表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嫌われ者と生徒会長〜優しさに触れて、解けていく〜  作者: 月星 星成


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/26

11話

「何の用ですか? 生徒会長」

「偶然、黒瀬ちゃんを見かけてね。ちょっと話したいなって思っただけだよ」

「生徒会長も嘘を吐くんですね」


 こんな人気の少ない場所で、偶然見かけたなんてあり得ない。

 この人のことだ。偶然、私を見かけたのは本当のことなんだろうけど、それは校舎の話で、ここまでストーキングしてきたに違いない。

 だから、茜との話は、きっと聞かれてしまっているだろう。


「で、要件は何ですか。寝たいんですけど」

「ここで寝たら授業に遅れちゃうよ」

「いいじゃないですか、どうせ授業中も寝るんですから」


 私がそう言うと、生徒会長は優しく微笑んだ。

 何か面白いことでも言っただろうか? この人の笑いのツボが、まったくわからない。


「あの子、友達なの?」

「いいえ、私に友達なんていませんし、いりませんから」


 私がそう言うと、生徒会長はまた微笑んだ。

 さっきよりも、ほんの少しだけ柔らかい笑み。けれど、その柔らかさが逆に不気味だ。


「そっか。黒瀬ちゃんらしいね」

「らしいって何ですか」

「ふふっ、何でもない」


 こんなつまらない話をするために、生徒会長はここに来たのだろうか?

 いいや、そんなわけはないだろう。この人がここに居るってことは、先ほどの会話を確実に聞かれているし、それを止めに来るはずだ。

 

 私は、生徒会長の笑みが消える瞬間を待つように、ゆっくりと顔を向けた。


「……生徒会長」


 呼んだだけなのに、会長のまつげがわずかに揺れた。

 その反応を確認してから、私は言葉を落とす。


「さっきの話、聞いてましたよね」


 会長の笑みが、ほんの一瞬だけ止まった。

 止まったことを隠すように、すぐに柔らかい形に戻る。


「どうしてそう思うの?」

「理由なんて、いりませんよ」


 私は、会長の目をまっすぐ見た。

 視線を逸らす気はない。そのまま、静かに距離を詰める。


「ここに来た時点で、答えは出てますから」

「……やっぱり、わたしは隠し事が下手だなぁ。あの子、いじめられているの?」


 先ほどまでの柔らかい笑みとは違う形が、会長の口元に浮かんだ。

 笑っているのに、目元の動きがさっきと違う。まぶたの開き方も、声の調子も、どこか別の話に入ったような空気をまとっている。


 私は返事をしなかった。

 会長の言葉の続きを待つためではなく、この人が次に何を言うのかを見極めるために。


「そっか。はぁ、まだ高校三日目なのに、こんなことになるなんてね」

「……私を、責めないんですか?」


 てっきり、私を責めるのかと思っていた。

 先生や先輩に頼らず、いじめられている側の反撃を推奨するようなことをしたのだから。


 けれど、生徒会長は首を横に振らなかった。

 肯定も否定もせず、ただ、少しだけ視線を落とした。


「黒瀬ちゃんは、それが一番いいと思ったんだよね。それなら、責めるわけにはいかないよ」

「……」


 少しだけ、目を逸らしてしまう。ほんの一瞬。すぐに戻したが、その一瞬のずれは隠しきれない。

 確かに、私はこの方法が一番いいと思っている。けれど、それと同時に――この方法は私好みの方法でもあった。

 だから、楽しむために推奨した、と言われても否定はできない。


 罪悪感があるわけではない。

 ただ、胸の奥に置いていた小さな箱の蓋を、誰かに指で軽く触れられたような感覚だけが残った。


「いじめの対処法なんて、正解は無いんだ。だから、わたしの意見と、黒瀬ちゃんの意見が食い違っていても、おかしくはないよ」

「……」

「ただ、わかるのは、黒瀬ちゃんがあの子に寄り添っていただけ。どんな方法であれ、その気持ちだけは本物でしょ」


 綺麗ごとだ、綺麗ごとすぎる。私は返事をしなかった。生徒会長がいない方へと目を逸らし、そっと目を閉じる。

 生徒会長は、私の沈黙を否定もしないし、埋めようともしない。ただ、私の隣でずっと座っていた。


 すると、チャイムの音が、学校中に鳴り響いた。


「遅れますよ、授業に」

「黒瀬ちゃんも遅れちゃうよ」

「私はいいんですよ。でも、生徒会長は……」

「わたしは悪い子だから、遅れていいの」

「……不良ですね。新聞部に言えば、『生徒会長は不良だった!』って記事がばら撒かれますよ」


 私がそう言うと、生徒会長は音を立てて笑い始めた。

 ほんと、意味がわからない。笑うところなんて、どこにもないのに。


「そしたら教えてくれる? 不良のなり方を」

「いいですよ、生徒会長が不良になりたいなら、いつでも言ってください。紙の染め方を教えますから」


 それからは、お互いに無言だった。

 寝るわけでもなく、何かするわけでもない。授業をサボりながら、ただずっと校舎裏のつまらない景色を眺めていたのだ。


 風が吹けば、草が揺れる。

 雲が流れれば、影が動く。ただ、それだけの場所。


 でも、確かに私達は同じ場所を見ていた。


「黒瀬ちゃんは、この景色が好き?」


 すると、生徒会長が口を開いた。


「わたしは好きだよ。自然が身近に感じられて、心が落ち着くからね」

「それなら、私は嫌いです。動きが緩慢すぎて、逆に急き立てられるような気になりますから。こんな景色を見るくらいなら、工業地帯の汚染された景色を見る方が好きですね」


 意味のない、空っぽの会話を続けていく。

 わざわざ授業をサボってまでする会話ではないと思うけれど、私達は悪い子だから、仕方がない。


「黒瀬ちゃんらしいね」

「らしい、ですか」

「うん。綺麗なものより、正直なものが好きなんだなって」


 生徒会長はまた前を向いた。

 草が揺れ、影が伸びる。さっきと同じ景色が、さっきと同じ速度で動いている。

 

 私は、その景色から目を離し、会長の横顔を見た。


「……生徒会長」

「ん?」

「さっきの話ですけど」


 生徒会長も、景色から目を離し、私の目をじっと見つめる。

 恥ずかしくなるほど、真っすぐに私の目を見つめてきて、少しだけ身体がむずむずする。

 

「生徒会長なら、どうしたんですか?」


 出会った日なら、いじめる側を注意して終わりだと予想していただろう。

 でも、この数日で、生徒会長は、綺麗ごとだけではなく、悪意のことも理解しているように見えた。だからこそ、この人がいじめに対して、どのように接するのか、興味がそそられてしまったんだ。


 生徒会長は、私の質問を聞いて、ほんの一瞬だけ視線を落とした。

 けれど、落とした視線はすぐに戻る。再び目が合った時には、彼女の眼の中に、揺れは存在しなかった。

 

「わたしなら、一緒にいるかな」

「一緒に、ですか?」


 私がそう返すと、生徒会長は微笑みながら頷いた。

 

「うん、そばにいるってこと。注意するだけじゃ、いじめなんてやめされられないからね。せめて、わたしが常に一緒にいることで、それを防ぐことが出来ないかなって。……あ、もちろん、教師とかにも話すよ。証拠もしっかりとって、推薦や退学をちらつかせたりもしないと駄目だし」

「……お花畑かと思ってましたけど、現実的な部分もあるんですね」


 私がそう言うと、生徒会長は一度だけ瞬きをした。驚いたのか、否定したのか、そのどちらにも見えない。

 でも、すぐに見慣れた笑顔に変わって、口を開いた。


「確かに、そうかもね。綺麗なだけじゃ、どうにもならないこともあるし」

「……それがわかっているのに、優しさを保てていることが嫌いです」

「そっか。でも、わたしは悪い子なんだけどね」


 私は返事をしなかった。返事をしないまま、前を向いた。

 さっきと同じ景色。

 でも、さっきよりも静かだった。


「そろそろ戻ろうか。サボりすぎると、内申に響いちゃうしね」


 私は立ち上がらず、会長の背中を見上げた。

 生徒会長は振り返らない。振り返らないまま、ただ言葉だけを落とした。


「黒瀬ちゃん。また一緒にサボろうね」


 その声は軽くて、風に混じって消えそうだった。

 私は何も言わなかった。何も言わないまま、揺れる草だけを見ていた。


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ