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嫌われ者と生徒会長〜誰にも心を開かなかった私を、生徒会長はなぜか見捨ててくれない〜  作者: 月星 星成
第二章

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40話

 何事も無く中間テストが終わった。

 何か言うことがあればいいなとは思ってはいるんだけど、本当に何事も無かった。


 テスト期間中は、午前中にテストを受け、午後は図書館で茜に次の日の教科について教えて、夕方くらいに勉強会が終わった雪乃先輩が家に泊まりに来ると言うサイクルを繰り返しているだけ。

 それ以外のことなんて、何事も無かったし、テストが難しいとか、雪乃先輩が変なことをしてきたりはしなかった。


「……次、黒瀬」


 すると、数学の先生が顔を歪ませながらそんなことを言ってきた。


(そう言えば、授業中だったんだ。忘れてたよぉ)


 でも、今日の授業の内容は私が一番理解している。

 中間テストが終わってから、最初にする授業。そんな授業ですることは、たった一つしかないだろう。


「あれ? どうかしましたか?」


 先生があまりにも眉を顰めていたせいで、ちょっとだけニヤついてしまった。

 まったく、わざわざ生徒の目の前でそんな顔をしなくてもいいのに。あ、もちろん、私の前ではその顔をしてもいいよ。好みだから。


「……カンニングをしたのか?」


 その言葉と一緒に、満点だった数学のテストが渡された。

 当然だ。このくらいの問題なら、私の学力だと満点を取れる。


 けれど、授業中と小テスト中は常に寝ていて、家の中でしか勉強をしないせいで、私の学力を知っている人は雪乃先輩と茜くらいしかおらず、むしろ頭が悪いと思っている人の方が大半を占めている。


 だから、こうしてカンニングを疑われるのは当然のことだった。


「え、なんでですか?」

「当然だろ! おまえがここまでの点数を取れるとは思えん! 素直に言ったらどうだ!?」


(うわぁ、こりゃ完全に私がカンニングをしたと思い込んでるよ。酷いなぁ。先生として、生徒のことを信じればいいのに)


 普段の行動が悪いことを棚に上げて、私はそんなことを思っていた。

 ただ、別に辛いとも思わないし、むしろ当然だなと考えている。だって、そんな風に思考を誘導したのは私なんだから。


「先生、知ってます?」

「なんだ?」

「バレないカンニングは、カンニングじゃないんですよ」


 先生の頬が引き攣り、顔が怒りに染められていく。

 ははっ、もしかして、私がカンニングをしているって勘違いしちゃったのかな? 


「犯罪だって、バレるまでは罰なんて与えられないじゃないですか。ソレと似たような物ですよ」

「黒瀬! カン――」

「証拠もないのに叱らないでくださいよ」


 教室の空気が張り詰める。クラスメイトたちの視線が一気に私に集められ、チクチクと肌が痛い。

 その中には茜の視線も合って、一瞬だけ目が合ってしまった。


(あっ、やば……)


 茜は他のクラスメイトたちとは違い、呆れたような視線を私に向けていて、後から説教するねと目だけで伝えて来た。

……先生にに怒られるのは嫌じゃないんだけど、茜や雪乃先輩に怒られている時だけは、少しだけ居心地が悪くなる。だから、出来るだけ怒られたくなかった。


「じゃ、期末テストの時は頑張ってカンニングの証拠を見つけてくださいね。頑張れ、応援してますよ」


 それだけを言って、私は先生に背を向けた。

 この言葉のおかげで、期末テストの時、先生はありもしないカンニングの証拠を探すのだろう。それは、本当に滑稽で、想像するだけで胸がぞくぞくとする。


 やっぱり、信頼ってのは大事だよね。

 先生が私のことを信頼していたのなら、そんな滑稽なことをしなくて済むんだから。


 教室の空気は張り詰めたまま、誰も何も言わなかった。

 私が満点を取っただけなのに、周りの人たちはこんなにも迷惑を被ってくれている。こうなるのなら、満点を取って本当に良かったよ。





「むすー」

「むすーじゃない。ちゃんと反省してね」


 昼休み、私は校舎裏で茜に怒られていた。

 どうやら、先生に対する私の態度が、茜にとっては許容できなかった物らしく、何度も何度も説教されていた。

 正直、ちょっとだけ心に届くからやめてほしい。


「雪乃先輩もなんか言ってください」

「あはは……まぁ、褒められた態度じゃないかな。澪ちゃんらしいけど」


 一緒に昼ご飯を食べていた雪乃先輩も、私のことを咎めてくる。

 ふん、雪乃先輩も見る目が無い。私の何処が悪かったというのか。

 

「私らしい? ならいいじゃん。自分らしく生きるのは大事だよ」

「客観的に自分がやったことが正しいと言える?」

「言えるわけないじゃん」

「そういうところだよ……」


 そりゃね、もし正解という物がこの世にあるのなら、それは先生に喧嘩を売るのではなく、身の潔白を示すことだったはずだ。

 いや、むしろ常日頃から真面目に授業を受けていたら、こんなことになっていない。だから、完全に私の方が悪く、叱られるのは仕方がないことなのだろう。


 でも、怒られるのは少しだけ癪だから言い返してやろう。

 私と友達になろうとしたのは茜なんだ、その程度のことは自業自得だ。


「でもさ、生徒のことを疑ってきた先生が悪くない? それに私はカンニングをしていないんだから、害なんて無いんだから」


 すると、茜が少しだけ目を伏せ、小さな声で呟いた。


「……だって、澪の凄さが理解されないじゃんか」

「……は?」


 思わず聞き返してしまった。

 怒られると思っていたのに、出てきたのはそんな言葉だった。


「澪ってさ、みんなから問題児だと思われてるでしょ。授業中寝てるし、先生に噛みつくし、態度も悪いし、校則も破ってるし……」

「そうだね。仲良くしてる茜や雪乃先輩の方が異常だよ」

「でも、本当は頭がいいし、良いところもあって……それが認められないのは悔しいよ」


 変なの、理解できない。

 それが茜にどんな害をもたらすんだろうか? 私が認められないということは、茜が悔しく思う理由にはなり得ない。


「つまり、最初からわたしはわかってたんだぞ、って大きな顔をしたいってこと?」

「違う! そうじゃなくて……」

「じゃあ、なんなの? それ以外の理由なんて無いでしょ」


 茜が目に涙を浮かべて私を見てくる。

 一体何なんだ? こんなの、一時の感情じゃない。ずっと前から思っていたことをじゃないと……


「ねぇ」


 すると、雪乃先輩が私達の会話に入って来た。


「茜ちゃんは、澪ちゃんが凄いってことをみんなに知ってほしいんだよね」

「……はい」

「それは、自分のためとかじゃなくて、努力が認められないのはおかしいって思ってるんだよね」

「…………はい」


(努力? それがどうかしたの?)


 私が首を傾げると、茜はぎゅっと拳を握った。

 涙をこらえるみたいに、唇を噛んでいる。


「……澪はさ、自分のことを問題児って思われても平気かもしれないけど」

「平気だよ。事実だし」

「確かに事実だけど……でも、努力は認められるべきだと思うんだよ」


 やっと理解できた。私は、悪夢のせいで寝れなくて、夜はずっと勉強している。

 茜は、その努力をテストの点数と言う形で認めてほしいのだろう。


(……そんなこと、考えたことなかった)


 それは、今まで一度も考えたことがなかった概念だった。

 努力なんて、して当たり前。誰にも見られなくて当然。結果が出ても、出なくても、どうでもいい。だって、今までそれを褒めてくれる人なんて一人もいなかったんだから。


「努力って、褒められるようなものなの……?」


 だから、気づけばそんなことを口にしていた。


 自分でも驚くほど小さな声だった。

 茜と雪乃先輩が、同時に目を見開いた。


「褒められるよ」

 最初に答えたのは雪乃先輩だった。

 迷いのない、当たり前のような声で。


「だって、頑張ったんだもん。誰かに見てもらっていいし、褒められていいよ」

「……でも、そんなの……」


 言い返そうとしたのに、言葉が続かなかった。

 だって、そんなこと、知らないことだったから。

 

 茜が、そっと続ける。


「澪は凄いんだよ、夜に寝れなかったとしても、その間ずっと勉強するなんて、わたしだったら絶対に出来ないんだから」

「えっ、え……」

「うんうん、それに茜ちゃんのいじめを見て見ぬふりをしなかった。それも凄いことだよ」

「な、ないこれ……」

 

 頬が熱くなってくる。胸の奥がむずむずして、息が詰まりそうだった。


「澪ちゃんは、もっと褒められていいんだよ」

 

 雪乃先輩が、当たり前みたいに言う。


「……もういい。やめて」


 思わず、言葉が漏れた。

 これ以上聞いていたら、どこに顔を向ければいいのかわからなくなる。


「じゃあ、先生に酷いこと言った罰として、もっと褒めるよ」


 茜が酷いことを言ってきて、悪魔なんじゃないかなって思えてしまう。


「や、やめてってば……ほんとに……」


 声が震えるのが自分でもわかった。必死に否定しているのに、語尾が弱くなる。

 頬の熱も、胸のざわつきも、どうしようもなかった。


「はいはい、じゃあ今日はこのくらいにしてあげる。明日はもっと褒めてあげる」

「……最悪」


 私はそっぽを向いた。

 けれど、頬の熱だけはどうしても隠せなかった。

 

 こんなの、知らない感情だ。

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