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かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしていたらカタブツ学者さまに愛されました~  作者: 山田あとり
あなたのためのおまじない

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第44話 事件は解決したけれど

ザイン(冬よ)クムディ(力を) メ サイルース(貸して)


 あの時、冬告げの姫ミュシカの力で場は冬に傾いた。

 ダニールの陰にいたミュシカが不意に唱えるおまじないを、メレルスは捉えられない。そこにダニールが重ねるのは〈ムスダーシュ(凍れ)〉――強められた冬にふさわしいものだ。


 もちろんメレルスはそれを打ち消そうとするが、その前にダニールの「凍れ」は眠らされている。ミュシカによって。

 おまじないは眠っているだけなのに、ダニールを阻止したとメレルスが誤解したところで、マルーシャが〈ムスダーシュ(凍れ)〉を揺り起こす。


ショズデーレ(言葉よ)ブロシュターヴァ(目を覚ませ)


 時間差で効いたおまじないは、油断していたメレルスの――のどを凍らせた。



「そうやって術を封じ、無力化しました。すぐに解いたので大きな怪我はさせていません」


 メレルスの館で何があったのか、説明するダニールとイグナートの前で冷たい顔なのはパーヴェル・バーベリ。ファロン侯爵を実務で支える壮年の男だった。

 到着が一日早ければ、とバーベリは内心悔し涙にくれている。馬車を駆り、可及的すみやかにザラエまでたどり着いたはずなのに、


「すんません、夜中に終わらせました」


 イグナートに言われて殴りたくなった。

 だが限界を超えて眠りそうになりながら犯人を確保していた当事者たち。怒鳴るわけにもいかず、そこからは駆けつけた騎士団員と共に引き継いだのだった。その後ふらつきながら宿にたどり着いた彼らは、泥々に眠りこけたらしい。


 ザラエの街とどう交渉して丸め込むか。メレルスが所属する商工会上部の弱みは何があったか。そう考えながら遠路来たのに、着いたら力わざで解決されてしまっていた。揉み消しに手間取るはめになり、非常に不満だ。

 だが、それより何より。


「ジートキフ……おまえ」

「勝手をして、たいへん申し訳ありませんでした」

「うむ。まあそうなんだが」


 春告げ姫候補を探しにファロニアを発った時には真面目で偏屈でぼんやりした男だと思っていた。それが女のために激怒して破壊行動をすると誰が思う。

 急に姪を預かることになり疲弊しているようだったので、気分転換も兼ねてベルドニッツ行きを命じてみたのだったが、まさかその相手に惚れるだと。

 イグナートの方から「いい雰囲気なんですけど、まだ正式に交際を申し込んでないと思うんで、ちょっと突っ込みは待ってやって下さい」とささやかれて天地がひっくり返るかと思ったバーベリだった。

 ソファに恥ずかしげに座っているマルーシャをチラ、とする。若さなりの愛嬌があるが、地味な女性だとバーベリは思った。母親のアレーシャは華のある姫君だったと記憶しているので、肩すかしを食らった気分だ。

 そんな風に思われているなど知らないマルーシャはすまなそうに言い訳した。


「ダニールさんを責めないで下さい。やりすぎたかもしれませんけど、私が心配かけたせいなので」

「確かに、やりすぎだな」


 しかめ面になるバーベリに、イグナートがヘヘヘと笑った。マルーシャもクスリとしつつダニールを確かめる。

 その微笑みは信頼にあふれ、花が咲き香るように感じ――そうだ、この人は〈春〉なのだとバーベリは思い出した。早く侯爵閣下に会わせて差し上げねば。

 パーヴェルは淡々と申し渡した。


「後始末はなんとかする。さっさとファロニアへ戻れ」


 そう聞いてフワッと嬉しそうに笑うマルーシャは意外なほど可愛らしい。バーベリは目を見張り、そして納得した。生き生きとした表情や心ばえが魅力的な女性だ。

 こんな孫娘が増えて閣下がお喜びになるな、とバーベリは微笑んでしまった。





「マルーシャお母さま、ダニールお父さま、かえっちゃうの?」


 バーベリの指示に従って翌日には宿を引き払う、と伝えたらミュシカがしょんぼりした。ミュシカは滞在を延長するそうだ。事件の被害者であるルスラン夫婦はザラエ側の捜査にもう少し協力が必要らしい。

 本当の両親の元に戻ったミュシカはその愛情をたっぷり浴びて幸せなのだが、すっかりなじんだマルーシャとも離れたくないのだった。マルーシャはうふふ、と笑った。


「ファロニアで先に怒られておくからね」

「やん、マルーシャお母さまかわいそう。いっしょにがんばるから、まっててよう」

「でも私、元々お祖父さんに会うために旅に出たんだもの。ファロニアに着いたらすぐに会いたいな」


 侯爵は「戻れ」という言いつけにそむいた孫娘たちを頭ごなしに叱るかどうか。そんなことはないだろう、とリージヤは微笑んだ。

 リージヤ自身は末娘だからか甘い顔をされた記憶が多い。アレーシャに出奔されてかなりこたえたらしいし、その忘れ形見のマルーシャに本当はずっと会いたかったはずだ。意地っ張りの祖父に思いきり甘えて孝行してほしかった。


「きっと父もデレデレになるわよ。安心して甘えてらっしゃい」

「――リージヤ叔母さん」

「今回は私の方が長く心配かけたものね……ごめんなさいって伝えておいて。すぐに叱られに帰るからって」

「――はい!」


 ふふ、と笑い合うマルーシャとリージヤ。この二人は姪と叔母なのだが――もしかしたら義理の姉妹になるのかもしれなくて、ルスランはワクワクしていた。

 カタブツの兄ダニールが女性を抱きしめるところなど、まさか見られると思わなかった。誘拐されて心配をかけた両親へ、こんなにすごい土産話はないと確信できた。

 だから兄さん、頑張れ。

 ルスランは心の中でこっそり声援を送った。



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