第245話:プレゼン? は無事に終わり
「それでは、私は研究成果を持ち帰って、更に確実な研究であることを上司に報告してから差し入れを持ってくることになりますので、本日のところはこれで失礼させてもらいます」
「本日はありがとうございました。学生のみんなもそれなりに勉強になったとは思いますが、もしかしたら置いてきぼりにしてしまったかもしれない。次の講義で内容補足をするので安心していてくれ。久保田さんも本日はありがとうございました。これでようやく教える側らしいことを見せられたと思います」
「そうですね。では、また失礼します」
久保田さんが帰っていった。この人も研究畑の人だったのだろう。もしかしたら大泉先生にとっては自分の研究においての先輩のような人だったのかもしれない。話にもホイホイとついてこれていたし、いたって真面目な……そう、本当に真面目な議論だけをしていた。
「ふぅ……」
大きくため息をつくと、背骨が抜けたようにぐんにゃりと曲がりながら背もたれ付きの椅子に座り込み、まるで等身が縮んだかのように小さくなって椅子に腰かけて椅子をグルグルと回しながら遊び始めた。
「わーい終わったー」
「あ、いつも通りに戻ったわ」
「真面目モードはもう終わりだからねえ。いやあ、初めてお会いする相手とは言え、真面目に応対するのは疲れるねえ。こうもっと、君らみたいに和気あいあいと研究やら実験続けるほうが気楽であるのは確かだねえ」
完全にだらけたモードに入った大泉先生にやれやれ……と思いつつも、企業相手に一方的に押し切るではなく、お互いの中間点を探り合ってなおかつこっちのできる範囲の情報を伝えて、将来像を見せつけることができた、という意味では合格点の話し合いであったんじゃないだろうか。
「どうだったね? あれが大人の会話という奴なのだよ。無駄なく論理的に、かつスピーディーに必要なことだけを語り合う。アオいいよね……ああ、いいね。ぐらいの短縮形の言葉が必要なのさ」
「そんなセリフはなかったと思いますが、言いたいことはわかります。がちがちに緊張して余計なこと以外喋る余裕がなかったんですね」
朝日奈が冷静にバッサリと切り落としていく。多分そう言うことだったんだろうな、という雰囲気を彩花も察していたし、俺は最初から最後まで声以外の先生のあちらこちらが震えていたことから気が付いていた。
「君らなあ。そういうところを細かく見るんじゃあないよ。少しぐらい花を持たせてくれたっていいじゃないか。まあ、何はともあれ探索者の力を借りれば魔石の内部のエネルギーについて更に取り出せるということは確定した。後は高出力の装置を組みあげて、それでうまくいくかどうかだな。三勢電力から荷物が届くまでには少しばかりの時間があるだろうから、その間に100ボルトの安定化電源装置部分ぐらい作っておかないといけないからな。君ら電子回路の工作の経験は? 」
授業で習った程度ではある。彩花も一応あるが、大泉先生の求めるレベルで出来るか? と問われると怪しいところだろう。
「僕はあります。趣味でラジオを作った程度ならできます。後ははんだ付けについても問題なく出来ると思いますが、ようやく僕でも仕事ができるようになるんですかね? 」
「そうかい、じゃあ私が回路図を作るから、図面通りの装置を作ってもらうことにしようかねえ。全員にそれを課してもいいけど、複数装置があっても邪魔なだけだし、今まで実地試験で本条君と結城君にやってもらっていた作業の代替……ということで加点しておこうかな。よろしく頼むよ」
そういうと、早速余った書類の裏に回路図を書き始めた。頭の中に必要な部品やら抵抗の大きさ、それからいくつものICチップのデータが入り込んでいるかのようだ。そっちの方面でもササっと回路を作れる辺り、秀才なのは間違いないらしい。
「はいこれ。材料は全部……ここの棚に入ってるから好きに使ってくれていい。できるだけICは熱で飛ばさないようにしておくれよ。活動資金はそれなりにあるとはいえ限度はあるんだ」
「わかりました。早速作りますね」
そういうが早いか、朝日奈も素早く作業に取り掛かり始めた。
「朝日奈君の意外な一面を見られたな」
「あいつにもちゃんと自分の見せ場があったんだな。人は見かけによらない。俺も頑張らないとな」
彩花と頷き合ってる間に朝日奈は図面をそのまま引いたかのように電子回路を基板上に作っていく。
コーヒーを飲んで大泉先生の指示通りに片づけをしていつもの研究室の様子に戻すと、朝日奈が導通チェックをしている。まさか、もうIC埋める以外の部分ができたのか。
「すげえ早いな。もうそこまで組み上がったのか」
「後はチップ乗せて電池で試しに動くかどうか確認して、それでOKという形になるかな。だからほぼ8割ぐらいは完成していると見てくれていいよ」
三十分そこらで一枚組み上げるとは……凄いな。魔石一個の電力量がどれぐらいのものになるかは解らないが、ちゃんと許容電流は取ってあるみたいだし、線も太い。ドライヤーの流す電力をまともに受けるのだから、それ相応の組み込みがされているんだろう。
「どれどれ……うん、安定して100V流れているねえ。後は魔石一個で何アンペア出力できるかにかかってるのだろうが……まあ、魔石一つ使いつぶすぐらいは問題ない。むしろ魔石より今作ってもらった安定化回路のほうがお金かかってるからねえ。安心して後はドライヤーが届くのを待ち望んでいればいいと思うよ」
ドライヤーって強風だと1200ワットぐらい消費するはずだからな。それで一気に流し込めば何Whの出力が得られるのかどうか、魔石一個当たりの単価を含めて再計算されるか、もしくは電力会社の利益幅が大幅に増えるかの差になるだろう。これが当たれば大泉先生も金持ちになる未来があるんだろうか。
「先生は……もし発電方法に特許が取れるなら、特許を取って稼ぐ方法を選ぶんでしょうか? 」
「まあ、そうなるだろうね。さらなる研究を進めるためにもお金は必要だし、研究成果が金になるということを世の中に知らしめないと、研究なんて誰もやらなくなるだろう。それは基礎研究も含めてあらゆるアカデミックな分野においてマイナスしかもたらさないからね。私が稼ぐことで、俺も研究者になって新しい発見が出来たから金になるんだ! と勇んで研究の世界に足を踏み込んでくれることを願っているよ」
アホ毛がくるりんと揺れ、大泉先生の機嫌の良さを表している。どうやら、中々良い質問だったらしいな。
「それに、こんないい女でしかも賢くて金を持ってるだなんて、世の中の男性にとっては逆玉の輿としてはこれ以上の物件はないとは思わんかね。働いて来いとも言わないし、ただ濃いコーヒーを作ってくれるのとちょっと身の回りの世話をお願いできたらそれで充分なんだ。主夫として家に入ってくれればそれ以上文句言わないなんて優良物件じゃないかね? 」
「それ、僕でも応募できますか? できれば今すぐでも応募したいんですが」
話を横聞きしていた朝日奈が早速立候補を始める。
「そうだなあ、嬉しい話だが、これはまず私の研究が成功しないことには難しいからね。それまで待っててくれることも条件に入ってしまうがそれでもいいなら候補として充分考えさせてもらうことにするよ」
「では予約第一号ということでよろしくお願いします」
深々と頭を下げる朝日奈。ぶれないなーこいつ。
「さて……現物が届くまで数日かかるだろうし、これはネット通販しても同じことだ。次回の講義までには届くということで、今日はレポートは無しだ。出席点だけで点数をつけておこうと思う。それぞれ役に立ってくれたこともあるし、平等に評価点をつけていくことにしよう。ドライヤーが届き次第、測定機器の効き具合も勘案しながらまたよわよわエネルギーボルトを頼むことになると思うからそうなったら本条君よろしくね」
「この際だから彩花も覚えてみるか? 体よく顎でこき使われることができるぞ」
「お断りよ、幹也に一任するわ」
「おいおい、エネルギーボルトだって一日潜って出るかどうかわからないぐらいの代物なんだぞ。そう気軽に覚えてみるかなんて言い出すほど本条君はお金に困ってないのかい? 」
「困ってないというより、今年から困らない道を選んだってところですね。今まで溜めこんでいた探索のドロップ品を一斉放出したので、来年は税金を支払う立場になっただけです。それもありますが、いてっ。まあたしかに丸一日かかるのは確かですが、逆に言えば一日で獲得できるものでしかないのでそこは何とでもなる、というほうが正しいんでしょうね」
一日に五、六枚出せるって言いそうになったがぐっとこらえる。危ない危ない。彩花に後ろからつねってもらわなかったらつい本当のことを言いそうになっていた。
「なるほど、そこまでじっくり潜ってきて、しっかり戦って帰ってくるだけの地力はあるというわけかい。まあ、二人になろうと三人になろうと私としては本条君さえ時々力を貸してくれれば……そういえば、本条君の力が無くても稼働できるように考えるんだったな。さて、どうしたものか……あ、君らはもう帰って大丈夫だよ。もう丁度講義終了の時間だし、私は考え事に頭を使うからしばらく動かないと思うのでね」
そういうと椅子をくるっと外に回して、目をつぶり一人瞑想にふけり始めた。こうなったらしばらく動かないんだよなこの人。前は寝ていると思っていたずらしたらいたずらに気づかれたので、寝ているわけではなく、視覚情報を遮断してその分だけ脳を思考に回すキャパシティを増やすための行動だ……とその時言っていたか。
とりあえず、そのままてこでも動きそうにないのでポケットに入っていたカロリーゼリーをデスクの傍に置いておくと部屋から出る。考え過ぎでカロリーが足りなくてまた動けなくなった……などということがないように、最近大泉ゼミに来る時は必ずカロリーゼリーを持ち歩くようになった。
今のところ役に立ったところを見たことはないが、実はこっそり食べているとか、ちゃんと役に立っているとかなら有り難いんだが、一番困るのは引き出しにしまい込んだまま忘れてるパターンだな。まあ、それはないか……と、思い込んだところで今日は遅くまで講義に出ていたおかげで夕食を作る気にならない。夕飯も学食で食べていくかな。
「おし、今日の夕飯は学食。たまには夕飯に手を抜いても怒られないだろうし、今日はよく頭を使ったと思うからカロリーをしっかり取っておこう」
「たまにはいいわね。私も学食にしようかしら」
「じゃあ僕もそうしようかな。結局昼とほぼ同じメンツで食事になったけどね」
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