第244話:プレゼン?
「あー、学生諸君に説明しておくと、久保田さんは私のスポンサーになってくれている三勢電力というベンチャー電力会社の魔石発電の技術責任者だ。今回は、魔石発電の効率化と、魔石からもっとエネルギーを搾り取ることはできないのか? という話題について説明を聞きに来てくれたということだ。顔を合わせるのは今日が初めてでね。今まではメールが主だったおかげでちょっとした勘違いも発生したが、まあ今日は普段の研究内容の発表会を兼ねている。結果がどうであれ、査定に響かせるつもりはないから学生諸君は安心して取り組んでほしい。と言っても説明を共に聞くだけで実際に何かやってもらう、という形のものはなさそうだけどね」
まず、大泉先生がプレゼンを始める。魔石発電が終わった後の現状のゴミ扱いされている魔石くずにも、まだまだ放出されるエネルギーが内包されていることと、その量は魔石発電で発電した際の最大出力の三倍ほどのエネルギーを有していること。
そのためには現状では、探索者のスキルの力を借りてスキルで発電の起動スイッチを押してから、自己保持させつつ電力として消費させていること。そしてその回路がこちらになります、と実物を提示し、きっちり稼働していることと、データを取っており、安定した電力が得られていることと、この調子だと9月頃までは稼働し続ける可能性が非常に高い、ということまでは示すことが出来た。
「それ、もっと早くできませんかね? できるだけ早く結果を知りたいところですが」
「その場合ですと電力消費の元になる明かりをつけ直して……それから回路もいじり直して、と色々やることが増えますからできなくはないですが、蓄積データに一貫性がなくなってしまうのと、途中からのデータになるので一時的にデータ計測を中断させてしまうことになりますがそれは良いんですか? 」
どうやら電力会社的には魔石くずからの発電能力がきっちり読み取ることができる、という方向性の結果を見たいらしい。そっちを優先して結果を出したいところなんだろう。
「この際、ここまでのデータで電力供給の安定性は確保されてると見ていいと思います。それよりも、ちゃんと魔石内部のエネルギーを使い切れるのかという点について、確実に判断するにはこの回路の負荷を高めて短時間で確実に消費し切れているのか……という方向のデータが欲しいですね。それで魔石の内部のエネルギーがゼロであることと、見た目でそれが区別できるのかどうか、そして実際にどれだけの電力が内包しているのか、という点についてもデータが欲しいですね。できますか? 」
「そうですね、装置の組み換え自体はそう難しいことではありませんし、ひたすらに明るい光景をずっと続けておく、というだけになりますから、いっそのこと直流で動作するドライヤーでも繋いでしまえばより確実に電力消費は大きくなるでしょう。そこさえクリアできれば物は確実に電力消費と始動スイッチについては確認できてますから問題はないと考えています。それ以外に気になった点はございますか? 」
大泉先生の頭がギュルルルル……と音を立てているかのように回転しているのがわかる。ここで商機を逃せば他の電力会社に売り込むまでにまた時間がかかると考えているのだろう。
「そうですね……ここまでのデータを一旦まとめて頂いて、安定した電力供給源である、ということを確認した上で、起動シーケンスを確認したいところではありますね。どのような形で現状の動作のスタートを行っているのか。それは誰でもできるようになっている物なのか。誰でもではない場合、どのような条件が必要になってくるのか。そして、最初から魔石に対してアプローチを仕掛けて、一つの発電炉で最初から最後まで発電を行うことができるのか。この辺りがこちらの求める課題ですね」
久保田さんもまくしたてて大泉先生と真っ向から張り合う。研究者同士なのか、なかなか気が合う二人ではあると思える。
「一つの炉で完結するには少々防火設備が必要になるかとも思いますが、二つの能力を持つ人間が携わることが出来れば現状では可能であるとは考えています。が、そこが一番の開発のネックであることに間違いはないんですが……とにかくまずは一旦装置を切りましょう。ここまでのデータを参考としてお持ちください。USBメモリに入れてお渡しするので、ここまでの研究データ、として持ち帰って検討してくださるとありがたいことです」
装置を止め、計測機器を外していき窓際へ装置を持っていく。
「本条君、もう一回スタートをお願いできるかな」
「わかりました。よわよわでいいんですよね? 」
「そうそう、よわよわだ」
使いかけの魔石からエネルギーを吸い取って自己保持回路に乗せるように、よわよわエネルギーボルトを外へ向けて放ち、そして手を離して装置が起動の様子を確認してもらう。
「なるほど、エネルギーボルト……それに限らず、雷系のスキルをスイッチ代わりにして誘導させて中から電気を取り出す、という形ですか。確かにそれなら比較的安価で人材を獲得できて、しかも長時間稼働させ続けることができる。開発の目標としては、このまま人を使わずに発電ができるようになるのは最終目標というところでしょうか」
「そういうことになります。現状ではまだ解決しなければならない問題がいくつかあってそれをクリアしたところで、じゃあどうすればいいのか? というところに行きつくのですが、いずれなんとかしてみせますよ」
起動試験が終わったところで、もう一つの課題について説明を受ける。
「結城君は【火魔法】を使えたはずだな。【火魔法】で魔石のエネルギー発生条件を満たしてから、本条君のよわよわエネルギーボルトで発電を開始できるかどうかも見てみたい。これは私の仮説だが、魔石のエネルギーを利用するには、まず熱作用によって魔石に穴をあけて、そこから魔石のエネルギーを熱に転写させる形で発電を始める必要がある。その後、一定量までエネルギーを使い終わった魔石が魔石くずになるわけだが、一旦【火魔法】を止めて魔石に穴をあけた状態からよわよわエネルギーボルトで魔石に刺激を与えた場合、そのまま魔石くずの中身が空っぽになるまで使い続けることができるか、という実験をしたいわけだ」
「なるほど、趣旨はわかりましたが大丈夫ですか? 魔石に穴をあけた瞬間、私が感電したりしませんか? 」
「それで感電するなら、ダンジョン内で君が【火魔法】を使った段階で手持ちの魔石から漏れ出して感電していただろうから問題はないと考えていいはずだ。今回大事なのは、いわゆる魔石に穴をあける行為をスキルで代替できるのか? という実験だ」
なるほど……と納得した彩花が、外に向かって【火魔法】を放つ準備を始める。
「あ、最初はよわよわファイヤボールで良いからね。また芝生を焦がすと怒られるから」
諸注意が飛ぶが、気にせず彩花は弱めのファイヤボールを撃ち込み、空中で破裂させた。
「魔石からエネルギーを取り出すようなイメージで使ってみましたが、これでいいんですかね? 」
「では次、本条君やってみようか」
言われたままに魔石からエネルギーを吸い出そうとするが、何か上手くいかない。まるで蓋をされているかのようだ。
「ダメみたいですね。どうやら直接魔石を炙ってやらないと反応しないみたいです」
「ふむ……そうきたか……じゃあ、地面に、コンクリートの所に魔石を置いて、よわよわファイヤボールの後にエネルギーボルトを撃ち込んで実験器具にはめ込んでみてくれ」
言われた通り、コンクリの地面の所で彩花がよわよわファイヤボールを発射して魔石の表面を焦がした後、俺が受け取って自己保持回路に魔石を詰め込み、エネルギーボルトを発射して魔石のエネルギーを誘導するイメージで使う。すると、自己保持回路に電気が流れ始め、電球が灯った。
「ふむ……直炙りが必要か。だとすると一つの炉でこの機能を実現する場合はこういう感じの装置が必要になるね」
大泉先生がホワイトボードにキュキュッと回路図を書き記して、それを久保田さんがスマホで写真を撮り、メモ代わりにして行く。さすがにこの辺りの回路の仕組みや、どの部分がどの作用を行っていて意味があるのかないのか……と言うことまではまだ理解できない。そのうち理解できるようにしておこう。
久保田さんと大泉先生が専門用語の羅列と金のかかる話をしている。しかし、これで燃料費が三分の一になるという画期的な方法なら、人一人雇ってスキルを覚えさせて緊急時に出動するために抑えておくような人材がいれば達成できるのだから、充分に経済効果はあるんじゃないだろうか。
「ふぅ、なかなか楽しいですね。学生時代を思い出しますよ」
「産学共同も悪くないでしょう? 機会があれば久保田さんもこちらへ出向してきますか? 」
「いやあ、流石に現場を離れると戻るのが億劫になりそうですからね。そこは遠慮させてもらいますよ」
どうやらこの二人、わりと息が合っているらしい。朝日奈がいいなあ、混ざりたいなあという表情で見ていることからも、あの二人は楽しんで研究をしているんだな、ということがわかる。
さて、後は俺達の出番は何かあるんだろうか。俺と彩花の出番はもう終わってしまったので、後は二人の会話の節々から今後やりそうな課題と話題を調査しておくぐらいのことしかできないんだが。
「とりあえずドライヤーの件はこちらでなんとかしましょう。研究機器ということで稟議を決裁してもらいますので出来るだけ早く手元に持っていかせるようにしますよ」
「それはありがたいですね。こちらも、極小魔石一つあたりで何ワットの電力が出力できるかを正確に記録することが出来そうですからね。ドライヤーなら消費電力も大きいですし、電圧が足りなければ昇圧して無理にでも動かすことが出来そうです。その場合でも消費電力の計測は出来ますからね。ロスを考えても理想的な研究環境になると思いますよ」
久保田さんと大泉先生が握手をしてとりあえず話し合いは終了ということらしい。
「あ、あと最後に一筆お願いします。ちゃんと仕事をしてきました、という確認の書類なので」
「わかりました。どこですか」
今日の所はこれでおしまいらしい。緊張というほどのことはしなかったが、企業との共同開発の形をこの場で見られたのはちょっとした幸運だったかもしれないな。
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