従ってるのに、私は思いっきり無視してるから。でも、私は嫌われる方が好きだから、それでいいんだけどね」


 本音。何も嘘は吐いていない。

 私は他人に嫌われる方が好きだし、嫌われている状態こそ、あるべき姿だと思っている。


 例外と言えば、雪乃先輩や茜くらいな物であり、彼女たちに嫌われることだけは、何があっても避けたかった。


「ぶれないね……。でも、珍しくない? 澪が、他の人たちの言い合いを気にするなんて」


 確かに……そうかもしれない。

 私が他人の言い争いを気にするなんて、それを見て楽しむ時しかないはずなのに。


「……なんでだろうね? 自分でも分からないや」


 何かが引っ掛かっているせいで、先輩たちの言い争いを、心から楽しむことが出来ていなかった。

 こんなの、私らしくない。私はもっと、最低な人であるべきなのに。


 ふと、茜の方を見た。

 彼女は、何故か私の方を見て微笑んでいて、目が合った瞬間、ほんの少しだけ首を傾けた。


「……なに、その顔」

「別に。ただ、澪ってわかりやすいなって思って」


 わかりやすい? 何それ、どういうこと?

 何を言っているのか、さっぱりわからない。


「だって、先輩たちの言い争いを見て、雪乃先輩が悲しんでいることが気に食わないんでしょ。ほんと、雪乃先輩のことが好きなんだね」

「………………………………………………………………」


 何も、言うことが出来なかった。

 喉の奥がひゅっと狭くなる。言葉を探そうとしても、指先の感覚ばかりが妙に鮮明で、箸を持つ手がわずかに止まる。


「図星なんだ」

「は? そ、そんなわけないでしょ! 私はただ、あの人が私のこと以外で苦しんでほしくないだけ! あの人が苦しむのなら、それは私が原因であってほしいって思うのが当然じゃない!?」

「それはそれで、十分好きだと思うけど……」


 茜は呆れたようにため息をついた。

 何それ、私の何処に呆れる要素があると言うのか。


(あぁもう!)

 

 胸の奥が一気に熱くなる。言い返そうとして口を開いたのに、喉がひゅっと詰まって、声にならない。

 だから、やっと口から出たのは、ただただ話を逸らそうとするだけの、どうしようもない言い訳だった。


「そんなことより、茜は風紀委員でどうなの? ほら、私だけ話すのは不公平じゃん」


 自分でも分かるくらい、声が不自然に明るい。

 語尾が浮いていて、落ち着きがない。


 そのせいで、茜は一瞬だけ瞬きをして、それからゆっくりと笑った。


「話、そらそうとしてるでしょ」

「してない」

「まぁ、いいけど。最近は、どこかの誰かさんを何とかしてって先輩に言われてるよ。どこかの、金髪でピアスをつけてる人をね」

「………………誠に申し訳ございませんでした」


 藪蛇だった。

 茜はわざとらしく肩をすくめて、ため息をひとつ。


「結構大変なんだよー。風紀委員の先輩たちから、澪のことを庇うの」

「うっ」

「それに、わたしは小柄だから舐められやすいし……本当に感謝してね」


 どうやら、頭が上がらない人物は、雪乃先輩以外にもいたようだ。

 いじめから止めさせたことを考慮したとしても、私には返しきることが出来ない借りがある。


 茜は小柄な体で胸を張ってみせる。


「ほんとだよ。わたし、澪の味方してるんだから」

「……はい」


 素直に返事が出てしまった自分に、少しだけ腹が立つ。

 でも、言い返す材料なんてどこにもない。


(ほんと、周りに恵まれてるな)


 茜や雪乃先輩を見ていると、ついそんなことを思ってしまう。

 茜は、私の初めての友達だし、雪乃先輩は私と一緒に居てくれる人。中学生の時の私では、一生得るはずもないと思っていた人たちが、もう二人も出来てしまった。


 この二人に、私はあり得ないほど幸せにしてもらってる。だから、感謝してもしきれない。

 でも、他人に嫌がらせをすることしか知らない私では、感謝を伝える方法がわからない。


 箸を動かしながら、胸の奥がじわりと重くなる。

 言葉にすれば軽くなるはずなのに、どうしても口にできない。


「……澪?」


 茜が覗き込むように顔を寄せてきた。

 その距離の近さに、思わず視線をそらす。


「なに、急に静かになって」

「別に。なんでもない」


 即答したのに、声が少しだけ掠れていた。

 茜はそれに気づいたのか気づかないふりなのか、ふっと目を細める。


「澪が嫌がるってわかってるから、わたしも雪乃先輩もすべては言わないけど、澪はもうちょっと自分勝手になっていいと思うよ」

「どういうこと?」

「わたしが言うのはここまで。だって、言ったら澪は絶対に怒るから」


 怒るからって……私が澪に怒るなんて、よっぽどのことが無い限り、そんなことは起きないはずだ。

 それは茜もわかっているはずだけど、それでもこんなことを言うなんて……いったい、どんなことを言おうとしていたのか。


「まぁいいや。そんなことを考えるより、弁当を食べよ」

「そうだね。澪は絶対に自覚しないんだろうし」

「何か言った?」

「なにも」


 茜はそう言って、またお弁当に視線を戻した。

 その横顔は、どこか含みのある笑い方をしていて、余計に落ち着かない。


 箸を動かしながら、胸の奥がざわつく。言葉にできない何かが、ずっと引っかかったままだ。

 風が吹いて、校舎裏の空気が少しだけ揺れる。

 その中で、茜はぽつりと呟くように言った。


「……澪はさ。自覚しないままの方が、きっと幸せなんだろうね」

「……は?」

「なんでもない」


 またそれだ。問い詰めようとしたのに、喉がひゅっと詰まって声にならない。

 茜はただ静かに笑って、箸を進める。

 その笑い方が優しすぎて、胸の奥がまた熱くなる。


 私は視線を落とし、弁当の端をつついた。

 どこか居心地が悪くて、でも茜から離れるという選択肢は存在しなかったから。

 

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