第238話:午後仕事、金集め
午前中に一通り現在地までの調べられることは調べた。まあ、それほど知らなくて損したであるとか、今まで知らなくて困るような内容はなかったため、ダンジョン内部情報の復習といった段階ではあった。
この調子で進めればいいので、今日はひたすら金を稼ぎに行くコース、つまり十一層を効率よく回ってホブゴブリンをどんどん倒していく方向性で行こうと思う。かなり確率は低いがホブゴブリンも【頑健】、【体捌き】、【バッシュ】をくれるので、それ狙いで戦っていくのもいいだろう。
調べたところによると、【体捌き】は身体能力強化とも言われており、全ての行動の模範になるベーススキルと呼んでも差し支えないほどのスキルであるらしい。段差で躓いたり何もないところで転んだり、そういった行動に対しても【体捌き】は反応してくれるらしく、もしかしたら老人ホームで介護老人相手にも必要になってくるスキルなのではないか、とも言われている。
なるほど、【体捌き】は体のすべての行動について補正をしてくれるのだな、と理解を深めるところだ。普通に斬撃を加えに近づいたり、スキルを行使するために立ち位置や攻撃する熱量、威力などについても補正をかけてくれているようなので、すべてに通じるスキルとも言えるのだろう。
そんなわけで、【体捌き】を狙うわけではなく純粋にお金稼ぎとして、十一層にやってきた。ホブゴブリンはそこそこ数がいるので狩り尽くしてリポップの時間を待つ、といった手間がないのもありがたいところだろう。
考え事をしながらホブゴブリンを文字通り殲滅していく。今更手間がかからなくなったホブゴブリン、【威圧】で強制土下座を決めさせた後は首を刎ねるなり、スキルで焼き切るなり、マジックミサイルで圧し潰すなり好き放題にできるが、シンプルにやはり打ち首コースかな。ドロップの魔石を拾う手間を考えるとそれが一番便利だ。
できるだけ近くまで引き寄せて威圧をかけて倒す。もしくは引き付けて全力でスキルを行使して倒す。どちらでも、一撃で倒せるようになったので実際に殴られるまでは問題なく戦えているな。十一層でこれだけ戦えるならもう食い扶持に困ることはないのかもしれない。そういう意味でもうすでに安定した職業には就けてしまっている状態だ。ありがとうアカネ。
そのまま三時間ほどホブゴブリンを狩り続けて、荷物が一杯になったので部屋に戻る。ふむ……これを今すぐ換金にかける、というのは避けたほうがいいな。いくらなんでも溜まる速さが尋常じゃなさすぎる。二回に分けて大学ダンジョンに潜って、しばらく中でお茶を濁してから換金に赴く、といった形のほうがいいだろう。
換金することに躊躇しなくなったのは良いことだが、換金のペースとタイミングはよく考えておかないといけない。スキルスクロールだって本来はポンポン出るようなものでもないし、魔石だってその通りなのだ。本来の10倍の速さでドロップ品が溜まり、万倍の速さで経験値が溜まるからレベルアップしていくので忘れがちだが、そもそも今現在の人類のレベルの最高峰がどのぐらいにいるのかもわからない。
そもそも気が付いてない内にレベルアップを体験している人だっているのだし、レベルアップ現象を知らない探索者や世間の人たちもいるのだ。もし、レベルアップするのが当たり前の世の中になってしまったら。もっと若いうちからダンジョン探索者として慣れておき、ダンジョンでレベルアップをしながら勉強することでより効率的に頭脳や肉体を使いこなすことができる。
そういう話が主流になればダンジョンの探索年齢は引き下げられる可能性は高くなるが、そうなった場合のダンジョン内の出来事や事件についてどういう責任の取らせ方をするのか、というところで問題が発生するんだろうな。未成年をダンジョンに潜り込ませることの問題点。それを洗いざらい綺麗にしたところで、ようやく年齢制限の緩和、という方向性に向かうのだろう。
ただ、今のところ成人したらダンジョン行ってもヨシ、という日本の国のやり方は間違ってはいないとは思うんだよな。自己責任を最初に叩き込まれる場がダンジョンである、というのも現代っぽいし。
そして、高校生のうちにレベルアップを体験してその上で受験に臨める人間、というのは生まれ月に左右されるし、なによりそこまで厳しいレベルアップ条件を課してうまく回る可能性は低い。もしかしたら年に10人ぐらいはでてくるかもしれないし、その為のダンジョン探索者のグループが塾に雇われて専属で待機していて、勉強に詰まったらダンジョンで体を動かして経験値も手に入れる。
隆介のケースで言うと、本人も一人である程度潜っていたようだし、夏休みの集中探索なんかで潜ればレベルの1つか2つは上がりそうではあるが、そこまで大げさに変化を考えることはなさそうだ。ただ、たしかに効果はあるのは間違いないが、レベルを確認する術がないので実際にデータとして計測することは難しい……そうか、そういうものを計測していくというジャンルの研究も有りだな。
ダンジョン活動におけるレベルアップが影響する身体能力や頭脳の発達についての詳細なデータ……これを取るには複数の新人探索者を集めて同じ教育方針で集めて、同時に同じような敵を倒させて、一定の経験値を溜めさせて……とかなり条件が難しくなる。
その間にダンジョンで自主練されたら計算が狂うし、同じような人間を同じ行動原理に置いて、同じ作業をさせて、ほぼ同時にレベルが上がった、という一種の社会実験が必要になるのだろう。これはなかなか難しい課題だな。
ダンジョン学部としては実のある成果ではあるが、前提条件をそろえるのと、途中経過をきちんと記録しておくあたりが難しそうだ。これは実験というより医薬品における治験に近いものがあるような気がする。
部屋に戻ってきて、荷物を整理していつも通り魔石と銀貨をベッドの下の隠し収納に放り込む。満タンにはなっていないが、これだけでも下手な社会人の半月分ぐらいの収入にはなっていそうだ。探索者が稼げる職業なのは解っていたが、それでもこれはちょっと洒落にならんレベルの稼ぎではある。どこのダンジョンでどのようにして稼いでいるのか、と詰め寄られると言い訳がしづらいな。
そういえば今日の探索ではホブゴブリンは何もスクロールをくれなかったな。【頑健】や【バッシュ】はそれだけ出にくいスクロールということなのか、単純に俺に運がないのか。まあ、探索で稼いだお金で買い揃えるという方法もあるのだし、焦る心配はない。この先もお世話になることは確定しているのでその間にスキルスクロールもお金もしっかり稼いで行こう。
さて、夕食はオーク肉のコマ切れを使ったネギ塩炒めだ。豚とネギだけ入っていればお題は回収できるが、それだけではちと寂しいのでキャベツと玉ねぎとニンニクを加えることで一気にスタミナ料理へと変化する。もはやネギ塩ではなくニンニク炒めだと言ってしまっても過言ではないが、美味しければそれでいいのである。
手間も暇もかかっているし、ご飯が炊けているのを確認すると早速作り始める。調味料をあらかじめ混ぜておいて、ニンニクとショウガもすりおろして入れたら、玉ねぎ、にんにくの芯、豚コマを順に熱し、火が通ったところで合わせ調味料を振りかけてしっかり炒めて、タレが煮詰まったら完成だ。これと白米、それで美味しくないわけがない。
アカネが帰ってきたら早速食べることにしよう。それまでは……復習でもしてるか。
◇◆◇◆◇◆◇
アカネが帰ってきたのは夜8時ごろになり、それまでお腹を空かせて待っていることになった。
「ごめんなさい。思ったより手間取ってしまって、本業のほうで時間がかかってしまったわ」
「無事に達成できたならそれでヨシかな。明日は人と会う予定もないし、思う存分料理を楽しめる。ただ、もうちょっと早く帰ってきてくれてると出来立てをそのままお出しできたので神力にもなったと思う」
「せっかくの幹也の好意をふいにしてしまって申し訳ないわ。とりあえずレンジで温めて、その食品の保有神力量を確かめさせてもらいましょう」
レンジアップしてご飯と一緒に盛り付け直して、いただきますをすると、中々の量の神力がアカネに吸い込まれていく。
「これは、本当に惜しいことをしたわね。出来立てだったら相当な量だったでしょうに」
「そうかもしれないな……と、また髪伸びたか? だんだん少女らしからぬ体つきになってきてはいるな」
アカネの発達し始めた胸や出だした骨盤、それにぱっつんだった前髪も自然に横へ流した感じになって、高校生らしさが出始めてきている。これなら校則違反にもならない範囲になるだろう。
後ろへ伸び始めた髪も、ふんわり外ハネしたダウンスタイルアレンジによって、前へ持ってきても問題ないように調整されている。
「アカネの髪形って念じれば自然に変化させられる物なのか? 」
「一応そう言うことになっているわよ。多少面倒くさい髪形でも念じれば髪が許す限りはいろんなアレンジを楽しめるようになっていると思うわ」
なるほど、気分次第である程度は変化できるってことか。
「ちなみに……こんな感じにもできるわよ? どう? 」
そういって、彩花の普段のスタイルと同じツーサイドアップにしてきた。アカネの艶のある黒髪が、栗色っぽい彩花の普段見慣れた髪形と対比されて……ちょっといいな、と思ってしまった。
その瞬間俺からアカネに対して溢れ出す、正直な気持ちの青白い光が流れ出した。しまった! と思ったがもう遅い。アカネがにやにやしながらこちらを見つめてくる。
「そろそろ幹也を誘惑できるだけの成長はしてきたってことね。このまま襲われてしまったらどうしようかしら? 同棲生活も解消して私も彩花の家にお世話になるかもしれないわね」
「襲われて……って、触れないだろうが」
あえてアカネに手を伸ばして、スカッスカッと空振りすることを確認する。
「もし今触れたら襲われてたのかしら? 」
チラッと青白い光が一筋だけ、アカネのほうに漏れ出した。
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