第191話:第一関門・共通テスト
三学期が始まってから二週間ほどして、ついに共通テストの日がやってきた。日がやってきたといっても、どこぞのコピペネタのように今日だけ……等とボケるつもりはなく、ちゃんと二日間かけてテストが行われることは把握済みだ。
今日明日で、この三年間の集大成、もっと言えば小学校から積み重ねてきた人生の合計が得点として返ってくる大事な日でもある。
俺としてはこの一年のレベルアップでどこまでできるようになっているのか、という確認の日でもあり、アカネのおかげを盛大に実感する感謝の日でもある。腹の調子もよく、頭の回りも悪くない。試しに単語カードを取り出して順番に読みふけるが、問題もなし。
どうやらアカネのおまじないは無事に機能してくれたようである。後は行くまでの道で交通事故に遭ったり脱線した列車が突っ込んできたり、両耳イヤホンスマホの自転車に突っ込まれたりしない限りは大丈夫だと思う。
いつも通り弁当を作り、アカネに供えてついでに今日を無事に迎えられたことについてお礼を言う。
「私のまじないはよく効くのよ。普通にお祈りするよりも直接付与したんだから効果は間違いないわ。安心して、自分の実力を全て出し切って来なさい。そして帰ってきたら、ちゃんと明日の分の予習もしておくのよ」
「わかってるよ。世の中の受験生は両親に同じことを言われながら応援されて家を出てるんだと思うと感慨もひとしおだな」
「さあ、昔なら火打石をカチッとやってゲン担ぎをするところだろうけど、代わりに何かできることはないかしらね」
「そうだな……無事に帰ってくるって約束で指切りげんまんとかどうだ」
「そうね、その方がより私っぽいかもしれないわね。ゆーびきーりげんまん、点取れなかったら針千本のーますっ」
指は最初から切れているし実際につなぐことが出来ないが、なんかそれっぽい気分にはなれた。これはこれで良しとしておこう。
「じゃあ、行ってくる。できるだけのことはやってみるよ」
「頑張りなさい、私の幹也。今の貴方ならちゃんとできる、肩の力を抜いていつも通りやってればいいわ」
「おう」
家を送り出され、試験会場まで時間に余裕をもって出かける。彩花も同じ会場なので、途中の駅で出会い、普通にハイタッチして会場まで一緒に行く。もう、付き合ってることは表向きにしてもいいらしい。思えば文化祭の時からそうだった、と言えなくはない。
ただ最近は学校でも、付き合っててもお互い勉強と人づきあいがあるし、会いたければ彩花のほうから会いに来るのでわざわざ昼食時に会いに来るとかそういうわけでもなく、俺もいつものところで食事をするほど寒さに強くないので学校に行ってる間は出会う機会が極端に少なかった。今日もなんだかんだで三日ぶりの顔合わせということになる。
「余裕そうね」
「そんなことないよ。アカネにしっかり送り出されてきてはいるけど、その背中を押されたおかげで身軽に出てこれたところだ」
「私もそっちに寄って、ひとつお参りしてから来ればよかったかしら。ご利益の確かさは間違いないんだし、最後の一息入れてもらうべきだったかもね」
本来ならこの短い時間も最終確認に使うべき時間なのだろうが、それよりも緊張をほぐす方に使うのを彩花は選んだらしい。
「さて、肩の力を抜いて気張っていくか。初日のほとんどは暗記項目だし、リスニング以外は基本的には通過できるはずだ」
「勉強のおかげで暗記は得意なのよね。同じくリスニング以外は何とかなりそう」
「ふむ……彩花は作者が思っていることを書きなさい系の問題とかは大丈夫なほうか」
彩花はあれ系の出題者の意図や論理展開を読み解くのは苦手ではないらしい。いいなー。
「まあ、やるだけのことはやった。傾向と対策は完璧とは言い難いができるだけの追い込みはかけた。時間までに最後の追い込みをかけたり、暗記科目に思いをはせたりしよう」
「今日の午前は一科目だけだから余裕があるんじゃないかしら? それも得意の暗記分野だし、落ち着いてやれば8割から9割は取れるはずよ」
「そうだな。選択も世界史だし、苦になる要素はないはずだ。大体頭には入ってるはずだし、傾向は掴んでるし……まあ、大丈夫だろう。後は天運かな。まあ、どうやら神様には好かれてるようだし、大丈夫でしょ」
試験会場までのバスに乗り換え、試験会場に着く。みんなこわばった表情の学生たちが続々と各地から集結しているのが分かる。人によっては家から直接送ってもらって、車の中で「頑張ってね」と声援を飛ばされており、人によっては一家総出でお見送りって感じらしい。
送り出しのために万歳三唱とかされてるイメージが浮かんだが、流石に平成や昭和の後期の時代ではそれもないんだろうな、と思うと何十年と繰り返されてきた儀式なのだな、とも感じる。共通一次やセンター試験と名前を変えてきてはいるものの、受験する側の心構えと周りへの影響、そして期待と不安に押しつぶされる受験生。
これらも脈々と受け継がれてきたんだろう、等と感慨にふけっていたいところだが、俺自身もその押し潰されそうな受験生の一人であることを思い出す。なんだか余裕があるな。この余裕をもってそのまま一日二日と済ませてしまうか。うんうん、この調子を持たせていこう。
自分の受験教室を確認して自分の席を確認。いたずらや立て付けの悪さや、そういうちょっとした気になることや不具合、その他いろいろを気にしては何もないことを確認した後で席に座る。ケツでぐらぐらと椅子を揺らしてガタガタ鳴ったりしてないか。
ふむ、何事もなし、か。椅子に座ってる間にボルトが一本折れたりとか、そう言うこともないらしい。本格的に何事もなし、ということだろう。これもアカネのおかげというあたりだろうか。細かいところにも気配りが行き届いたいいおまじないをもらった。
さて、後は試験に臨んで、一通りやるだけだ。せっかくの一生に一回の試験だ。せいぜい楽しんでやっていこう。受験を楽しんでやれるだけの心の余裕があれば、二次試験も緊張なく赴けるはずだ。さあ、がんばろっと。
◇◆◇◆◇◆◇
午前も午後も問題なく終わらせることが出来た。なんだかんだで過去問で傾向と対策をきっちりと出来たし、国語の作者の意図もほぼ読み取れたと思うし、英語のリスニングもリーディングもきっちり聞き取り読み取れたし、心配することはないな。後は明日の理系科目がどれだけ伸ばせるかにもよるな。
彩花を待ってから、きちんと地元まで送り届けるつもりで待ち合わせをする。昼休憩の時も、お互いの緊張をほぐし過ぎて逆に取り組みが難しくならないように、後余計な知識を入れて邪魔をしあわないように、と昼ご飯はそれぞれで食べたため、午前の成果はどうだったか、午後の成果はどうだったのか、というのはこれから確認するところだ。
彩花はゆっくり教室から出てきた。そして教室から出てきて俺の目の前まできて、深呼吸を一つ。
「どうした、うまくいかなかったとか? 」
「まって、今明日への気合を入れてるところだから」
どうやら、出来が悪かったわけではないらしい。とすると、今日の一通りをやり終えて魂が抜けそうな状態を今必死に体の中に詰め込み直している、ということなのだろう。一日目が終わって気が抜けて二日目失敗した、なんて話も聞いたことはあるし、逆に一日目の失敗を引きずりすぎて二日目にうまく移行できない、という話もある。
自分が同じ目に遭わないように失敗話として先に取り込んでいたケースの中にもそういうものはあったので、自分が同じ轍を踏むことはない、とは言い切れないが可能性は随分下げられたと思う。
一通りの整った変顔と奇行を終えた後、彩花は元に戻り、俺の腹を軽くたたいて元気を取り戻してきたらしい。
「お、元気が出てきたな。何か失敗したか? 」
「ううん。二日目への頭の切り替えを済ませたとこ。ここまで出来れば充分だわ。後はメインの明日の理系科目にしっかり集中しないとね」
「俺への腹パンに見合う効果があればいいんだが。さあ、まわりも暗いし帰ろう。駅までぐらいエスコートはさせてくれるよな? 」
「じゃあ、お願いするわね。別に家まで送ってもらってもいいんだけど」
「そう言うことなら家まででも良いが、試験の大事な時期に御両親に挨拶とかいうビッグイベントを持って来られても、明日の試験内容が吹き飛びそうで困るからな。せめて明日の帰りにしてくれると嬉しいが」
「ふふっ、まあ、会おうと思えばいつでも会えるのだから焦る必要はないわよ。正式にお付き合い……そういうことを始めてからでもいいわ」
帰りの臨時バスに乗って最寄り駅まで送られた後、電車で地元まで帰る。二十分ほどで最寄り駅まで着くが、その間にリスニング名物のキワモノ登場人物の話で盛り上がる。周りの帰り道の受験生も、やはり今回もキワモノだったのか、という話を一緒に来た学生同士話し始めた。
「真面目に聞いてれば聞いてるほど笑わせに来るとか、ひどいテストもあったものよね」
「狙ってやってるのか、それとも何かと聞き分けにくい何かがあるのか。もしかしたら聞き取り力のテストであえてそういう感じにされているとか。まあできたならいいんじゃないか? 明日もあることだし、明日が終わっても一息入れる前に二次試験に向けて数問解いて、息抜きしすぎて受験モードから脱落しないようにしないとな」
「そうね、まだ明日が終わっても続くのよね。気を抜かないようにしないと、ここで失敗するとすべてが水の泡ね」
「もうちょっと続くんじゃの精神で行こう。明日の試験が終わったら、帰り道に理系科目の総ざらいをするつもりで帰って更にもう一段階勉強する、というのだけ頭の隅に引っ掛けておけば、多分大丈夫なはずだ」
東大入試漫画でもやっていた、共通テストが終わった直後だからこそのあえての知識注入。ここで息抜きをしつつ、息抜きとして勉強を取り入れることで自然に二次試験に赴けるようにする、という気づかいが大事らしいからな。さて、明日が実質本番みたいなものだ。しっかりと予習もしていけば、ある程度の得点は取れるだろうし、頑張っていくとしますか。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。




