第236話:暇つぶしは専用ダンジョンで
翌日、彩花に一番高い食堂のメニューを奢ると、笑顔と美辞麗句でほめたたえてくれたので、男として見せるところは見せた、というところだろう。さすがに毎回奢れとは彩花も言わないだろうし、俺が元苦学生なのをわかっているだろうから、過剰な期待や金品のねだりなどはしてこないはずだ。
むしろ、自分で稼いで自分で食っていける立場にいるのは彩花も同じなのだから、ふらっとダンジョンへ遊びに来て換金して帰る、といった形でうまいこと調整していくものだと考えられる。俺に頼ってばかりでもいかんな、ある程度は自立しないと。
先日の大泉ゼミでの実験だが、計測はまだ続いている。魔石一個に対して、LED電球一つだけ、という構成では魔石内部のエネルギー消費に多大な時間がかかってしまう、というところに実験継続中に気づいたらしい。これをもうちょっと高出力なものへ置き換えて再度実験をするのはどうか? という意見を挙げてみたが、とりあえずLED電球が壊れるまではこのまま引き続きやり続けてみよう、ということになった。
もちろん、ただまだ動いているからという理由ではなく、電流や電圧の変化によってLED電球が破損することなく、長時間の稼働に耐えるほどの安定した出力が得られている、という証拠を提出することにより、安全な電力供給が出来ますよという説得材料の一つにしようとしているらしい。
「安定した電力供給は電力会社の義務だからね。その安定電力の一つの形としてこの魔石くずリサイクル発電が一助となり、ついでに今まで捨てていた部分のエネルギーを再利用して使うことができるならば、電力会社のロスや燃料費はかなり節約することができると言っても過言ではない。そこに我々の付け入るスキがある、というものだよ」
というのは大泉先生の言い分だが、安定した電力供給というのは確かに大事だな。その点をLED電球という規模であったとしても、成し遂げてきちんと魔石内部のエネルギーを使い切ることができるかどうかを区別するのは大事だと思っている。
ちなみに、このままのペースだと四ヶ月後ぐらいには魔石内部のエネルギーを使い切れそうだ……というのが大泉先生の話らしい。それって前期中にギリギリ終わるかどうか怪しいところなんじゃないのか? という疑問はさておき、無事に使い終えることができるのか、そして、使い終わりに最後っ屁のように急激に燃え上がって中身が無くなっていくような、そういう現象が起きるかどうかというのも観察したいらしい。
なので、実験器具はそのままの状態で大泉ゼミの中に置かれており、今日も二十四時間ゼミの部屋を明るく照らし続けている。眩しくて昼寝が出来ないとぼやいていたのが笑いポイントだが、昼寝じゃなくてちゃんと夜寝てほしいものである。研究者というものは時間と昼夜を忘れて没頭しやすい人物に向いている。
というより、そういう人物でないと研究という世界では生き残っていけないと言った方が正しいのだろう。そういう意味では間違いなく研究者側の人間である我らが大泉先生は今日も講義をにぎわし、コーヒーで盛大に胃を真っ黒に浸しながら研究を続けている。あの小さい体のどこに研究力の湧き出るツボが入っているのだろうと不思議に思うぐらいだ。
思うだけで口に出さずにはいるが、大泉先生のおかげでかなり気分的には楽に講義を受けられているのは間違いない。なんというか、人当たりは良いし聞けばちゃんと答えるし、天気が悪くても自分のゼミにこもりっきりなので連絡は比較的楽に取れる実験の疑問点に答えてくれたり、暇な時の相手なんかもしてくれるので重宝している。
そのことを本人に言うと「君ねえ、私の貴重な研究時間を浪費してまでそれは話すことかい? もっとタイムパフォーマンスを意識した方がいいねえ」などと怒られるので言わないでおくが、たしかにもうちょっと何かできる気がするが、自分の所作や出来ること、稼げる金額や学習面での時間、予習復習……と学生兼探索者にはやることが一杯だ。1コマ2コマの授業の合間に家に帰って潜り込んで……とそこまで細かく設定してしまうと息がつまる。
サボれるところは適度にサボってのんびりゆっくりポイントで時間を潰すことも必要だ。あそこにいると実は有意義な時間を過ごせるし、きっと俺専用のパワースポット的な場所でもあるのだろう。しっかりとエネルギーを補充して、活力を得た後次の授業の用意をしたりするにもなかなかに悪くない。
この後はデータサイエンスか……型落ちPCだが、まだ十分に動くそれを使ってパソコンの基礎知識や動かし方、各アプリケーションソフトの使い方を学ぶ。一度触ったことがあれば直感的にわかるらしいのだが、今までパソコンを触ってこなかった人間にとってはちょっと難しいのかもしれないな。
まぁ、調べたいものがあるとかや、画面を広く使いたいとか、幾つか同時に動かしたいなんかの欲求には答えてくれるだけの性能はあるので、フルスペックのノートパソコンでゲームも同時にやりたい、何て贅沢を言い出さない限りは満足できてるかな、というところだ。
いずれは研究室で研究内容レポートをまとめたり、先生の考えなんかを記録するなりの仕事を分担できるぐらいまでは使いこなせるようにはなりたいな。
さて……そろそろ講義教室に行く時間か。移動を始めよう。早めにいって予習復習がきちんとできてれば難しい単位ではない。きっちりやって、俺の肉になってもらおう。
◇◆◇◆◇◆◇
講義が終わり、明日明後日は休み。となれば、夕食を食べてからは暇つぶしの時間になる。予習復習は日曜日にするとして、今からと土曜日は暇な日、ということになる。だとしたら、やることは一つ、ダンジョンだ。
ダンジョンを解放した以上、これ以上に強く、金を稼ぎ、そして逞しく生きていくのだ。夕食のトマトソースパスタをちゅるちゅるっと気軽に吸い込むと、しっかり咀嚼して消化よく食べきる。今から運動しなきゃいけないから消化の良さは大事だ。一服した後着替えて、ダンジョンに入り込む。
今日の目的は【エネルギーボルト】の確保だ。最低二枚、というところ。ついでに往復の間にオークチーフも倒して、活動資金に余裕が出るようにしておこう。
さて、三層まで真っ直ぐ行って、早速オークチーフを倒しに行こう。時間は貴重だ、道中のモンスターは出会うであろうレッドキャップは倒していく。レッドキャップは【忍び足】をくれる可能性がある分、倒して美味しいモンスターだと言えるからな。
無理に探さない程度で【威圧】で腰を抜かしているレッドキャップを見つけてはプチプチと潰すように首を刎ねていくが、今日の行きではどうやら何も落とさなかったようだ。帰りに期待しておこう。
三層に入りオークを倒すかどうするか悩んだが、放置しておくことにした、肉が食いたければ帰り道にオークを探せばいいだろう。オークチーフのボス部屋に入ってオークチーフに軽く挨拶をして、【威圧】で完全に動きを止めて一気に首を刎ねる。
オークチーフを仕留めた後のドロップは……魔石と肉。肉が出たならオークも無理に倒す必要はなくなったな。ビニール袋にしっかり入れた後、四層五層と素早く移動していく。道中のモンスターは真正面に来たら倒すが、近寄ってこなければ倒さずに進んでいく。今日は時間優先だ。効率よく探索して確実な目的達成をしよう。
リザードマンとトレントを倒しながら進んで、六層まで真っ直ぐ進んでここまでで2時間。帰り道にも2時間かかるとして、ここに滞在するのも2時間ってところかな。
六層に到着したところで喉が渇いたので水魔法で水を出して、口の中に直接注ぎ込む。口の中の座標を指定して、チョロチョロと流し込むだけで喉の渇きをうるおせるのは便利でいい。文句があるとすれば、味がないことと、うっかりタイミングや覚悟を間違えるとむせたり吐き出したりする可能性があるというところかな。
スケルトンを【威圧】をしっかりかけながらきびきびと倒し、マップの奥の雷スケルトンエリアへ到着。ここからも【威圧】を有効的に活用しながらしっかり倒していこう。ドロップする予定の【エネルギーボルト】は予備を残しておく感じで、進む。
十二層まで一人で潜り込んで【雷魔法】を入手できる以上、【エネルギーボルト】を取りに来るのは最後かもしれない。朝日奈と大泉先生がもしかしたら覚えるかもしれない分という意味で調達をしておくのだ。欲しい時に必ず最寄りのギルドに物があるとは限らないからな。
その辺は中谷先生のダンジョンロジスティクスというものにどれだけ頼ることができるかにもよってくるのかな。よそ事を考えながらもサクサクと雷スケルトンとスケルトンアーチャーを始末していく。
っと、数匹目の雷スケルトンで何かのスクロールを手に入れたらしい。高確率で……というかほぼエネルギーボルトだろう。これで目的の半分は達した。最低後一枚、時間までにオーバーしても構わないのでこのままの調子でドロップを続けてくれるとありがたい。
結果、二時間で6枚のスキルスクロールのドロップを入手することが出来た。これで帰ったら……丁度日付が変わるころか。たまには遅寝遅起きをして休日を楽しむのもありかもしれないな。よし、眠くなってしまわないうちに真っ直ぐ帰って、ついでにオークチーフで一戦して、次は何が落ちるか運試しをしてから帰るか。
しかし、オークチーフの山賊刀は中古にしても安かったな。やはり最初の中ボス、ということもあってかなりの数の出回りがあるんだろう。三十分に一回必ず戦えるところからしても、全てのダンジョンではないにせよ、オークチーフが出るダンジョンの数と回数を数えて何が落ちたかを投票してもらって、ドロップ回数をカウントしていればどのぐらいの割合で何が落ちるか、というのは結果が出ていてもおかしくない。
ちょっと海外サイトを覗いてみて……いや、これは明日の暇つぶしの時間にやることにしようかな。今日やってたら寝るタイミングを逃しそうだ。今日は後一回、オークチーフを倒して……と、考え事をしていたらオークチーフのところまでたどり着いたので早速【威圧】で動けなくして倒して終わり。
ドロップは魔石とスキルスクロール。やはり、武器が一番出にくくて【精力絶倫】、【威圧】、肉塊、の順番ということなのだろうか。とりあえず家まで急いで帰ると風呂を沸かして流れるような動作で布団へ入り、明日の朝やることリストを書き残しておくとそのまま眠る。明日は何しようかな……
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