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嫌われ者と生徒会長〜優しさに触れて、解けていく〜  作者: 月星 星成


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20/26

20話

 あの取引から一週間が経った。

 いじめていた生徒たちは、あかねの要望もあり、退学や自宅謹慎もなく、厳重注意だけで終わった。


 だが、その注意の中で、いじめた場合に起きる一般的な処分について詳しく聞かされたようで、茜に謝罪し、もう関わろうとはしなかった。


 まぁ、いじめていたメンバーがクラスの中でも中心に近い位置にいた生徒だったため、茜はクラスでも浮いてしまったのだが、いじめの件はこうして静かに幕を下ろした。


 そして、私に新たな問題が降りかかる。


「黒瀬、この点数は何だ?」

「あぁ、この数字は0って言うんですよ」

「そう言うことを言っているんじゃない!」


 新たな問題とは、たった今……小テストが0点だったことで、先生に怒られている件についてだ。


(小テストが朝にあったせいで、寝ちゃったんだよねー。どうせテストをするのなら、夜にしてくれればありがたいのに)


 定期テストならともかく、小テストなんかに価値を全く感じなかったため、私はエナジードリンクを飲まずにテストを受けた。


 そのせいで、名前を書いた後に睡魔に負けてしまって、小テストを白紙で提出してしまったのだ。

 別に後悔はないけれど、先生の説教を受けることになったのは、本当にめんどくさい。


「普段から授業を聞いていないから、こんなことになるんだろ! これからは、授業を聞け!」

「いや、睡眠不足が原因なんで、寝させてください」

「家で寝ればいいだけだろ!」

「それができたら苦労しないんですけどねー」


 はぁ、上手い言い訳出来ないや。個人的には、成績なんてどうでもいいし、退学になっても、ちょっと困るだけで受け入れることが出来るんだけど、先生がそれを許すはずもない。


「はぁ、もういい。後から後悔するのは、お前なんだからな」

「わかりましたよ。中間考査では寝ないように頑張ります」


 先生は、呆れたように私を視界から外した。

 ありがたい、やっと私に何を言っても意味がないことを理解してくれたようで、ここからは何をしたって注意されることはないだろう。


 ほんと、この時代に生まれて良かった。少し前だったら、体罰を受けていたと思うからね。

 ま、そっちでも、別にいいんだけど。

 




「べ、勉強しよ」

「いや……勉強は出来るよ。睡魔に負けるだけで」


 昼休み、いつもの校舎裏で、茜と昼食を食べていた。

 私は、いじめっ子たちにバツが与えられないようにしたいという茜の考えを裏切ったのに、茜は何も言わずにだ私と行動している。


 正直、理解できない。


「でも、テストをちゃんと受けないと、補修を受けることになるかもしれないよ」

「……さっきから思っていましたけど、何でここにいるんですか? 生徒会長」


 いつも通りの優しい笑みを浮かべて、生徒会長は私の隣に座っていた。

 あの取引の後、生徒会長はいじめられていた茜に寄り添い、彼女の望みが出来るだけ叶うように動いてくれた。


 また、茜だけではなく、いじめっ子たちにも話に行って、このいじめを出来るだけ穏便に終わらせた。

 どんな話をして、どんなやり取りがあったのかは知らない。でも、生徒会長は私とは違う方法で、このいじめを終わらせたのだ。


「別にいいよね、茜ちゃん」

「は、はい」

「……いつの間に仲良くなったの?」


 ただ、茜と生徒会長が関わったのは、その一回だけのはずだ。

 なのに、ここまで仲良くなるなんて……嫉妬とかはないけれど、つい問いかけてしまった。


「いつの間にって、一週間くらい前? だよね、茜ちゃん」

「はい」

「いや、そういうことじゃ……まぁいいけど」


 茜の交友関係に口出しするつもりは無いし、生徒会長が誰と仲よくしたとしても、私に損益を与えない。なら、このことを気にするだけ無駄。勉強をしていたほうが、まだ私のためになる。


「じゃあ、この時間のうちに中間考査に向けて勉強しようか。茜ちゃんも手伝ってくれない?」

「……はい、わかりました」

「え、なんで?」


 思わず声が漏れた。

 茜は当然のように頷き、生徒会長はいつもの笑みを浮かべている。


「だ、だって、黒瀬さんに良い点数を取ってほしいから」

「勉強しなくても取れるよ……」

「まぁまぁ、そう言わずに」


 めんどくさい。本当にめんどくさい。

 そう思っても、茜との約束を破って、自分の利益になる取引をしたのは私だし、いじめの後始末を生徒会長に丸投げした部分もあるから、この二人には逆らえない。


 私は箸を置き、背もたれに軽く体重を預け、静かに目を閉じた。 まぶたの裏に昼の光が薄く差し込んで、余計に眠気を誘う。

 勉強は好きでも嫌いでもない。

 ただ、こうして他人にペースを握られるのだけは、どうしても好きになれなかった。


「いいよ、勝手にして」

「なら、第一問。黒瀬ちゃん、これ答えてみて。『as if+過去完了』って、どういうニュアンスになるんだっけ?」


 目を閉じながら、私は口だけを動かす。

 

「まるで〜だったかのように、でしょ」

「じゃあ、これもわかる?」


 生徒会長は、いつもの落ち着いた声で続けた。


「『近代国家の三要素を答えよ』って、何と何と何?」


 私は目を閉じたまま、背もたれに体重を預ける。風が頬をかすめて、髪が少し揺れた。


「領域、国民、主権」

「え、黒瀬さんって頭いいんですか?」


 私がすらすらと問題を答えているのを見て、茜が目を丸くした。その声が少し上ずっていて、驚きが隠せていない。

 私は目を閉じたまま、片方の肩だけわずかにすくめた。


「これくらい常識でしょ」

 

 茜は一瞬だけ固まり、そのあと、ゆっくりと私の横顔を覗き込むように視線を寄せてきた。


「で、でも……授業中、いつも寝てますよね……?」


 その言葉に、生徒会長が小さく笑った。

 私が言うのもあれだけど、この人も性格が悪いと思う。


「わかるものはわかるんだから。それを言うなら、茜はなんで身体を動かせるの?」

「それは……えっと……」

「ほら、身体を動かせるのに理由なんて無いでしょ。ソレと同じ。わかるものはわかるんだよ」


 本当のことを言う気分にならなくて、私はしょうもない言い訳をした。

 理解されたいわけでもないし、そもそも興味を持たれること自体が面倒だった。


 昼の光がまぶた越しにじんわりと差し込んで、眠気がまたひとつ、ゆっくりと沈んでいく。

 風が頬をかすめ、髪が耳に触れて揺れた。


「黒瀬さんって……」


 私を見て茜が呟く。けれど、その先の言葉は続かなかった。

 言いたいことが形にならないのか、それとも、言っていいのか迷っているのか。

 

 でも、私は先を促さなかった。

 

 茜の視線が、ためらいのまま宙に浮いたまま止まる。

 言葉にならなかった音だけが、喉の奥で小さく揺れて消えた。


「眠いから寝る。起きるまで放っておいて」

「授業が始まる前には起こすね」

「……ちっ」

 

 それだけ言って、私は瞼を閉じた。

 どうしようもなく眠いくせに、深い眠りにつくことは出来なかった。

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