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かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしていたらカタブツ学者さまに愛されました~  作者: 山田あとり
あなたのためのおまじない

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第43話 再会の腕の中

 幼女の呼びかけにこたえ、空気が変わる。

 冷涼が満ちる。冬が来る。

 息を吸うとのどが痛いほどの温度まで、一気に冷え込んだ。


「な……!」


 メレルスがキョロキョロうろたえる。


「ミュシカ……!」


 マルーシャの後ろの廊下でリージヤが嬉しそうにつぶやいた。ダニールに隠れるように真実の冬告げの姫ミュシカがいて、冬の力を呼んだのだった。

 そっと現れたミュシカは、メレルスの向こうにマルーシャを見つけて笑顔になる。


「マルーシャお母さま!」

「ミュシカすごいわ!」


 練習では力を解放できなかった。

 抑えつつ抑えつつ、息を合わせたのだ。


 でも今のミュシカは違う。

 マルーシャを取り戻すために、両親を救うために、心の底から冬に求め願った。

 その寒さ。空気中の水が凍りキラキラと舞うほどだ。

 冬は、存分にここにある。


 ダニールは、メレルスに向かって手をかざし唱えた。


ムスダーシュ(凍れ)!」

ショズデーレ(言葉よ)カテナ ヨルダテーバ(力を喪え)!」


 即座にメレルスが叫び返す。ダニールのおまじないは消えた。かに思えた。

 でもメレルスの大声の陰で、ミュシカが先につぶやいていたのだ。


 〈ショズデーレ(言葉よ)シュクテ イ コリド(揺りかごで眠れ)〉。


 さらにマルーシャが重ねる!


ショズデーレ(言葉よ)ブロシュターヴァ(目を覚ませ)!」


 と、メレルスがのどを押さえた。〈ムスダーシュ(凍れ)〉。


「ぐ……が……」


 メレルスが崩れ落ちる。


「イグナート!」

「任せろ!」


 今いる人員のうちの物理担当イグナートが布と縄を手に駆けこんできた。


「ぐえ、さみぃ……」


 軽口も凍る寒さの中、イグナートは手早く猿ぐつわを噛ませる。それを見てダニールは自分が飛ばしたおまじないを解いた。


「むー。ぶふー」

「息してるな、よしよし」


 生存を確認しつつ、イグナートは容赦なく手足を縛る。メレルスはおまじないも動きも封じられた。

 そして彼の家令ヨアニムは、命じる者がいなくなり何もできずに立ち尽くしていた。それもイグナートが縛り上げる。為すすべもなくヨアニムは縄についた。


「ミュシカ」


 最後にダニールがうながすと、ミュシカは愛らしく冬に語りかけた。


ザイン、プラツミルテ(冬よ、おさまって)


 その声に応え、冬の空気が名残惜しげにかき消えていった。そして涼しい秋が漂い始める。


「マルーシャさん!」


 そんな季節の移り変わりなどおかまいなく、ダニールが駆け寄ってきた。


「ダニールさん……!」


 ホッと微笑んだマルーシャは、歩み寄るまでもなくダニールの腕の中だった。え。


 ――――えええ!?


「マルーシャさん――よかった」

「ダニールさん、あの」

「よかった無事で。あなたに何かあったらと言ったのに、こんな」


 腕にその存在を確かめるダニールがやや震えているのにマルーシャは気づいた。心配をかけてしまったことが申し訳なくて、そっとダニールの背中に手を回す。


「……ごめんなさい。でも信じてたんです、助けにきてくれるって」

「そんなの当然です。あなたは僕の大切な人ですから」


 抱き合う二人を全員がぽかんと見つめる。だがミュシカはそうもしていられなかった。そこに本当の両親がいる!


「お母さま、お父さま!」

「ミュシカ――!」


 リージヤとルスランは前に出て、愛おしい娘を抱きしめた。ミュシカは小さな体いっぱいに喜びをあふれさせ両親にすがりつく。引き離されてから一ヶ月以上もたっているのだった。


「ミュシカ、立派だったぞ」


 冬を見事に制御したミュシカを、誇らしげにルスランがたたえた。


「みてた? わたしすごい?」

「ちゃんと見てたわ。とても綺麗で力強いおまじないだった」


 言いながらリージヤの目に涙があふれた。心配で胸がつぶれそうだった甘えん坊の娘が、こんなに成長したなんて。


「お母さま」


 母に泣きながら頬ずりされて、つられたようにミュシカもポロポロと泣き出した。

 嬉し涙ではあるが、ミュシカの泣き声でハッとなったダニールは、マルーシャを抱く腕を離した。視線をからませた二人は一緒に硬直する。

 作戦成功の勢いとはいえ、なんてことをしてしまったのか!


「あ……し、失敬! つい」

「いえ、いいんです……」


 ホテホテホテホテ。

 ぎゅん、と目をそらし照れ合う二人をながめ、イグナートは憮然とした。

 なんだこれ、あいつらいつの間にくっついたんだ。


「……めでたしめでたし、と言いたいところだけど。これ、どう始末つけるんだよ?」

「真夜中とはいえ、好き勝手にやったものよね……」


 ラリサもあたりを見回してあきれ顔だ。

 キレたダニールの雑なことといったらなかったのだ。ろくに聞き取れない早口のおまじないを力任せにぶつける。

 術で補強されていたらしい玄関の扉が大きく震えた。

 それに舌打ちしたら脇の石積の壁にひびが入った。

 なにやらブツブツ言った後に扉のおまじないが弾け飛んだかと思うと、次の瞬間に木っ端微塵だ。あんなに美しくないおまじない、見たことがない。

 それは、キレたくなる気持ちをダニールが知った――マルーシャを愛した――という証拠なのだろう。でも後片付けはどうすればいい。


「まあ、今日のうちにバーベリさんが来てくれる……といいな」

「今日? ああ……日付、かわってるのね」


 もう何もする気がなくなって、イグナートは肩をすくめた。あくびが出る。

 今、何時だと思ってるんだ。俺はもう寝たい。



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