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嫌われ者と生徒会長〜優しさに触れて、解けていく〜  作者: 月星 星成


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21話

「みんな、注目ー! 今日から生徒会に新しいメンバーが入りまーす!」


 放課後、生徒会の仕事をしていると、珍しく遅れてやって来た生徒会長が、そんなことを言い始めた。

 何か変な物を食べたのあろうか? いつも遅刻している私よりも来るのが遅いのは不自然だし、なによりこんなタイミングで新しいメンバーなんて入ってくるわけがないだろう。


 その証拠に、桃井や大江のような一年生だけでなく、茂木先輩や遠藤先輩のような上級生まで、生徒会長のことをぽかんと見ていた。

 誰も状況を理解していない。当然だ。私だって理解していない。


「雪乃……黒瀬に何かされた?」

「茂木先輩、どういう意味ですか? それ」


 すると、茂木先輩がそんなふざけたことを言ってきた。

 いくら日頃の行いが悪いとはいえ、何かあった時に私を疑うのはやめてほしい。というか、疑うにしても、もう少し言い方を選んでほしい。


「別に何もされてないよ。それに、黒瀬ちゃんはそこまで悪い子じゃないから」

「生徒会長も喧嘩売ってます?」

「そんなことより、新メンバーについて紹介するよ」

「逃げないでください」


 私は生徒会長に抗議したが、会長はにこにこと笑ったまま、その言葉を指先で払うみたいに軽く受け流した。ムカつく。


「それじゃ、紹介するね。新メンバーのノートパソコン『Thinkpad X13 Gen 5』でーす!」


……は?


 部屋の空気が、一瞬で凍りついた。

 桃井が手に持っていたペンを落とし、大江は目を丸くして、先輩たちは眉間に深いしわを刻んでいる。


「理事長と相談して、経費で一個だけ生徒会用に買ってもらえたんだよ! 褒めてほしいね!」

「だから、今日はテンション高かったんだね。まぁ、今までパソコンが無かったから、嬉しくなる気持ちはわかるけど」


 遠藤先輩が、半ば呆れたように、でもどこか納得した声で言った。

 その横で、茂木先輩は腕を組んだまま、深いため息をつく。


「で、雪乃はパソコン使えるの?」

「私は使えないよ。絵理ちゃんはどう?」

「……わかった、貸して。初期設定するから」


 茂木先輩は、こめかみを指で押さえながら生徒会長からパソコンを受け取り、初期設定をし始めた。

 私はパソコンについてあまり詳しくないから、WindowsだのMacだのわからないけど、茂木先輩はパソコンについて、ある程度の知識があるようで、画面に次々と出てくる設定項目を、迷いなく処理していった。


「茂木先輩って、こういうの得意なんですか?」

「そうだね。絵里ちゃんは自分のパソコンとかも持っているから、こういうことは任せるといいよ」


 桃井と遠藤先輩が、茂木先輩の手元を覗き込みながらそんな会話をしていた。

 どうやら、生徒会のメンバーでパソコンを扱えるのは、茂木先輩だけらしい。正直、自称進学校の生徒会がこんな状況なのは良くないと思うけど、私は教師じゃないから気にする必要は無い。


(にしても、パソコンか……勉強しないと)


 パソコンを使ったのは、中学の授業で少し扱った程度で、使い方なんてほとんど覚えていない。

 でも、私は生徒会の会計だ。Excelを使うことになるだろうし、数字を打ち込んだり、表を作ったり、そういう作業が増えるのは間違いない。


 私は決して覚えが早いとは言えないけど、時間は有り余っているんだから、その時間を有効に使えばパソコンを扱えるようになるはずだ。


「なら、黒瀬ちゃんやってみる?」

「あ、はい。これってどうすればいいんですか?」

「まず、Excelを開いてーー」


 生徒会長に促されて、茂木先輩に教わりながら、パソコンを扱ってみる。

 関数? 図形? よくわからないシステムが、数えきれないほどあって、予想よりも時間が掛かる。


「そこ、=入れ忘れてる」

「あ、なんか勝手に日付になった」

「それは、『’』を入れればいい」

「何ですかこれ、手書きの方が楽じゃないですか?」

「慣れたらこっちのほうが楽」


 慣れたら楽って嘘でしょ。こんなの一生慣れるとは思えないし、ちょっとしたミスが多発すると思う。

 こんなことになるから、パソコン関連の授業をするべきなんだよ。この自称進学校は。


「大変そうですね……」


 苦戦している私を見て、桃井がそんなことを言って方が、一瞬だけ睨んだ後、それ以上は何も言わなかった。

 この状態を見て大変そうという感想が出るのも理解できるし、そんなことに構っていられるほどの余裕が無いからだ。


 とはいえ、その感想にカチンときたのは本当のことだし、桃井もExcelで一生苦しめとも思っている。

 ただ、このノートパソコンを一番使うのは、会計である私なんだろうけどさ。


「あ、みんないい?」


 すると、生徒会長が急に手を叩いた。

 全員の視線が会長に向く。

 桃井も大江も、茂木先輩も、遠藤先輩も、みんな今度は何だという顔をしていた。


「来週、生活指導週間が始まって、風紀委員と合同で見回りするんだけど、大丈夫そう?」


 みんなの視線が、一気に生徒会長から私に移る。

 私は金髪にピアスを付けているため、こういう話題になると、どうしても注目される。


「なんですか?」

「なんですかじゃないでしょ。自分の格好くらい見直したら」


 遠藤先輩が白い目でこちらを見る。

 その言い方が妙に刺さる。


「……校則違反なのは自覚してますけど、仕事はちゃんとしますよ」

「いや、そういう問題じゃない」

 

 茂木先輩が腕を組んだまま続ける。

 

「見回りに立つ側がその外見だと、説得力がないって話」

「風紀委員にも突っ込まれるかもしれないしね」

 

 遠藤先輩がため息をつく。

 まあ、言いたいことはわかる。

 校則違反の私が校則違反を注意する側に立つのは、確かにおかしい。


 でも、申し訳ないことに、取引の結果として先生に許可されているんだ。

 金髪もピアスも、正式に例外扱いとして認められている。だから本来なら、誰にどう言われようと気にする必要はない。


――はずなんだけど。


(これは面子の話だからなぁ)


 先輩たちが言っているのは、外聞に関することだろう。だから、いくら許可があったとしても、この金髪とピアスで注意する側に回るのは不可能だ。

 そのせいで、どんな言い訳をしたとしても、先輩たちを説得するのは出来ないだろ。ほんと、こればかりはどうしようもない。


「これ、やめるつもりないんですけど」

「あのね、前から思ってたけど、校則は校則なんだよ。いつも遅刻している件もそうだけど、もう少し真面目に生きたら」

「はいはーい、わかりましよーだ」


 気持ち悪い、反吐が出る。

 なんで、私が周りに合わさなければならないのだろうか。ただでさえ、ルールだの同調圧力とかが嫌いだと言うのに。

 でも、これに従うしかなかったんだ。

 

(ほんと、面子って便利だよね)

 

 誰も自分の本音を言わなくて済むし、誰も責任を取らなくていい。

 便利で、汚いくせに、見た目は綺麗に整ってる。汚い部分は、そのまま曝け出せよ。そうだったら、まだ好きになれたってのに。

 

「……じゃあ、注意は全部先輩たちがやってくださいよ」

 

 私は、椅子に深くもたれながら言った。

 声色は軽い。投げやりに聞こえるよう、意図的に。

 

「え?」

「私が注意に回ると、どうやっても説得力がないんでしょ。だったら最初から、期待しないでください。やる気がないとか、協調性がないとか、後から言われても困るんで。あ、私はその間寝ているんで、よろしくお願いします」

「ふざけないでよ!」


 茂木先輩が机を軽く叩くようにして立ち上がった。

 声は低く、空気が一瞬で張りつめる。


「黒瀬は生徒会としての心構えが「絵理ちゃん、落ち着いて」――っ!」


 生徒会長が、まるで会話の隙間に楔を打ち込むみたいに、強引に言葉を差し込んできた。

 声量は大きくないのに、空気の流れが一瞬で変わる。


「喧嘩はしないように、ただ絵理ちゃんが言いたいこともわかるよ。黒瀬ちゃんは、その髪を直すつもりはあるの?」

「ないです」

「それなら、わたしたちが見回りをしている間、わたしたちとは別のことをしてもらうけど、それでもいい?」

「……はい」

 

 短く答えると、生徒会長は満足そうに頷いた。

 茂木先輩はまだ何か言いたげだったが、会長が軽く手を上げて制する。


「じゃあ、それで決まり。黒瀬ちゃんは裏でできる仕事をお願いするね。見回りは、わたしたちでやるけど、黒瀬ちゃんの仕事も重要だから、頑張ってね」

「……了解です」


 椅子にもたれたまま返すと、空気がゆっくりと元の温度に戻っていく。

 桃井と大江は、ほっとしたように肩を下ろしていた。


(はぁぁ、せっかく悪い雰囲気に出来たのになぁ)


 少し前まで茜のいじめに関することをしていたせいで、生徒会の雰囲気を悪くすることに集中することが出来なかった。

 その遅れを取り返すために、こうしてふざけたことを言ったのにね。


 相変わらず、生徒会長はどんなに悪い雰囲気になっても、上手く受け流してしまう。

 まるで、空気の淀みだけを器用にすくって捨てていくみたいに。


「じゃあ、次は資料の確認しよっか。見回りでの注意事項を説明するからね」


 生徒会長が何事もなかったかのように話を進めると、さっきまで張りつめていた空気は、跡形もなく消えていた。


(……ほんと、この人だけは敵に回せない)


 私は小さく息を吐き、ノートパソコンを閉じた。

 悪い雰囲気を作るのも、意外と難しい。

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