第229話:休みも開けて
ゴールデンウィークも明けていつも通りの講義が始まる。科目としてはこれと言って苦戦するような内容はなく、家でもできる課題も多いために予習復習も問題なくできている。ただ、他の学部と違ってダンジョン学部には各ゼミの課題もあるため一回生から大変なのは確からしい。
ゼミ生が一堂に集まるダンジョン学部の専門講義においても、どうやらゼミ生同士で固まることが多いらしく、一番人数が多い渡辺学部長のゼミ生は10人を超える一塊になっている。その点3人しかいない我ら大泉ゼミは少々肩身の狭い思いをしているところだが、今後、研究成果を発表する場で実力を発揮できるかどうかにかかっている。
今日の講義内容はダンジョンのでき方と固定のされ方、そしてその内部構造についての学習になるダンジョン学1の講義だ。講義の中の半分ぐらいは探索者講習でやった内容と被るものがあるので、既に探索者資格を持っている者にとっては復習になる部分もあるが、探索者講習では語られなかった部分もあるため、復習にしては中々に内容のあるものとなっている。
ちなみにダンジョン学2の講義では、それぞれのモンスターの社会性や種類特性、それからダンジョンで何故ドロップ品という形でアイテムが落ちるのかなど、ダンジョンの謎について大まかに学んでいく内容になる。
そしてフィールドワークの講義であるダンジョン学3は、実際にダンジョンに潜ってみてダンジョンの感覚や出来具合、それから実際にモンスターと戦ってみてどう感じるかや、それによって生成される魔石の不思議さなどを体感するらしい。
それとは別に、各ゼミでの講義が週に一コマ行われている。見切り発車で一回生をこき使うため週一コマということになっているが、これが三回生四回生になった場合はまた別のコマ数や必須単位取得に関わってくるため、変化する可能性は今後大いにある……と、オリエンテーリングで説明されていたな。
ある意味では行き当たりばったり、ある意味では高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対処することができる新設学部の強みだとも言えよう。
さて、ダンジョン学1の講義だが、どうすればダンジョンが深く巨大に成長していくのか、という点について現状わかっている部分において講義がなされている。
ダンジョンが拡張ないし最初から広い内部空間を保有するにはいくつか条件があり、わかっている範囲で概要をかいつまむと、まわりに他のノーマライズダンジョンがない、もしくは少ない場所。頻繁にインスタンスダンジョンが発生しない場所であること。浅いクイックインスタンスダンジョンが頻繁に発生した直後であること。
つまり、よくわかっていないらしい。全部の都合を当てはめると、一つだけ確実なのは近くに大きなノーマライズダンジョンがないことがあげられているが、真っ当に信用していいのはこの一つだけのようだ。後はなんだか……そう、地震の発生予測みたいなものになっており、頻繁に地震が起きると大きいのがドンとくる、みたいな感じだ。地震雷火事ダンジョン……といった具合だろうか。
しかし、まわりにノーマライズダンジョンが少ない場所なら小さいダンジョンしか生まれない、というのならある程度納得はできる。大きさの大中小を二十層まで、四十層まで、四十層以上と分類する現在のダンジョンの階層変化における状態を信じるとしよう。
そうすると、駅前ダンジョンの周りにはそこまで深いダンジョンはないし、クイックインスタンスダンジョンも三階層まで、その後遭遇したインスタンスダンジョンも、一晩かかったものの、それなりの深さで済んでいたな、ということを思い出す。確かにそういう意味ではこの分類と分析は現状を鑑みるに充分な情報であると言えるだろうな。
今度アカネに詳しく聞いてみて、大学ダンジョンのほうのダンジョンを作ってる人の話を聞かせてもらってみて、実際はどうなのか、という話を仕入れてみてもいいかもしれないな。俺はわかってたぞ、という自己満足でもいいので色々と知りたいことが増えてきた。
そういう意味でも、ダンジョン学部に入っただけの価値はあったと言えるだろう。知識欲を満たせるのは良いことだし、ちょっとした疑問に解決法や答えがサッとお出しされてくる分だけ学部生として所属するだけの価値はあるというもの。後はこの価値を活かして金に換えていけるかどうか……というところが大事な部分だな。
っと、講義もそろそろ終わりの時間らしい。今日はこの後は昼を挟んで一般必修科目だ。今期と来期は上限いっぱいまで必修科目を取り入れたため、ゼミの履修を含めて入れれば暇はそれほどない。家に帰って飯を作って食べてから講義に出る……というケースもあるが、基本的には朝家で作ってくるパターンがほとんどであり、例によってパスタソースとパスタで昼ご飯を済ませることが多い。
これが一番俺にとって手軽で便利で腹が膨れてお安く出来ているからこれでいいのだ。夕食にきちんと食材を使って料理を作っていることは彩花に逐一監視されている。家で食べる際は食事を始める前に写真を撮って今日の夕食ですと報告するか、アカネが彩花にチクりにいくかで報告されているので、今の所怒られたことはない。
そんなわけで、いつものゆっくりスポットに座り込んでのんびりしながら昼食を食べていると、人だかりが出来上がっていることに気づく。俺がそっちを見ると人だかりは何事もなかったかのように通り過ぎたり解散したりしている。これはあれか、俺が食事をしているのを監視している彩花の使い魔みたいなものだな。
昼食で一緒に食べないときはこうやって他の人の目線を使って監視しているのだろう。そっちに手を振ってみると、黄色い声が上がった。なんか違うな。これはもしかして、俺の弁当ではなく俺を見に来ているんじゃないだろうか。つまり、この間のレベルアップで更にいい男っぷりが上がってしまった、ということなんだろう。
先日の彩花とのデートもそれに振り回されてあんまりゆっくりできなかったし、これは本格的に帽子でも深めに被って視線を避ける必要があるかな。いい加減その辺は意識し始めないといけないんだろうが、面倒くさいんだよな。かといってサングラスまでかけて……とやるのはやり過ぎだしかえって逆効果だ。坊ちゃん眼鏡の伊達でもかけて対処するぐらいか?
その内彩花にも質問をしておこう。どうやって対処してるか問題は二人の今後にもかかわってくることだ。彩花もいらん男から声をかけられたり……襲われるのは心配しなくていいか。下手したら襲った方が怪我して病院行きということになるだろうし。
さて、午後の科学哲学に向かうか。彩花も午後からは同じ履修をしているはずだから会えるはずだ。今は自宅で昼飯の最中だろうが、俺も適当に昼飯を食い終わったら早速弁当箱を洗いに帰って、その後次の授業の予習をしておくか。
家に戻ってアカネにただいまを言い、弁当箱を洗う。
「ねえ、昼なのに、わざわざ帰ってきてお弁当箱を洗うなら、お弁当を作って持っていく理由がないのではないの? わざわざ向こうで食べて弁当箱だけ持ち帰ってくるだけ手間じゃないの? 」
アカネからごもっともな質問が飛んでくる。
「それはこうだ。予習が足りない講義があったり、講義の準備に時間がかかるものが控えてた場合、家に帰ってきて昼ご飯食べてゆっくりして……という余裕はない。そして、昼でどうせ同じものを食べるだろうから、とパスタを茹でずに一から茹でることも美味しさの点ではそのほうがいいが、時間がかかるのも事実。できるだけ昼は弁当、と自分で区切りをつけておいたほうが移動にも何にも便利だからだよ」
「なるほど、自律神経を乱さないため、ということなのね。それで今日は余裕があるからお弁当箱を洗いにわざわざ帰ってきた、と。そして、次の講義の予習は意外と少ない時間で終わる、ということでいいのね? 」
「ということでいいのだよ。だからあんまり心配しなくても大丈夫だし、決して無駄な時間を使っている訳でもないということだ。それじゃ、洗い終わったから戻るわ」
「うん、午後も頑張ってね。こっちも次の階層を作るべく、大学のダンジョンに潜入して先を作る準備をしておくわ」
アカネも出かける様子なので二人でドアを閉めて自宅から出て、途中で別れる。自転車があると三分ぐらいで大学まで到着できるのでとてもいいところに引っ越しが出来たな、と納得の場所だ。
交通費を考えても、こっちにわざわざ引っ越ししてきた方が良かったのは今しみじみと感じ入っている。
移動時間分だけ研究や探索、料理にかまけていられる。やはり、通勤時間にしろ通学時間にしろ、短い方が良いのは間違いないらしい。
さて、講義室に入り周りを見渡すと、朝日奈の姿があった。どうやらあっちも予習不足のクチらしい。教えにいっていつか返してもらえるようにたっぷり貸し付けておこう。
「よう、急ぎか? 」
気軽に声をかけると、本から目を離しこちらににこやかに微笑んでくる。朝日奈も顔は悪くないほうで、モブ顔プラス3ぐらいのビジュアルを持っている。俺の自己認識によれば俺より顔が良いかもしれない、という程度には整っているので、教授含めて大泉ゼミの顔面偏差値は高い、ということになるんだろう。
「やぁ、本条くん。こっちも予習の真っ最中って所だね。本条くんも早速本を取り出した辺り、似たようなものなのかな? 」
「まあな。レポートも提出は終わってるし、あとは講義まで暇なんだ。彩花もまだみたいだしな。それまではしばらくお互い予習時間ということだな」
「そういえば、休み中に何度か大学に来たかい? 大泉ゼミがずっと開いてたという話だったそうなんだけど」
「一度は来たな。大泉先生は元気そうに研究の続きしてたぞ。俺らの育成プランも練らなきゃいけないし忙しいとは言っていたがな」
大泉先生の話をした瞬間食い入るような視線でこちらをみる朝日奈。
「いいな、ずるいな。その間、先生の時間を独り占めしていたということだろう? 僕もそんな時間ほしかったな」
こいつの場合マジで言うから油断はできないが……まぁ、話の内容をかいつまんで説明してやれば納得してくれるだろう。なぜ俺が大泉先生と会っていたのを言い訳しなければいけないのか。しかも、彩花相手ではないのに。
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