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かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしていたらカタブツ学者さまに愛されました~  作者: 山田あとり
揺れる二人の心はどこへ

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第32話 きらめくお守りは

 昼になり、そろそろ街が動き出したからとイグナートは独り別れていった。ザラエに本拠地を置く商人、メレルスのことを調べに行くのだ。

 マルーシャたちはあと少し買い物を続ける。服を買ったなら合わせて靴下や下着も見るべし、とラリサの厳命だった。

 さらにダニールから注文の、宝飾品店というミッションも加わっている。そんなに自分の物を買うだなんて、元が倹約家のマルーシャにとっては軽い拷問だった。


「ううう……お買い物苦手……また寝込みそう……」


 もう嫌になったマルーシャがうめいてみせると、ダニールは真面目に眉をひそめた。


「まだ本調子じゃないんですね。そうだ、暖かい部屋着としてガウンも必要なのでは」

「そういうことじゃないです! こう……何? 言い回しっていうか冗談っていうか」

「冗談なんですか? 難しいな……」


 真剣に考えこむダニールの難しさ(・・・)が通常と違うところにありすぎてマルーシャは頭を抱えた。ラリサは大笑いしつつガウンは買おうと決心する。寝間着の細腕に困惑したダニールの提案は採用せねば。

 増えた買い物リストにマルーシャがげんなりしていると、ダニールが懇願した。


「でもお守りにする石は必要なんです。あなたに何かあったら僕はどうすれば」

「ちょっとダニール、それ愛の告白にしか聞こえない。マルーシャも困ってるしミュシカがワックワクなんだけど?」


 ラリサの指摘でダニールは言葉を詰まらせた。見ればマルーシャがほてほてと頬を赤くし、隣でミュシカは瞳を輝かせている。


「……し、失敬!」

「いえ……心配してもらえて嬉しい、です」


 マルーシャは細い声でつぶやいたが、とても複雑だった。ダニールの言葉はきっと、業務上の懸念を述べただけ。マルーシャをファロニアへ連れていくのがダニールの仕事なのだから。

 ラリサにいたっては少々怒っている。さっき二人で話していたのは、交際を申し込まれたわけでもなんでもないと報告されていたからだ。

 ほんのりした想いを抱えるマルーシャに対して、この言い方はひどい。無自覚だから傷つけていいというものではないのだ。ややうつむきながらマルーシャは無理やり笑った。


「お守りは、ありがたくいただきます……ミュシカと同じ、ペンダントですか?」

「そうですね。マルーシャさんの邪魔にならない物で」

「いっそ指輪にでもしなさいよ。かりそめの夫婦なんだから」


 苛立ちをこめてラリサが言うと、ダニールはムッとして反論した。


「そんなわけにはいかないよ。マルーシャさんが僕のものみたいな」

「ああら、いいのよ。マルーシャを奪い去るなら、クリフトさんには口添えしてあげる」

「……僕なんかじゃ、怒られる。他のご縁を邪魔するのは……」


 ダニールは一瞬ためらってから言った。思考が心の内に沈んでいき、表情が失せた。


 ――さっき思ったのではなかったか。マルーシャを失いたくないと。

 マルーシャがベルドニッツに帰ったら。

 あるいはダニールの知らない男性と結婚し会えなくなったら。

 それは「失った」も同義じゃないのか?

 いつも春のように笑っていてくれるマルーシャ。あらためて目をやると、返ってくるまなざしが陽光にきらめいていて、その瞳がもうお守り石そのもののよう。

 ――そんな風に感じた自分にダニールは愕然とした。


 


 すべての買い物を済ませて宿に戻ると、イグナートが先にいて迎えてくれた。


「お帰り。買い物終わったか?」

「なんとかね。ダニールを見ればわかるでしょ」


 荷物持ちとなったダニールは、両腕に箱やら袋やらを満載している。マルーシャは申し訳なく思っていたのだが、ラリサが容赦なく持たせたのだ。


「イグナートは早かったな。どうだった」


 女性たちの部屋に戦利品をおろしたダニールに、イグナートは真面目な顔になった。チラリとミュシカを見る。

 本当の両親に関することは、まだ聞かせたくなかった。マルーシャはさりげなく言った。


「ねえミュシカ、服と帽子を合わせたいんだけど。見てくれる?」

「わあ! じゃあ、おくつもはかなきゃ」

「そうね、ぜんぶ着てみましょ」


 これで女子会が始まるのでダニールたちはゆっくり話せる。イグナートがニッと笑って親指を立てた。


「楽しそうだな。ダニールがのぞかないように見張っておくわ」

「僕はのぞいたりしない!」

「お父さま、みちゃだめ!」


 ミュシカは笑ってダニールを追い出す。イグナートも笑って退散した。

 スルリと隣室に入り扉を閉めると、イグナートの視線が鋭くなった。


「当たりだ。ザラエの商人がロジオン・メレルス」

「――そうか」


 誘拐の原因はダニールだと確定してしまった。

 だがマルーシャ的解釈なら行方の手がかりがつかめたとも言える。ダニールはうつむきかける顔を上げ、イグナートの報告を聞いた。


「ロジオン・メレルスは妙な勘のはたらく奴だと言われてるらしい」

「それは、妖精の力かな」

「そういうことだろう――今年は雨が多いと予言しておいて自分で雨乞いするとかさ。やりようはある。あまりおおっぴらじゃなきゃいいんだが」


 渋い顔のイグナートの報告にダニールも眉をひそめた。



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