第221話:ゲコゲコ、ゲコッー!
彩花のレベルが上がったところで十二層を抜けて十三層に入る。十三層の領域に入った瞬間から聞こえだす、ゲコゲコの大合唱。前回も同じだったが、【聞き耳】の有無に関係なくここはうるさいところらしい。
「相変わらずうるさいところね。作ってた時も思ったけど、このモンスターのコンセプトは何なのかしら。うるさく近寄ってる間に舌を伸ばして絡めて、探索者を丸呑みする……というものなのかしらね。だとしたら静かに近づいてくる方が……いや、でも他がうるさくて足音が聞こえないという可能性も考えると案外行けるのかもしれないわね」
アカネが自分で作った後、寄り付いてなかったのを証明するがごとく、今更階層のコンセプトに頭を巡らせている。
「ふむ……なるほどね。どっちにしろそういうギミックがある、という前提で考えたほうが良さそうね。だとしたらこのマップはある意味ではよく出来ているわ」
アカネがひとしきり感想戦をし終えて、俺と彩花がバブルフロッグを威圧で黙らせて倒している。バブルフロッグも、威圧を受ければ鳴くのをやめることが分かった。こっちは静かに一つずつ声を潰していっては、地図通りの道を進んでいく。やはり数がそれほど多くないという分だけバブルフロッグは楽な相手ではある。しばらく進むだけで声のする方へ行ってはバブルフロッグを倒し、そして道に戻って作った順路通りに進んでいく。
「うるささがなかなか減らないわね。進行方向に固まりでもしてるのかしら? 」
「さあ、どうだろうな。確かに前回よりはうるさいのは確かだ」
「こんなにうるさいマップだとは思ってなかったわ。これは……でも入れ替えるにしても困るわね、どうしようかしら」
アカネがここをもう通りたくない、という様子でへばっている。自分で作ったマップだろうに。
「まあ、もう少しで十三層も抜ける、そうしたら静かになるからそれまでの辛抱だな」
「私決めた。帰りはワープで一足先に帰るわ。もう二度とあの階層は通らないわよ」
どうやらアカネは賑やかすぎる環境というのがあまりお好きではないらしい。今後はうるさいマップが出てこない可能性は高いな。暑い寒いはあるにしろ、一つ参考にはなった。アカネの弱点を一つ見つけたぞ。
「別にうるさいのが苦手ってわけじゃないわよ。ただ、祠の周辺が静かすぎたから差が大きすぎてちょっと……うん……苦手かも。そうね、苦手ね。やっぱり静かな所のほうが落ち着いていい環境だと言えるわね」
やはり静かな所のほうがいいらしい。さあ、十四層までおそらくあと十分というところだが、騒がしさは鳴りを潜めない。全方向に均等にモンスターが湧いているかのように、あちこちから反響して聞こえているので【聞き耳】で足音を確認するのも少し難しくなっている。
仕方なく目視で確認するが、フラッシュバンに代表されるように、あんまり耳元で大きな音を立てられると人間視覚を駆使することが難しくなる。それで視覚を奪われているあいだに近寄ってきてぱっくんちょと喰われてしまう……というのがこの十三層の仕組みらしい。
アカネはいわゆる霊体なので心配はないが、俺と彩花はそういうわけにもいかない。バブルフロッグに遭遇して口を開けた段階でこちらはスキルを撃ちこんで、バブルフロッグの攻撃を防ぐ。そして口の中でもごもごとダメージを受けている間に近寄って一撃二撃入れて撃破、というのがスマートな流れになるだろう。
バブルフロッグを順番に倒しながら、十四層までもう少し、というところで良い感じの時間になった。お昼の時間だ。だが、さすがにうるさい中での食事というのは危険も伴うし、騒がしすぎてモンスターの接近に気づけない可能性もある。十五層の手前まで移動してからお昼にするか、それとも十五層に入ってからお昼にするか、そのあたりに考えを巡らせながら十三層を抜けた。
◇◆◇◆◇◆◇
十四層はトレント。レッサートレントに比べれば立派な幹と蔦を持ち、蔦は切っても再生されるだけの力を持っている。話によると255本まで蔦を斬り落とせばそれ以上再生しないという噂があるが、そんなことをやる暇があったらとっとと倒してしまった方が気が楽だし時間も手間もかからない。
トレントにも威圧が通じることを確認すると、試し切りの時間だ。雷魔法でズバッと全体にダメージを与えて蔓を一気にはじけさせる。どうやらトレントに対する威圧効果で特徴的なのは、トレントは威圧状態になると蔓の再生ができない、ということになるらしい。こいつは便利だ、実質丸裸にさせたのと同じだ。
そして、最初のドロップで樹液を手に入れる。この樹液は彩花に渡しておこう。彩花は瓶を受け取ると嬉しそうに頬ずりし始めた。
「これが目的だったのよね。ケンタウロスは二の次で、カロリーゼロであふれる甘味。食事に確実に彩りを添えてくれる美味しい蜜。後二本ぐらい持ち帰りたいところね! 」
彩花がここにきて本音を暴露する。アカネのほうを見ると、そっぽを向いた。これは、アカネは最初から気づいてたやつだな。でもまあいい、どうせケンタウロスには挑む予定ではいたんだからその予定が早くなるか遅くなるかの違いでしかない。
トレントを威圧しながら倒して進む。トレントの一番の面倒くさいポイントである、攻撃手段の蔓が再生する、という特性を打ち消せる今、トレントに対して思うところは少々硬くて斬り辛い、というぐらいしかない。本気を出せば斬りおとせなくもないが、それでは山賊刀の刃が悪くなってしまう可能性もはらんでいる。
そうならないようにできるだけ打ち込むのではなく斬るようにイメージしてトレントを倒しているが、そういう時にも【剣術】は役立ってくれるらしく、斬りやすいように体運びをある程度修正してくれるので便利だ。彩花も新しい剣を早速ダメにはしたくない様で、【剣術】の補正を受けながら攻撃しているように見える。
彩花の新しい剣は、フランベルジュ……本来は大型の両手剣の物を指すらしいが、それをレイピアサイズとまではいかずとも、片手で扱えるサイズの剣にまで落とし込んだ一品となっている。おいくらしたんだろう? 彩花も稼いでるとはいえ、俺ほど余裕があるわけでもないだろうに、よほど気に入ったと見える。
「……見ててもあげないわよ? 」
俺が彩花の新しい武器に熱視線を送っているのに気付いたらしい。
「いや、いくらしたのかなと」
「そこそこだけど、今日の稼ぎで一気に取り戻せると思うわ。あと、特売で安かったのもあってそこも含めて気に入ってるの」
お安かったらしい。山賊刀や防具よりも安いということは、それなりの性能を有している、と考えているのか、それとも性能は良いけど見た目のデザインや実際の評判が悪くて売れ残っていたのを買った、という可能性もある。まあ、彩花の好きにすればいいと思う。少なくとも戦闘中に折れたりしなければ、の話だが。
まあ、安かろう悪かろうとも言えなくはないが、掘り出し物を拾った可能性だってあるんだ、そこは彩花の運を信じよう。トレントを殴って斬っている限り、ここで折れるような品物ではないのは確からしいので大丈夫だろう。
十四層を静かに移動する。先ほどと違ってアカネも気楽そうにぷかぷかと浮いている。やはり静かな方が好みらしい。アカネのほうをちらりと見やると、アカネが横まで近づいてきて話す。
「そうね、トレントはそういう意味では相性がいいモンスターかもしれないわね。こそこそとしていて、静かでとても楽なのはいいし、攻撃してこないし。ああ、でもやっぱり樹液の美味しさが楽しみってところはあるわね。今度幹也に何か作ってもらわないと」
「パン食はあんまりしないからな。今度パンケーキをまた焼いて、トレントの樹液とバターを存分にかけた贅沢な奴を作るとするか」
「あら、それは楽しみね。今日のケンタウロス戦が上手くいったらその祝いにでも作ってもらおうかしら」
「妙に急だが……まあ、材料はあるはずだ。最悪急いでパンケーキミックスを買いに行けばいいしな。まあ、うまくいくことを願っていてくれ。うまくいかなかったらふたりともそのままアカネの養分になって終わりだから、それがパンケーキミックスの代わりってことになるのか」
「多分大丈夫よ。そこまでケンタウロスは強くないと思うわ。二人の実力なら充分戦えるし、二対一だし、二人の連携が取れれば上手くいくわよ、きっと」
アカネが微妙な太鼓判を押してくれるが、確実に倒せる、と言い切らない辺りが実力でなんとかしろ、ということらしいな。
まあ、勝ち目がなくて戦うわけではないし、あの様子なら一定距離離れれば、もしくは十四層まで逃げ出れば問題なく逃げ切ることができるはずだから何とかなるだろう。
トレントの生息する十四層は、五層と同じく足元が石畳で出来たダンジョンだ。なのでトレントが蠢く音も石を踏みしめる音と共に、しっかり【聞き耳】で聞き取れる。カサカサ……とほのかな足音を聞きながら、その方向と距離をおおよそ観察することができる。
そういえば【聞き耳】も少しレベルを上げてしまいたいところだな。今度大学ダンジョンのギルドで在庫がないか確認して、あったら二枚ぐらい購入してみよう。そのついでに換金してしまうことにするか。換金と取引を同時に行うことでそういえば購入しに来ました、というほうのイメージが強くなって、ドロップ品については誤魔化せるかもしれない。
よし、スキルを購入する方向でのごまかしをしていこう。これが複数回うまくいくようになれば在庫の処分もできるし、欲しいスキルも手に入って更に資産の整理もできる。これでしばらく何とかなるんじゃないか? よし、その方向性で行こう。
トレントを威圧で制御下におきつつ、彩花と交互に攻撃して倒しては、魔石とトレントの樹液を手に入れつつ、十五層へ向かう。
「十五層に着いたら昼飯にするか。トレント側のほうが少し安全かな。遠距離攻撃してこないだけそのほうが安心できるし、聞き耳を存分に使えるのもこっちだからな。ケットシーの射程距離が完全にわかってるわけじゃない以上、トレントを相手にする方がまだ楽だろう。食事中でも対応するならこっちのほうがいい」
「そうね、アカネさんもいるし、モンスターが近寄った時の備えは万全だしね」
「まあ、それぐらいはやらせてもらうわ。その代わりお昼ごはんには期待してるからね」
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