表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嫌われ者と生徒会長〜優しさに触れて、解けていく〜  作者: 月星 星成


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/26

25話

 澪side

 

 (なにあれ、意味がわかんない)


 今日は最悪な日だ。茜だけじゃなくて、生徒会長までもがゴミみたいなことを言ってくる。

 馬鹿じゃないの。私のどこが良い子なんだ。私は悪い子で、皆に嫌われていて、いない方がいいと評価されるべき人間なのに。


(みんな見る目が腐ってる。どうしてあんなことを言えるの?)


 歩きながら、指先がじんじんしていた。鞄の持ち手を握る手に力が入りすぎて、爪が皮膚に食い込み、血が出てしまっていた。

 けれど、私は力を緩めなかった。

 

(良い子? ふざけないでよ。そんなわけないでしょ)


 胸の奥がざわざわして、呼吸が浅くなる。怒鳴りたいわけじゃないのに、喉の奥が熱い。

 いつの間にか学校から出ており、靴底がアスファルトを踏む音だけが耳に残っていた。


 でも、もう引き返すことは出来ない。

 今の状態で、あの生徒会長とは会いたくないし、会ってしまったら自分でも何をしてしまうのかわからない。


(家に帰ろう。で、生徒会もやめちゃえばいい)


 生徒会長は本当に腐ってる。だから、もう関わりたくない。

 嫌がらせをしようとしていた私が悪かったことはわかってるけど、あんなことをされてしまうくらいなら、生徒会をやめた方がマシだ。


 それに、他の生徒もそっちの方を望んでいるんだから、そうしたほうが良いだろう。

 それなら誰も損しないし、私も、生徒会も、他の生徒までもが得をする。WinWinってやつだ。そうしてしまえばいい。


(くそ、なんか落ち着かない)


 なのに、胸の奥がずっとざわついている。息を吸っても、肺の奥まで空気が入ってこない。

 嫌なことから逃げるだけでしょ。たったそれだけのことで、なんで心がざわつくんだよ。私らしくない。


「これも、あの生徒会長のせいだ」


 声に出した瞬間、胸の奥がさらにざわついた。

 歩く速度が上がる。帰り道の景色なんて、目に入ってこない。


 信号が赤か青かもよく見ていなかった。

 ただ、足が勝手に前へ進む。


(帰る。もう帰る。何も考えたくない)


 住宅街に入ると、夕方の空気が少し冷たかった。その冷たさが頬に触れるたび、胸の奥がきゅっと縮む。

 家の前に着いたとき、ようやく足が止まった。鍵を取り出す手が震えて、うまく差し込めない。


(……最悪)


 ようやく鍵が回り、ドアが開く。靴を脱ぐ音がやけに大きく響いた。

 鞄を床に落とす。

 そのまま、玄関にしゃがみ込んだ。


 息がうまく吸えない。

 胸の奥がずっとざわざわして、落ち着く気配がなかった。


(なんで……あんなこと言うの)


 その一言だけが、頭の中で何度も何度も反響していた。




――――――――――――――――――――――――――――


 雪乃side



「黒瀬ちゃん、帰って来ないね」

「ほっといたらいいんじゃない? 雪乃が気にする必要はないでしょ」


 わたしの呟きに、美紀ちゃんがそう返してくる。

 確かに、そうなのかもしれない。黒瀬ちゃんは生徒会から一方的に去ったけれど、永遠の別れというわけでもなく、明日になったらまた会えるはずだ。


 けれど、胸の奥がざわついて落ち着かない。


「なんで、帰っちゃったんだろう……」


 きっと、それはわたしのせいなんだ。何が悪かったのかわからないけど、わたしは黒瀬ちゃんの地雷を踏んでしまった。

 そのせいで、彼女は傷ついてここから逃げてしまったんだ。


 胸の奥がきゅっと縮む。

 資料を持つ手が止まり、ページをめくる気にもなれない。


「……わたし、なにか変なこと言ったかな」


 誰に向けたわけでもない、小さな声だった。

 美紀ちゃんは聞こえていないふりをしている。桃井ちゃんも大江ちゃんも、視線を合わせようとしない。


 生徒会室の空気が、さっきより重く感じた。


(あの顔……すごく、苦しそうだった)


 思い出すだけで、胸の奥がざわつく。あのまま帰してよかったのか、何度考えても答えは出ない。

 時計の秒針だけが、淡々と音を刻んでいく。


 その時だった。


「雪乃、帰っていいよ」


 絵理ちゃんがそんなことを言ってきた。


「え?」

「帰っていいよって言っただけ。雪乃の仕事は、私がしておくから」


 絵理ちゃんが、手元の資料を軽く叩きながら言った。その口調は、絵理ちゃんにしては優しく、少しだけ違和感を覚えてしまう。

 もちろん、絵理ちゃんは優しさを持ち合わせている人なんだけど、自他ともに厳しい人であるから、こんなことをしてくれるのは珍しい。


「絵理、どうしたのー? 変な物でも食べた?」

「美紀、うるさい。なんでもいいでしょ」

「またまたー。絵理が優しさを見せるなんて、一か月に一度あるかどうか……って、痛いから叩かないで」


 美紀ちゃんもわたしと同じ感想を抱いたようであり、絵理ちゃんをいじっていた。

 そのせいで、絵理ちゃんは顔を少しだけ赤くして、美紀ちゃんを叩いていた。とはいえ、あまり暴力に慣れていないのか、擬音で表すとぺちって音がしそうな、力の抜けた叩き方だった。


 美紀ちゃんも、痛いとは思っておらず、叩くのを止めるために言っているのだろう。

 でも、今はそれどころじゃない。何でそう言ってきたのか聞かないと。


「絵理ちゃん、いいの?」

「……いいよ。ああなったのは、私のせいでもあるんだし」


 絵理ちゃんは資料を揃えながら、小さく息を吐いた。

 その横顔はいつも通り冷静なのに、どこか申し訳なさそうにも見える。


「そっか。なら、後はわたしに任せて」


 そう言うと、絵理ちゃんはほんの一瞬だけ目を伏せた。

 その仕草は、わたしの言葉を肯定してくれているようで、胸の奥が少しだけ軽くなる。


「……行ってきなよ。雪乃がここにいても、集中できないでしょ」


 そっけない言い方なのに、その言葉に込められた、背中を押す力だけは強かった。

 わたしは立ち上がった。椅子が小さく軋む音が、生徒会室に響く。


(黒瀬ちゃん……)


 胸の奥のざわつきが、ようやく動く理由に変わっていく。わたしは鞄を手に取り、生徒会室のドアへ向かう。


「ごめんね。あとは任せるよ。桃井ちゃんも大江ちゃんも、迷惑かけてごめんね」


 そう言うと、二人は同時に顔を上げた。

 桃井ちゃんは一瞬だけ驚いたように目を丸くし、大江ちゃんは小さく首を振った。


「……大丈夫ですよ、生徒会長。気にしないでください」

「うん。任せて。雪乃先輩は行ってあげてください」


 二人とも、余計なことは言わなかった。その静かな言葉が、かえって胸に沁みる。


(本当に、周りに恵まれているな)


 わたしの周りは良い人ばっかりだ。みんな、他人のことを思っていて、わたしなんかを優しく助けてくれる。だから、わたしも周りのために何かをするべきだ。

 一人はみんなのために みんなは一人のために。その思いを胸に、わたしは黒瀬ちゃんの家に向かって駆け出した。


 たとえ何もできなくても、傷つけてしまうとしても、立ち止まることだけはしたくなかった。

 

(待っててね、黒瀬ちゃん)


 校舎を出た瞬間、夕方の風が頬をかすめた。胸のざわつきは消えないまま、足だけが前へ進んでいく。

 家々の影が伸びていく道を、わたしはただ走った。黒瀬ちゃんの家に向かって。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ