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かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしていたらカタブツ学者さまに愛されました~  作者: 山田あとり
あなたのためのおまじない

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第45話 あなたとすごす春を

 ザラエ滞在最後の日、マルーシャとダニールは町で二人きりになった。イグナートとラリサに置いてきぼりにされたからだ。「子どもたちにお土産を買う」と言われては見送るしかない。

 ずっと一緒だったミュシカもおらず、二人だけ。こんな状態は初めてだ。どちらも何を言えばいいのかわからなくなって静かに町を散策してしまった。


「ダニールさん――」

「あ、ああ」


 さすがに沈黙に耐えかねて、マルーシャはポツリと呼びかけた。言っていないことがあるのを思い出したのだった。


「……あの時、すぐに来てくれて嬉しかったです。ありがとう」


 マルーシャは首に掛けたままのペンダントにそっとふれる。紅い石は隣を歩く人とつながったままだ。それでいいとマルーシャは思っている。

 あらためての礼にダニールは目を細めて照れくさそうに笑った。


「あたりまえのことです、約束しましたからね。でも――二度とやりたくないです」

「私だって」


 二人はやっと微笑み合った。

 今回のことは心臓に悪すぎた。消えた人を追いかけるなんて、そんな物語のようなことはダニールには向いていない。ただの学者なのだから。

 マルーシャを取り戻せてダニールは心底安堵した。だけどものすごく後悔もしている。公衆の面前で抱きしめるなどして嫌われたのではなかろうか。

 そしてマルーシャだって後悔している。勝手なことばかりして、手に負えないじゃじゃ馬だと思われたかも。

 まなざしを交わしながら揺れた互いの瞳。

 言いたいことが胸からあふれそうで二人は石畳に立ち止まる。


「あの――」


 口火を切ったのは意外にもダニールだった。

 言わなければならないのはダニールも同じなのだ。このままファロニアへ到着してしまったら、マルーシャとは公の間柄でしかなくなってしまう。ともに旅をして戦った、近しい人でいられるのは残りわずかな間だけだ。


「あなたを、抱きしめたりしてすみませんでした」

「いえ――」


 具体的な謝罪にマルーシャは顔を赤らめた。それはまあ、いきなりの行動ではあったけど。ああいう場合なら仕方ない範囲内――でもない気がする。二人は別に、そういう関係ではなかったのだから。


「嫌でしたか?」

「そんな」


 たたみ掛けられても困る。実は嬉しかったが、そんなこと恥ずかしくて言えなかった。


「今思えば失礼にもほどがあります。でも僕はあの時、気持ちを抑えられなかった」

「……」

「僕はあなたを失いたくない。できれば隣にいてほしい。そう思うんです。だからあなたを取り戻したあの時、つい手が伸びた」

「ダニールさん……」


 マルーシャは聞きながら、胸が高鳴るのを感じていた。息を吸うのが難しくなる。

 その言葉の意味は――恋とか愛とかだと受け取っていいのだろうか。

 おびえと期待がない交ぜになりつつマルーシャは向かい合う人を見上げる。ダニールの黒い瞳が熱を帯びた。


「僕にはあなたが必要なんです。旅が終わっても、僕のそばにいてほしい――そう感じるのを許してくれますか」


 ダニールのまなざしは真っ直ぐで、やわらかくて、マルーシャへの尊敬に満ちていた。告げられた言葉は甘くない。だけどとても誠実だとマルーシャは思った。

 愛しているとか大好きだとか、そんな言い方ではなく。

 必要だと感じるのを許してほしい――そんな告白、聞いたことがなかった。でもとてもダニールらしい。マルーシャは目をうるませながら花が咲くように笑った。


「はい」

「――え?」

「だから、はい」

「え? え? いいんですか」


 自分から言い出したくせに慌てはじめるダニールがおかしくて、マルーシャは肩をふるわせる。じゃあどう答えればいいんだ。


「私も、あなたといたいです。あなたと一緒に、たくさんの春を迎えるの。とても素敵じゃないですか?」


 とびきりの笑顔でマルーシャはダニールを見上げる。

 そのまなざしにこもった心をちゃんと受け取ったのだろうか。ダニールはうなずいてくれた。


「――あなたとの春をすごせたら、とても幸せだと思います」



 それから二人は広場の隅にあるベンチに腰掛けた。

 たくさんたくさん、話したいことがある。想う人から想われるという奇跡に見舞われて、どちらもふわふわした気分だった。


「まずは、丁寧に話すのやめて下さい。ダニールさんは年上なんだし落ち着かないって前に言いましたよね」

「あ、うん。ならマルーシャさ……マルーシャも」

「ええと、ダニール……?」


 とんでもなくぎこちない。こんなところをラリサたちに見られたら、どれほどからかわれるだろう。

 だけどいくつもの春をともに歩いていくというのなら、それは結婚を視野に入れているということ。周囲にもカミングアウトするしかない。そう気づいた二人は同時に頭を抱え――そして笑った。

 一緒に感じ、一緒に笑えるのが嬉しくて、また笑顔になる。


「ダニール、最初会った頃にくらべてよく笑うようになった気がするの」

「それはマルーシャのおかげだと思うよ。あなたと……きみといると表情筋がほぐれる」

「なんですか、その言い方」

「マルーシャ、丁寧語」


 注意し、されて、また笑った。

 少しずつ、少しずつ。こうして馴染んでいけばいい。これからの二人を形づくるための時間は、たぶんまだたくさんある。



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