第227話:ひなたぼっこ
ゴールデンウィーク最終日。昨日は彩花と朝からしっぽりした後買い物に出かけて、彩花のファッションチェックと俺の普段着の買い増しに付き合ってもらった。
彩花のほうはさすがのセンスで何を着てもよく似合っていたが、せっかくなので俺の好みの服装になってもらうことにした。少しだけそれでいいのか? という顔をされたが、俺としてはできるだけ彼女の魅力的な所は独占したい主義なので、それほど目立たず、かつファッショナブルであるんじゃないだろうか? という路線を追求したことにより、地味ではないが派手すぎない、という微妙な針の穴を通す作戦は成功した。
代わりに、俺の服装は完全に彩花の趣味になり、着せ替え人形になることに徹したが、俺の着せ替えを一目見ようとギャラリーが増えてきたあたりでまずいと気付いたらしく、最初のほうに着せ替えられていた二セットを上下で買い揃えると買い物を終えてそそくさと帰った。
ゴールデンウィークはダンジョンもデートもデートダンジョンも保護者同伴もやった。あとやってないのは完全な換金ぐらいだろう。重さ換算で言うと、今30万円分ほどの魔石と、スクロールが底値換算で780万円分ある。これを現金化するか、それとも使うかでまだ腹積もりが決まっていない所だ。
先日の70万円ほどの換金はほぼ全額を経費……つまり、スキルスクロールの消化という形で相殺させたため良いが、今後の探索活動では換金が出来ないのではないか、と心配しているところでもある。一応毎回レシートを取ってチェックしているが、もうあと十数万円ほどダンジョンで稼いでしまうと、税金と保険を支払う必要が出てくる。
とりあえず、家に溜めこんだ魔石やスクロールを引き取ってもらう時の言い訳として「学生の範囲で扶養分だけダンジョン活動頑張る気でしたが、それが無理になったのでまとめて支払いに来ました」と言えば納得してくれるだろう。それまでにベッドの下が魔石やスクロールで埋もれて、はみ出してこなければいいんだが。
夏休みかなあ……それまでは学生の身分を堂々と使って、お気楽気分で過ごそうと思う。さて……今日は最終日、年中開いてる医学部の自習室を除けば、一部のゼミとコンビニぐらいしか開いていない校舎の隙間のゆっくりスポットに出かけて、ボーっとしようと思う。
そんな暇があるなら勉強しろと言われそうだが、明日からしばらくの講義の内容についてはあらかじめ頭に入れられるものは入れてあるので、取り出せば済む話。レベルが上がったことで更に脳の容量と高速化、判別などが可能になったことで、外国語でも問題なくある程度は解釈して話すことができるようになった。これなら外国語で単位を履修しておいても良かったかもな。後期日程や来年に、また考えることにするか。
こっちの大学へ来て見つけた一番のゆっくりスポットへたどり着き、ほっと一息つく。はー……ここはいいねえ。なんともゆっくりしていて、それでいて落ち着いていて。平日でもそこそこの静けさを供出してくれているこの場所が何と言っても一番だ。時間が流れるのを忘れて一時的に目をつぶり、ゆったりと時間が過ぎるのをただひたすらに楽しむ。
もしかしたら、今俺の中では一番贅沢な時間の使い方ではないだろうか。その間にダンジョンに潜ればいくらか稼げるし、勉強するにしてもそう、仮にゼミに所属していてもそうだし、その時間の間にいくらか研究を進めることができるということを考えると、今ギリギリ許された最後の贅沢、という気分にすらなる。
同じように夏休みにまたまとまった時間を取れるとしても、やはり同じようにこうしてゆっくりすることはできないんじゃないだろうか。
「また贅沢な時間の使い方をしてるわね」
気が付くとアカネがその場でふよふよと浮いていた。ついてきてたのか。
「たまたま通っただけよ。メインは彩花の方ね。彩花の料理をごちそうになっていた所よ。その点に関しては幹也より美味しいものを作ってくれそうだからおすそ分けをもらってきたわ」
まあ、たしかに今日のご飯はまた例によってパスタの予定だったが、今日は挽肉ゴロゴロボロネーゼの予定だった。挽肉の分だけ贅沢だとは思うんだが。
「それが出来合いもののパッケージではなく幹也の手作りだったらより良かったのでしょうけどね」
うるせいやい。最終日ぐらい手抜きの飯を作ってゆっくりしたかったんだ。だからこそここにいるわけだし。
「まあ、そうなるわよね。だからこそ彩花の所へご飯貰いに行ったんだけど。あっちはなかなか豪勢だったわよ」
ほう……ちょっと興味が湧いたが、今から行っても多分俺の分は考えてないだろうし、仮に俺の分があったとしてもそれは明日の彩花のお弁当か、夕飯のおかずと被っている可能性が高い。飯が食いたいならあらかじめ連絡しておくのがマナーというものではないだろうか。
「彩花も同じこと考えてたわよ。だからもし出会ったらはっきり幹也の分はないと伝えておいて……とも言づけられているわ。愛されてるわね」
そうだな、そこまで意思疎通が出来ているあたり深い愛情を感じるよ。
「っと……あなた曰く合法ロリが来るわよ。私はうっかり見えないようにもう行くわね。多分、今一番私が見えてはいけない人だろうから」
そういうと、アカネはそのままぷかぷかと浮いて去っていった。そして入れ替わるように、コンビニの帰りの様子の大泉先生が目の前を通りかかり、通り過ぎ、そしてムーンウォーク……できてない。ただの後ずさりで俺を見て何かを言いたげな表情で……そして話し出した。
「ゴールデンウィーク最終日だというのに……もうそんなに呆けてしまって、大丈夫かね本条君」
「何か失礼なことを言われている気がするのは解りましたが、単純に勉強もダンジョンもやることやってもうやることがないんで、好きな場所でボーっとしているだけなのですが」
「と、いうことはここは君のゆっくりポイントに入っているのかね? 」
「一番のゆっくりポイントですね。その辺はゴールデンウィーク明けに課題と一緒に一文章書き下ろしておきましたので、そちらをご確認ください」
「ふむ……ここがゆっくりポイントか……なるほど、たしかに心地いい風が流れているし、気温の高さのわりに暑く感じない。冬も北側が建物でふさがれているから直接北風が吹き込むこともない……なるほどなるほど」
一人で納得しながら俺のゆっくりポイントの解説を始める。ここは俺んだぞ。担当教授とはいえ譲らないからな。キシャー。
「何を私相手に威嚇しているのかね。そんなことをしても取ったり占拠したりしないから安心して良いぞ」
「本当に? 取ったりしない? 」
「しないしない。私のゆっくりポイントは今の教授室がそのものだからな。そういう意味では本条君と私が共有するポイントとなる可能性は少ない。ただ、良いところを知っているなと褒めているだけだよ」
なんだか餌に釣られて誘われていく野良猫の気分だ。気を取り直して普通に相対しよう。
「しかし、休日にもかかわらず熱心ですね。まだ僕らも手伝えるほど知識を蓄えていないのが原因だとはわかってはいるつもりですが」
「そのあたりは育てて様子を見るのも私の仕事だからねえ。こちらの教育方針にもよる所はあるし、何よりまだ入学して一ヶ月だ。そんなひよっこに手伝わせて何らかの成果を出せ、なんて厳しいことを言うつもりはない。こう見えて生徒には優しくきっちり鞭を入れるタイプなんだ。これから厳しくやっていくからな。君らにとってはこの四年間で最後の休みになるかもしれないと思って覚悟をしておいてもらおうかな」
「それは休みに入る前に言ってほしかったかなあ。まあ、夏休み丸っと休みで過ごすことに比べれば、やることが多い分だけ退屈せずに済みそうではありますが」
「君は夏休みが仮にあった場合、何かする予定はあるのかね? しばらく先の話にはなりそうだが」
そういうと、自分のポケットからブラックコーヒーのボトル缶を取り出してカシュッと開けて飲みだした。どうやら、コーヒーはこの人のエンジンオイルでもあるようだ。
「そうですね……今年こそ彩花のご両親にはご挨拶に行かないといけないですかね。あとは、祖父に話を通して、今年から金を稼ぐから扶養から抜ける、という話はしておかないといけませんね」
「なるほど、それは大事だな。お付き合いをするうえでお互いに顔を見知っておいて、清くてエロい交際を続けさせてもらっております、というのは大事だろう」
「エロいは余計ですが、学生時代からの付き合いでもありますし、大学になってから真剣交際、という形になりましたので今後ともよろしくお願いします、と先方に御挨拶に行くのは大事だと思うんですよね」
「それは間違いないな。んくっ。うむ、段々私もエンジンがかかってきたよ。仲人は是非とも務めさせてもらいたいもんだな」
コーヒーを飲んでテンションが上がり始めたのか、だんだん饒舌になっていく大泉先生。今日の暇つぶしにはなりそうだが、先生のほうの研究はいいんだろうか。俺の相手をしてたらその分研究が遅れるって話になりそうだが。
「それで、お爺さんに金を稼ぐから扶養を抜ける、というのは? それだけゴールデンウィークで稼いでしまった、ということかな? 」
「まあ、それに近いですね。一日フルに潜れば下手な会社員よりも稼げるようになってしまいましたから、週1で探索に向かうとしても、それだけでも随分な収入になってしまっているのが現状でして。部屋にまだ未換金の物が残っていて、来年まで待つか、それとも即経費化して細かい金額だけを細々ともらい続けるか……というところまで来ています。スキルスクロールも換金に出してしまえばそれでもう今年の扶養の限界範囲をオーバーしてしまっている状態なんですよね。だからどうしようかと思いまして」
「ふむ……探索者としてもそこそこレベルが高いところまで来てしまっているという事か。ならば、素直に確定申告してしまった方がいいと思うぞ。その様子だと、去年は確定申告ギリギリのラインで止めたクチだろう? 今年から晴れて大学生、ということでもあるし、税金の仕組みをきちんと理解するためにも自分で確定申告をしてみる所から始めるのは悪くないな。法律の都合で手伝えないが、そういう助言はあってもおかしくはないだろうしねえ」
今年から自立した成人になる……というのも目標に入れてしまってもいいな。よし、やれることからやっていこう。
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