第233話:自己保持回路
今は大泉ゼミの講義中だ。ここのところ、俺の出番が多い大泉ゼミの講義内容ではある。原因は、俺が外部に限りなく問題がないような範囲で魔石くずの中の魔石のエネルギーを取り出せる。そして大泉ゼミとしても、エネルギーを取り出す手段がいくらか存在することも突き止めているので、俺への依存度がちょっとだけ高い状態になっているのが原因だ。
彩花の【火魔法】でも同様に魔石の中のエネルギーを取り出すことが出来ているので彩花でもいいんじゃないか? という話ではあるが、問題は属性だ。これが水魔法や風魔法なら問題は小さかったのであろうが、彩花の専門は火であり、大泉ゼミから火が出たという話になれば、ダンジョン学部全体での騒ぎにもなりかねないし、学舎裏や運動場の隅でこっそりとやるには測定の問題がある。
測定器が高級な上に、学部長からはできるだけ持ち歩かないように厳命されているらしく、そのあたりを考えると彩花の火魔法で盛大に燃やし尽くして魔石のエネルギー残量を減らしていくのは難しい、ということから、気軽に空中を漂わせることが出来て消費も比較的穏やかなエネルギーボルトでの発電実験、ということになっている。
ちなみにだが、【火魔法】で同じことができること自体はわかっているため、人体の介在なしでエネルギーの取り出しができるという状態になった場合、【火魔法】のスキルスクロールを用いた熱発生による発電、というのも視野に入れ出したらしい。何にせよ、手段が複数あることは良いことである。
「そんなわけで、私が自作した回路がここにある。非常に簡単な物であるし、規模も小さいし、今回は魔石のエネルギーの代わりに乾電池での実験だ。こういう回路を自己保持回路というんだが……朝日奈君、スイッチを押した後、手を離してみたまえ」
「はい、わかりました」
朝日奈が大泉先生に言われたとおりにスイッチを押し、電灯が付いた後手を離すと、そのまま電灯が点き続ける。
「一回スイッチ押したら後は自力でグルグル回り続けて停止命令をするまで回り続けるから自己保持回路ですか」
「そうだ。次の我々の目指す場所がここだ。この自己保持の最初の一発をスキルを持つ探索者が行うことにより、一定時間の間、もっと言えば、電気回路につないだ分の魔石のストックが切れるまで、電灯が点き続ける。これを実際にもっと巨大な装置を用いてやってみる、というのが中間完成物の披露ということになる。これによって当面の研究目標である魔石内部の残留エネルギーの利用方法が確立されることになる。これがもっと誰でも使えるようになるには、もう一つブレイクスルーが必要になる可能性は高いが、今のところはこれで納得してもらう、というところには着地できると思うよ」
苦々しくも、一定の所で成果発表しなければならない立場上、現在の状態としてここまでのことは出来てます、今後このようにしたいと思います。というような形として現段階でお出しできるようになるかどうかがここで決まるわけか。後は、実際にその実験が上手くいくかどうかと、その実験の規模をどのくらいのものでやるのか。
もっと言えば、本当に発電素子として利用できる場合は何処までの出力と長時間性を保つことができるのか。その辺は再発電炉、再加熱炉? なんという名称で呼ばれるのかは知らないが、少なくとももう一つ、電力にちゃんと変換できるのか、というところの実証実験がまだだな。
「スキルを使うためのエネルギーとして消費し続けることはできているが、実際に電力として【エネルギーボルト】か【雷魔法】か、どちらかの形で運用したとして、それを本当に電力化できるのか? というところもまだ研究課題じゃないですかね」
「それもそうだな。実際に弱くて細いエネルギーボルトを出してもらって、それでLED電球をつけてもらって自己保持回路の中に取り込めるかどうか、という実験でミクロな単位での立証、というのが今日の課題だな。そんなわけで、電球をちょっと多めに買ってきた。ちゃんと電球の周りに覆いも付けておいたから、盛大に割ってくれて構わんぞ」
そう言うと、実験セットの裏からLED電球の山を取り出してきた。これを一つも割らずに実験を成功させたらこんなに買うんじゃなかった、と悔しがらせることができると思うと、気合が入るな。
「では、一番弱く流すところから始めます。もし、それでも電球が割れるようなら途中の抵抗を増やすなり電球の数を増やすなりして回路の点検が必要なケースもありますよね? 」
「その点は途中の電力消費や電圧、電流値を測定しながらやってるから問題ない。明らかに回路に問題があった場合はそこで止めるように指示する。なので、本条君は安心してよわよわざぁこざぁこエネルギーボルトで電力を発生してもらえばいい。もしかしたらだが、魔石からのエネルギーが強すぎて回路が故障する可能性もあるんだからね。そのあたりもきっちり仕上げていくのがこちらの仕事だからねえ」
割ってもヨシ、なんなら回路ごと壊しても問題はないらしいので、それでも精一杯弱いエネルギーボルトを発射して、それを回路に流し込んでみる。すると、一瞬で電球がプスッという音を立てて電気が通じなくなった。どうやら、一発目で電球をぶっ飛ばしたらしい。
大泉先生のほうを見やると、早速やりやがったな? という顔でニヤニヤしている。うーん、これはエネルギーボルトの出力が強すぎたのか、それともエネルギーボルトの段階では問題はなかったが、その後の魔石からのエネルギーの流れで割れたのかが区切ることが出来ないな。そこをはっきりさせておく必要もあるんじゃないか?
「早速一つ目か、中々良いペースだよ。君のその出力は君の中で言うところの何%ぐらいの出力だったのかね? 」
「そうですね、1%未満、ってところかもしれません。ただ、こっちの電力で割れたのか、それとも魔石くずからの電力が発生してそれで割れたのかがまだ定かではないですね。もしかしたら誘導電流的なものが一斉に発生して、そこから電球に流れて……という側の可能性もあります」
「なるほどねえ。そっちの可能性があるか。では、とりあえず抵抗値を100倍ぐらいにまで高めて、回路全体に流れる電流量を抑えていく方向性で行ってみよう。実際にいくら流れているかは……測るしかないか。何事もまずは計測し始める所から、だな」
大泉先生は検査用のテストピンをあちこちに差し込むと、パソコンで計測を始める。どうやら短いスパンで電流量を計測して、それで回路がどの時点で破損し、電球が割れるようになるかを把握するようだ。俺が電流を流し始めてすぐ割れるのか、それともちょっと遅れて魔石から電力を引き出し始めた瞬間に割れるのか、そのタイミングを拾いたいのだろう。
「では、第二回目やってみようか。今回は時間も測るから、本条君が原因で電球が壊れるのか、それとも魔石からのエネルギーが原因で壊れるのかはバッチリ計測できるはずだ。早速やってみよう。実験は前回の反省を踏まえて新しくやるならば何回やってもいいからね」
さて、また1%未満でよわよわざぁこざぁこなエネルギーボルトを流して……あれ、流れる瞬間は問題ないのなら、まずはエネルギーボルトだけで電流……を流してみて測定するのが先なのでは?
「大泉先生、まず魔石をどかした状態で計測してみてもいいですか? それで綺麗に電気がついて周回させられるならば、こっちのエネルギーボルトでは問題が無くなる、と判断できると思うのですが」
「おっと、私としたことが。君の言うとおりだねえ。まずは魔石のエネルギーを使わない形で、ただの回路接続として使ってみることにするか。それで壊れたらどうせ結果は同じだし、壊れないなら魔石のほうに問題があるという特定ができる。是非ともやってみよう。実験前に気づけて良かったよ」
魔石の入った箱と実験装置を外し回路を直結させ、俺のエネルギーボルトだけで電気が付くかどうかを試す。結果、LED電球は無事に点いた。どうやら俺のエネルギーボルトは無事に雑魚だったらしい。
「問題ないみたいですね」
「そうだね。君のエネルギーボルトが原因で電球に過負荷がかかった可能性はこれで低くなったな。では、改めて実験を始めよう。そうだねえ…とりあえず魔石一個だけ繋いで実験、というところから始めようか。一つずつ確実に、だ。次は魔石一個で試してみて、もし電球が割れたらその時はサブ回路の抵抗を強くして、逃がしてやる必要があるかな。とりあえずまだまだ在庫はある。在庫が無ければ買いに行けばいい。最悪、ダンジョンで稼いで帰って来ればいいしな。全部使い切ったら本条君のおごりということにするか」
「それじゃあ、精々ギリギリまで使い切ってみることにしますよ。でも、余ったら備品の無駄遣いで大泉先生が責められることになりますから、出来るだけ最小手数で済ませたいところですね」
「その意気だよ本条君、君も研究生らしくなってきたね。その調子で理論の提唱と根拠の提示、それから実験と結果、その上で得られたパラメーターを横目にニヤニヤできるようになれば、君も立派な研究者になれるよ」
「なんか先生の言い方だとどことなく心にもにょるものがありますが……まあ、一回生の内から貢献できるって点に関して言えば悪い気はしないですね」
ウキウキしながら回路を組み替えて次の実験の準備をする大泉先生。自分の研究が少しずつ確実に進んでいくのは楽しいのだろう。ここへ来て、確実に見込みのある方法で進捗を進めることができるならば、それほど楽しく脳汁が出まくる作業もないんだろうな。
実際に自分が関わっているとはいえ、まだそこまでの感動を得られていないのは確かだが、それでも人の役に立っていることが確認できているならばそれは良いことなんだろう。とりあえず実験に付き合って結果が出てそれが社会のためになるならそれは確実に役に立ってるんだ。
「じゃあ、次行ってみようか」
「はい、じゃあよわよわエネルギーボルト流します」
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