第234話:魔石内残留物質リサイクル試験
実験はなおも続く。そして彩花と朝日奈は実験の結果を観察しつつレポートにまとめる。朝日奈はついでに大泉先生の生態観察も兼ねているらしいが、何を話してどんな動きをしたかまで、正確に記録している。俺だけが実験助手……というより実験を確実に遂行できる人物である、ということでレポートの提出は免除されている分だけこれに協力している、というわけだ。
これで俺にまでレポート提出まで求められていたら俺だけ負荷が高いと文句を言うところだが、俺の分のレポートに関してだけなら、大泉先生の手元で握りつぶしてしまえる……というより、俺がいるからこそできる実験なのだから俺はいわゆる実験器具の一部であり、実験器具がレポートを書くわけないだろう? というのが大泉先生の言い分だ。
実験器具一号本条幹也としては、大いに不満であるが、レポートの提出免除は純粋にうれしい。他のことに手を回せるので確実に空き時間が出来てその分美味しい料理が作れて栄養価も高くなって健康的な生活ができるようになる。
というわけで実験の続きだ。よわよわエネルギーボルトを流して、魔石に対して離れた位置からの魔石のエネルギーの波動のようなものを感じたので、手を止めて自己保持回路に対して俺からのエネルギーの供給を止める。
「お、手放しても動くということは成功かな? 」
「まだだね。魔石の中のエネルギーがきちんと使い切れるか、という点も吟味していかないとならないからね。もしかしたら君のエネルギーボルトのエネルギーが徐々に消費されていって、それが無くなった段階で魔石のエネルギー放射が途中で途切れる、という可能性もあるからね。そこを考えるとまだ時間はかかりそうかな」
そう言うと、パソコン上でタイマーを設定し始めた。どうやら、エネルギーが切れたらタイマーが鳴るように仕掛けているらしい。
「これでよし、と。多少よそ事をしていても音が鳴れば無事にエネルギー残量がゼロになるか回路の電気が止まった際に違った音が鳴るようになった。これで、他の仕事をしながら実験が続けられるぞ」
「じっと見てなくていいんですか? 計測することのほうが大事な気がするんですけど」
朝日奈がここぞとばかりに大泉先生とのおしゃべりチャンスを逃すまいと、質問を投げかけている。
「うむ、これは測定が出来ていて、その経過観察ができていて、最後までエネルギーが使われたかどうか、という結果のほうが重視される実験だからな。例えば途中で一時的に電力の放出量が落ちてしまうであるとか、意外と時間がかかって仕方がないであるとか、そういうものを測定するものではないからな。ここで大事なのは、どういう波形パターン……この場合、電力消費が時間に対してどのような出力を持っているかということと、きちんと魔石内部のエネルギーをスッカスカにできるかどうかという二点だ。この二点をもってして電力会社にアピールして、このシステムを使えばただゴミとして捨ててた魔石からもエネルギーが搾り取れまっせ奥さん、とまだゴミにも使い道があるということを示すところまでだ。そのシステムを作るに際して必要な設備の規模やタイミング、必要な人員やコスト面での工夫なんかは実際に運用する会社に任せればいい。うちの研究はただ、魔石にはまだ三倍使えるエネルギーがある、と声高に宣言して、そのシステムについて発表することが目的だな」
「そこについて、ゼミとして特許を取って電力会社に対していくらか都合してもらったりですとか、研究資金を手伝ってもらうですとか、そういう方面にはまだ早い、ということですか」
「そうだねえ。とりあえずこちらとしては、快く研究材料である魔石くずを供給してもらった恩はあることだし、その分は無償で返しておいても問題ないと考えているよ。それに、まだ現段階では一番コストのかかる原因である人、それも探索者でエネルギーボルト付き、という高コストな人材を配置しておかなくていけない、ということになっているからね。そこを抜きにして、どのような形で運営する技術を確立するか、という本丸に乗りかかっていくかが勝負どころだね。君らは運がいいよ、初年度からある程度進捗があるのがほぼ確定しているゼミ生として立派に所属メンバーに名を連ねることができるのだからね」
「名を連ねる……と言っても、実際に手伝ってるのが幹也ぐらいだから、ただそこにいるだけってのがちょっと気に入らない所ではあるわね。私と朝日奈君も頑張って潜って、エネルギーボルトを使えるようになった方がいいのかしら? 」
彩花は自分が蚊帳の外で勝手に名前を使われて立派な論文と研究成果だけ発表されて、実際には何もやっていない、という状況があまり気に入らない様子だ。多分、誰かにその分野について聞かれた時に正確に答えられるか怪しいところが気に食わないのだろう。
朝日奈は……どう思ってるんだろうな。彩花と同じく、レポートを通じて講義内容、実験内容についてきちんと理解し、人から問われてもきちんと答えることができるようになれるまで頑張ろうと出来るのだろうか。
「二人はまだレポートを仕上げるという作業があるからある意味楽ではあるな。俺の場合はスキルをよわくよわーく使って、それで終わりだからな。結局装置のこともまだ詳しくわかってないし、実験助手としてはちゃんと仕事は出来てるのかもしれないが、まだ一部分しか見えてない、というのが実際の所だ。後はレポートを読ませてもらうか、俺自身の手でレポートを仕上げて実験の内容についてよく理解して咀嚼してそのまま飲み込む必要があるだろう」
「うむ、その気概があるなら結構だ。レポートも出したら加点する、ということにしておこう。実験手順はともかく、至極簡単な機構で設計されているからね。あとは、今日の講義が終わる時までにどれぐらいの魔力消費量を記録しているかの計測と、実際に中身が抜けきった時の時間を計測して、どのぐらいの長さでどのぐらいの出力で、そしてちゃんと終わりまでこの回路が持ってくれるか……という三段階の実験が必要だが、今回は時間の長さと実験終わりの部分についてはカットしよう。おそらく、この装置の消費電力量を考えると二、三日では終わりそうにない。しばらくこの装置はこのままで放っておいて、忘れた頃に結果は出るだろうからそれまでのんびりと待つことにするさ。後は電力消費グラフのタイムラプス動画でも作って、全体を五分間ぐらいにまとめた動画としてご用意しておけばいいんじゃないかな」
いい加減な所はいい加減に作るなこの人は。ちゃんと人に見せる気があるんだろうか。でき上がるものによっては数十億から数千億の金になるという話だというのに、自覚がないのかもしれない。
「先生、今の魔石発電の金額ベースの発電量っていくらぐらいなんですか? その三倍の量のエネルギーが取り出せる実験ってことですよね。そんな適当でいいんですか? 」
「んー? 今のところはね。研究室レベルではここまでしかできないけど、金出してくれて設備作ってくれて、そこで大々的に実験してどうなるかを考えるのは電力会社か電力ベンチャーの仕事だからね。我々の仕事は金を出してくれる、もしくは金を生み出して世の中の利便性の向上に努めてくれるサンタさんの耳元で良い情報ありまっせ兄さん、とささやくのが精々だ。実際に金を持ってるならまだしも、発電装置、特に送電網との発電同期システムや、直流ならインバーターを接続する仕事は電力会社の仕事でしかないからねえ。しょっぱい話だが、仕方がないで済ませていい話ではないかもしれないが、所詮小さいゼミの研究者なんてえものはそこまでやれれば充分だと思うねえ」
背中を曲げたおばあちゃんのようなことを言いながら、緑茶の代わりにブラックコーヒーをグビグビと飲んで、頭の中をスッキリさせている。
ちなみにだが、この大泉ゼミではコーヒーは大泉先生のおごりで経費として出してくれるらしいので、訪れた際にはみんなコーヒーを奢ってもらうといい。漆黒のブラックコーヒーが運ばれてくることだろう。
「さて……というわけで、後は時間一杯までやることはなくなってしまったわけだが、花札か麻雀でもやるかい? もちろん脱衣はなしだが」
「脱衣がなしなら僕は遠慮しておきます。先生を全力で泣かせる楽しみがなくなりますので」
真っ先に断りを入れる朝日奈。
「なにを。私の裸体はそう安くないし、そうそう生徒に負けるほど弱い腕をしている物ではないぞ。教授とか准教授とかそういう人種は、酒とギャンブルにはそこそこ強く出来ているんだ。むしろ、研究というギャンブルが仕事であると言ってもいい。成功するかしないかわからない所に技術と知識と実験を積み上げて、ようやく組み上げた論法が素人質問一つでガラガラに崩れ去ることもある魔境だぞ。そんな所に生息していてギャンブルに弱くていられるか。いい度胸だ、やってやろうじゃないか。脱ぎは本当になしで良いんだな。負けたほうがコンビニで私のお気に入りのコーヒーを人数分買ってくる、というのでいいな」
「うーん、あんまり美味しそうにない商品ですが、先生をいつでも負かせられる、という証明なるならひとつ腕まくりをするのも悪い話ではありませんね。勝負しましょう。こいこい花見月見アリナシどちらでもいいですよ? 」
「では、上級向けに花見月見無しでいこう。私の腕前をとくと見ると良い」
◇◆◇◆◇◆◇
「ひっく……ひっく……結城君、朝日奈君がガチだよう。これ脱ぎアリにしたら本気でタイツの中身までむしり取られてたやつだよぉ」
「よーしよーし、今回は脱ぎなしでしたから大丈夫でしたよー。機嫌なおして、コーヒー買ってきてくださいねー」
三十分後、そこにはマイナス130点というスコアを叩き出してガチ泣きしている大泉先生の姿があった。
「朝日奈、お前容赦なさすぎ」
「いやあ、先生相手に手を抜くのは失礼かなって。次、勝負するかい? 何も賭けなくていいけど」
「そうだな、運試しにはいいかもしれない……いや、流石に時間だ。大泉先生を立ち直らせて、ここまでのグラフの確認と、装置が停止してないことを確認しておかないとな」
「おっと、講義終わりの時間か。先生を泣かせることに夢中になりすぎてて気づかなかったよ」
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