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かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしていたらカタブツ学者さまに愛されました~  作者: 山田あとり
あなたのためのおまじない

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第38話 犯人のかかえるもの

 次の日も宿に閉じ込められたままで、ミュシカは悲しげだ。懸命に相手をするマルーシャたちも疲労困憊。

 だが、ミュシカの両親だって郊外の荘園にあるメレルスの館から出ていないのだった。もう一ヶ月以上も。


「いいかげん、つまらないのよ」


 距離をへだてた娘と同調するように、リージヤは拗ねた。


「うちに帰りたい。ミュシカに会いたい!」

「僕だって! ああ商売はどうなってるんだろう。父さんが回してくれてるかなあ。心労で寝込んでないといいけど」


 夫婦そろってハアアと大きなため息をつく。

 犯人のメレルスからは「そのうちに冬を呼んでみせろ」と言われたが、基本的には何もされていない。つまり危害を加えられることはなかったが、やることもないのだ。暇すぎる。


「冬告げ姫ごっこも飽きちゃったわよ」


 そんな遊びと、館の中の決まった範囲を歩くしかすることがないのだ。

 衣食の面倒をみてくれる中年の女は申し訳なさそうにするが話すのを禁じられているようだし、無愛想な家令は感じが悪いし、メレルス本人はあまり顔を見せないし、とにかく手持ちぶさただ。

 たまには夫婦喧嘩でもしてみるかと仲良く相談し始めた時に、表が騒がしくなった。


「メレルスかな」

「――うるさいこと。尊大なあの男には会いたくなくってよ」


 瞬時にごっこ(・・・)を始めた妻に吹き出しかけながら、ルスランは扉を開けて廊下をうかがった。

 珍しく大きな声がする。何か命令するような口調なのは、やはりメレルスが来たのだろう。何かあったのだろうか。


「――少し警戒しよう」


 これは変化のきざしかもしれない。

 良い方へ、だといい。こんなざわめきは、ここに来て初めてのことだった。

 館の中の気配を探るが、すぐに静けさが戻る。仕方なく二人は室内でおとなしく待った。メレルスが来ているなら、必ずこちらの様子を確認するはずだ。


「――ご機嫌いかがかな、冬告げの姫」


 ノックがあり、返事も待たずに扉が開いた。その無作法にリージヤが顔をしかめる。


「あなたが来るまでは悪くなかったのだけれど」

「それは申し訳ない」


 メレルスは珍しくうすら笑いを浮かべていた。これはどういうことだ。ルスランは無表情を保って考えた。悪い方に転がっているのだろうか。


「先ほどは少々うるさくいたしましたな。新しい客を招きたいと思い、その支度を指示していたのですよ」

「――そう」


 リージヤは興味なさそうに答えた。


「私はこれでも姫の無聊をおなぐさめしたいのです。親族をお招きしたらお喜びいただけましょう」

「……親族?」


 ルスランは静かに尋ねた。微妙な言い方だった。ミュシカのことなら家族と言うだろう。侯爵家の誰かなら、いいかげん国際問題だ。ルスランの側なら両親か、ダニールか。


「ジートキフ――貴様の兄の、妻と娘だ」


 ルスランとリージヤは無言だった。いや、ポカンとするのをこらえるので精いっぱいだったのだ。

 兄であるジートキフといえばダニールしかいないが、その妻と娘?


「あのダニール・ジートキフにそんなものがいたとは。よく隠していたものだな」


 メレルスはクックッと低く笑いながら続ける。ルスランは無表情をつらぬいた。何を言っているのかまったくわからない。情報がほしい。


「私が調べきれないほど秘密にされていたとは、あの細君は何者だ? ずいぶん若いらしいが」

「――誰のことかしら」


 リージヤは冷ややかに言い返した。これは芝居じゃない。義兄ダニールに妻などいないのだ。

 だがメレルスはリージヤがシラをきっていると思ったのだろう。満足げに笑い、室内を歩き出す。ぐるぐると浮かれるその足取りが気味悪かった。メレルスはねっとりとしゃべる。


「いいのです、もう隠さなくても。あなた方がザラエにいると知ったのでしょうかねえ。追って来たのなら何故、妻や娘を伴うんでしょう。遊びがてらとは――私をなめてもらっては困る!」


 突然叫ばれた。怒りに燃える目。それでルスランは悟った。


 この男は冬告げ姫が目的なのではない。

 ただ、ダニールを憎んでいるのだ。

 怒りと憎しみと嫌悪で、常軌を逸してしまうほどに。


 過去に何があったのか。わからないながら、ルスランは今を乗りきるしかなかった。平静をよそおう。


「……兄が、妻と娘を連れてザラエに現れたと?」

「そのようだな。仲の良いご家族で、などと宿の者が言っておったとか。ふん、いい気なものだ」


 イグナートを尾けたメレルスは、あらためて宿に人をやったのだ。直接自分が確認に乗り込むのは危険だ。


『以前お世話になった方がこちらにお泊まりのようなのですが、ファロニアからの旅行客はいらっしゃいませんか?』


 尋ねて金を握らせれば、宿の者がペラペラと教えてくれた。ダニール・ジートキフと妻子、そしてご友人のクレヴァ夫妻が滞在中だ、と。


 その報告を受けてメレルスは妻と娘(・・・)を狙うことにした。

 人質にしてダニールに何かを要求するか、または――ただ殺してしまってもいい。できるならダニールの目の前で。

 ダニールにできる限りの屈辱、苦しみを与えるために家族を使う。その想像だけで愉しくて仕方がない。


「兄は、結婚などしていない」

「もうそういうのはいい!」


 一応告げてみたルスランをメレルスは怒鳴りつけた。

 リージヤに対しては嫌味なほどの丁寧さを崩さないが、ダニールの話になると憎悪をあらわにする。その不安定さがルスランに恐怖を与えた。刺激してはまずいかもしれない。


「隠すということは何か重要な女だということだな。それならばなおのこと、奪い去ってやれば奴がどんな顔をするか。見せてもらおう!」


 大げさな口ぶりで言い捨てると、メレルスは足音荒く出ていった。



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