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嫌われ者と生徒会長〜優しさに触れて、解けていく〜  作者: 月星 星成


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15話

「おはよぉ、茜ちゃん」

「お、おはようございます。大丈夫ですか? とっても、眠そうですけど」

「いつものことだから問題ない」


 次の日の朝早く、私は茜と約束したところで合流した。

 ほんと、集合時間をこんなに早い時間にした昨日の私を殴ってやりたい。本ッ当に朝弱いんだから、こんな時間に頭が働くわけないじゃんか。


「黒瀬さんは、朝弱いんですか?」

「見てわかるでしょ。というか、日中は基本眠いよ。授業中寝てるから、生徒会の仕事には支障をきたしてないだけで」

「べ、勉学に支障をきたしているんじゃ……」


 勉学なんて、予習と復習さえすれば何とかなるんだから、授業なんて聞かなくていいでしょ。

 そう言おうとして、口を開きかけたところで、あくびが先に出た。涙がにじんで、視界が少しだけぼやける。


「……黒瀬さん、本当に大丈夫ですか?」


 茜が心配そうに覗き込んでくる。

 その距離が近くて、朝の冷たい空気よりも、茜の体温の方がはっきり伝わってきた。


「大丈夫。眠いだけ」

「眠いだけって……」


 茜は困ったように眉を下げた。昨日のあの震える声とは違って、今日は少しだけ柔らかい。

 それが、なんとなく気に入らなかった。

 

「ほら、行くよ。今日から始めるんでしょ」

「はい」

「あ、でも、自販機でエナジードリンク買うから少し待って」


 そう言って、私は近くの自販機へ向かった。

 朝の冷たい空気の中で、金属の箱だけがやけに存在感を放っている。小銭を入れる指先が少し震えて、眠気がまだ抜けていないことを思い知らされる。


 背後では、茜がそわそわとしながら周りを見渡していた。

 その様子は、いけないことをするのに怯えているような感じだ。誰かに見られていないか、気づかれていないか、そんなことばかり気にしている。


「黒瀬さんは、いつもそれを飲んでいるんですか?」


 だから、関係ない話をして、気を紛らわせようとしているのだろう。


「んー、気分かな。授業中は寝ればいいだけだから、飲む必要性は無いからね。……でも、生徒会の前は、大抵飲んでいるかな」


 正直な所、私は絶望的に睡眠時間が足りていない。

 そのせいで授業中に寝てしまっているのだが、それでもまだ足りず、カフェインに頼ってしまっている。……けれど、私は寝たくないんだ。たとえ、睡眠薬を渡されていたとしても。


 とはいえ、これは私の話。茜のいじめとは全く関係ない。私がするべきことは、茜の望みを叶えることだけだ。


「いじめの内容は、ゴミを入れられるのと、物を盗まれることだけだっけ?」

「そう、ですけど……」

「よし、それならアレにしようかな?」

「アレ?」


 私の言葉を聞いて、茜が不思議そうに首を傾けた。

 その仕草は小動物みたいで、怯えと好奇心が半分ずつ混ざっている。


「アレって……何をするんですか?」

「ふっ、簡単なことだよ。これ、何だと思う?」


 私は、わざわざ家から持ってきた小型のカメラをポケットから取り出した。

 手のひらに収まるくらいの大きさで、黒くて、無機質で、朝の光を反射して冷たく光った。


「か、カメラ……ですか?」


 茜の声が一段小さくなる。

 怯えと驚きが混ざった、昨日とは違う震え方。


「そう。録画用の小型カメラ。音声もしっかり撮ってくれる優れモノだよ」


 私は缶を片手に持ったまま、カメラを軽く振った。中のレンズがわずかに揺れて、カチ、と小さな音がした。


「これを、茜ちゃんの机とロッカーに仕込む」

「えっ……そ、それって……」

「いじめているシーンを撮って、SNSに流すんだよ。暴力とかはまだ無いから、そこまでの影響力は無いだろうけど、いじめてくるような奴らはSNSに敏感だから、かなり効くと思うんだよね。あ、もちろん安心してね。茜ちゃんが特定されないようにするし、主犯は私だから、処分されることも無いようにするよ」


 言いながら、胸の奥がゆっくりと熱を帯びていく。冷たい朝の空気の中で、その熱だけが自分のものみたいに鮮明で、ぞくりとした冷たい感覚が、背筋を撫でていく。

 そのおかげで、眠気なんて、一瞬でどこかへ消えてくれた。


 やっぱり、いじめ対策の中で、最も確実なのはこれだ。

 動画を撮るということがかなり難しいのだが、それさえ出来ればあとは一瞬なんだからね。


「で、でも……」

「なに? まだ嫌なの?」


 すると、茜が小さく首を振った。否定の動きなのに、どこか怯えたような、それでいて、頼るような気配が混ざっていた。


「そんな方法は……だめ……」

「相手はいじめてくるんだよ。なのに、まだ気を使うの? やり返される心配をしているわけじゃないんだよね?」

「……うん」

「はぁ、わかったよ。私がするのは、手伝うことだけでしね。せいぜい、SNSに流すよって脅すだけにしておくよ」


 茜がそんなに言うんだったら、それくらいにしておくよ。脅すだけでも、ある程度は楽しめるからね。何もしない、何もできないよりかはずっといい。


(ま、結構危険なことには変わらないけど、茜の方に処分が下されなければ、それでいいんだからさ)


 ただ、この盗撮は、一般的に考えて、してはいけないことだろう。私は、校則を破っているから、この盗撮がとどめになって、自宅謹慎や退学になる可能性も否定しきれない。

 でも、それくらいのことはどうだっていいんだ。学歴なんて、私にはいらない物だし、何より今を楽しめるなら、それでいい。


「それじゃあ、早く行こうか。いじめてる奴らの方が早かったら意味がなくなっちゃうからね」

「う、うん」


 私たちは、学校に向かって歩き出した。朝の光がまだ弱くて、影が長く伸びている。その影の中を踏みしめるたび、胸の奥の熱がゆっくりと広がっていく。

 茜は隣で小さく息を呑んだ。私の歩幅に合わせようとして、ぎこちなく歩いている。


「……黒瀬さん」

「なに?」

「その……ほんとに、やるんだね……」

「やるよ。茜が関わりたくないって言ったんだから」


 茜は視線を落とした。

 その肩が、ほんの少しだけ震えていた。怯えと、頼りたい気持ちが混ざった震え。


 その揺れが、また胸の奥をぞくりと撫でていく。

 

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