第223話:ケンタウロス戦 1
動画を見終わって、大体やるべきことは頭に叩き込んだ。後は実践して、詰め切れないところをその場で詰め切る、ということで二人の意見は一致した。
「危なく感じ始めたら即撤退、でいいね」
「もちろん、来ようと思ったら何度でも来られるし、何回でもチャレンジできるし、邪魔は入らないものね。しっかりやるのはもとよりとして、怪我をしないのが第一ね」
ちゃんとわかってくれているようなので何よりだ。安全第一で行こう。念のため動画をもう一度確認し、前衛スイッチのタイミングでケンタウロスが見せるそぶりを判断して、それが本当にターゲットの変更のクセであるのかだとか、そのあたりを少しばかり確認した後、しっかり休んで体調を整える。そして、十五層に足を踏み入れた。
まずはケンタウロスが存在するであろう、巨石に囲まれた戦闘フィールドのあたりまで進む。道中には浮いた猫こと、ケットシーが体を躍らせながら、アカネのようにぷかぷかと浮いてこちらに気づくと、浮いたままこちらへ寄ってきて、マジックミサイルを時には放ちながら襲ってくる。
「そらきた、アカネの同業者だぞ」
「同業なの浮いてるところだけじゃないの」
「余裕そうでいいわねえ、そっちは」
ケットシーが打ち放ってくるマジックミサイルを回避したり山賊刀ではじき返したりしながら、こっちもマジックミサイルで迎撃、うまく当たれば美味しい一撃、という程度だが、浮いているからと言ってそこまで回避が上手くないケットシーが順番に撃ち落とされていく。このダンジョンだと二匹同時が限界かな。それぞれ彩花と一匹ずつ担当して倒すのがベターなダブル前衛戦闘となる。
三匹目までは出てこないらしい。可能性として二匹のどっちかを倒している間にもう一匹が駆けつけるという状態の密度なので、それほど困ってはいない。ここのダンジョンではゴブリンで同時に四匹出てくるかどうか、というところだろう。それ以外ではおおよそ二匹ぐらいの密度しか出てこないので安心安全であると言える。
もしかしたらこの先もっと数が出てくるのかもしれないが、今のところは心配ない。落ち着いて対処していこう。
ケットシーを十匹ほど倒し、一枚のスキルスクロールは手に入れた。この一枚は高確率でマジックミサイルなので覚えてしまってもいいが、もしもという可能性もある。
「うーん……ちょっと鑑定して、マジックミサイルなら覚えてしまうか。ケンタウロス戦の前にもう一枚スキルが増えるなら安定してより楽に戦えるはずだ」
「それも一つの手ね。覚えることに異存はないわ」
早速、スマホで鑑定サイトにつなげて写真を撮って鑑定してもらって……と、結果はマジックミサイルで当たっていた。なので早速覚えることにする。
覚える! と念じるだけで勝手に覚えてくれるのは便利だが、うっかりミスは結構あるみたいで、売る予定のスクロールを覚えるつもりがないのに覚えてしまって一悶着、というのはちらほら落ちている話。実際には覚えないぞ! と言いながら紙一枚でもいいからなにかを間に挟んでしまえばそれでもう覚えることはないらしい。
覚えるという意思と、直接触れている感触、という二つがキーになっているようだ。というわけで、直接持ってマジックミサイルを覚えるぞ! と念じることで、スクロールの文字が体内に沈み込んでいって、全ての文字が入り込むと、習得完了となる。そして今最後の一文字が体に沈み終わった。これでマジックミサイルレベル6ってとこか。
マジックミサイルのレベルが上がったところで、目的の円形巨石群の中に入り込む。このストーンヘンジのようなストーンサークルの中央に、それは居た。足を曲げてその場に座り込み、静かに槍を地面に突き立てて何かに祈るようなその風景はストーンサークルに対して礼節をわきまえている神官のようにも感じた。
やがて、こちらが或る程度近づくと立ち上がり、その四本の足を伸ばして地面に突き立てていた槍を手に持ち、こちらにぴたりと視線を向けてきた。距離は100メートルほどあるのだが、それでもこちらを見据えてくるのは他のモンスターと比べて明らかに探知範囲が広い、と言えるだろう。
「なんか儀式的な祈りでも捧げていたんですかね」
「そういうことにしておいたほうが神秘的でかっこいいな。さて、立ち上がったということはそろそろ来るぞ」
ケンタウロスがこちらに向かってスピードを上げて一気に突進してくる。早めにマジックミサイルを二連続で発射し、勢いを止められないでもマジックミサイルの残りカスで足元にじゃまをさせ、スピードを殺させるようにうまく配置していく。
「なるほど、マジックミサイルの特性を生かしたいい攻撃ね」
後ろでアカネが感心しているがそっちに割く意識の余裕はまだない。そのまま4発ほど連射し、一つは足元に邪魔になるようにわざと外して撃つ。そのマジックミサイルで足元の邪魔をされてケンタウロスのスピードが落ちる。
ケンタウロスのスピードが再び上がらないうちに、こちらからケンタウロスに斬りこみに行く。その間の牽制として彩花が火魔法で援護。ケンタウロスが余計な行動をとらないようにある程度行動の幅を制限してくれている。
そのままスピードが上がって勢いが乗らないように無理矢理行動を阻害しつつ、ケンタウロスと正面からぶつかる。俺よりも大きいケンタウロスの体躯から、繰り出される槍の振り下ろしを右へ大きく回避、ケンタウロスの槍がないほうへ回避を取って、その間に雷魔法を繰り出して至近距離から雷撃を加える。
ケンタウロスはそのまま雷撃を受ける形になって、少し全身がこわばる。雷撃による一時的な筋肉の硬直が認められるようだ。そして彩花がそのまま後ろから連射するように火魔法を撃ち続け、俺はそれにあたらないように姿勢を変えながら付いたり離れたりしてダメージを蓄積させていく。
ケンタウロスはスキが出来るとこちらに攻撃を繰り出してくるが、かなりの重さがあるだろうその攻撃を受け止めるか純粋に回避するかを毎回気にするが、今のところ受け止めるのは無し、という方向にしている。受け止めて刃が欠けても困るしな、というのもあるが、今のところ武器の予備がない。先日売っぱらってしまったので悪いのは自分だが……やっぱ残しとくべきだったか。
「幹也離れて! 」
彩花から背後に声が飛ぶので振り返るまでもなくそのまま大きく右へジャンプするように回避。俺がいたところに火魔法の三連射が飛んできて、ケンタウロスにぶつかる。ケンタウロスの顔面を焦がした火魔法で、ケンタウロスの意識が彩花のほうへ一瞬向く。
そのスキを見逃さず、ケンタウロスの腕へ斬りこみを入れると、ケンタウロスはまたこっちを向き、そしてこっちに向けてまた槍を繰り出してきた。突き込むように槍を繰り出してくるケンタウロスの点での攻撃を全身でひたすら避け続ける。時には槍を弾いて応戦。そして、体の位置をうまく調節して、彩花が火魔法を撃ちやすい、もしくは攻撃に参加しやすい位置に自分を滑り込ませて後ろから撃ち放題の状態にさせる。
このまま何発ぐらい攻撃と魔法を叩き込めば倒したことになるんだろうな。今の所ダメージらしきものは与えられているものの、ケンタウロスのほうに疲れのようなものはまだ見られていない。もっと確実に物理的な手段でダメージを与えたほうが確実なんだろうか。そう思うとやはり攻めに転じるタイミングが必要だな。
よし、ここはスピードを上げて手数の多さで勝負を決めるか。ケンタウロスが攻撃を繰り出してくるよりも少しだけ早く、三発攻撃を受ける間にこっちは五発攻撃を繰り出すことができる。
「攻略スピードを上げる。手数を増やすからそっちもどんどんよろしく」
「わかったわ」
「がーんばれーまけーるなー」
気の抜けたアカネの応援をよそに、手数でケンタウロスを圧倒し始めた。どうやらケンタウロス、一撃一撃の重さはあるが、スピードはそこまでもないらしい。この攻撃の重さなら……充分に対応可能だな。どうやらレベル補正がかかっているおかげでむしろ軽いとすら感じるほどにケンタウロスの攻撃を往なしていける。
ケンタウロスも負けじと大ぶりな攻撃を始めるが、大ぶりな攻撃程避けやすい。それを避けた後に脇の下や胸元の隙間、それから腕や前足にどんどん切り傷を入れ始める。彩花も魔法で攻撃を続け、彩花のほうにケンタウロスのターゲットが向きそうになると、マジックミサイルと切りつけて再度こちらに気を向けさせる。
段々手数が荒く、そして狙いが不正確になってくるケンタウロス。かなりスタミナを削れているな。どうやら息も上がってきているようだ。もう少しかな。体力はキッチリ削れたようだし、後は時間をかけてじっくりと……というわけにはいかないので、コンスタントに倒していきたいもんだな。
今回のケンタウロス退治は、ケンタウロスのランスチャージを防げた時点で全体の半分の攻略は完了しているといっていい。ランスチャージ、あれは駄目だ。明確な盾役がしっかりと頑丈な盾を持っていないと盾ごと貫かれてダメージを受けることになるから、勢いを殺すか全員で避けて回るかの二択しか取れない。今回は勢いを殺しつつ避けて回る、という両方の策を取り入れることになったが。
あとは細かい手順の確認と、お互いに自分が正面向いて戦うときにどのように注意して戦っていくか。これも動画から学び取った。今回は俺がメインで前を張っているが、もしかしたら次回は彩花かもしれない。彩花もそれを認識していることを望むだけだ。
徐々にケンタウロスの動きが鈍くなっている。攻撃の度に段々フラフラとしてくるケンタウロスの背中を見ると、かなりの火傷を背負っている。どうやら彩花の火魔法がしっかり着弾してダメージを与えているのがよくわかる。これが俺だったら雷魔法かマジックミサイルによるものに代わる、というところだろう。
ケンタウロスが段々ヘロヘロになってきた。戦い始めた当初あった槍の鋭い突きもなく、だんだん落ち着いてきた。そろそろかな。
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