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かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしていたらカタブツ学者さまに愛されました~  作者: 山田あとり
揺れる二人の心はどこへ

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第31話 あなたへの贈り物

 みんなで街に出てもダニールの表情は暗かった。何やら考え込んでいて、後ろからついては来るが一言も発さないのだ。

 マルーシャは店に入るより街並みを楽しんでいたかったが、今日の主役なのでラリサとミュシカの着せ替え人形にされていた。ダニールは店の外で待っていて服について意見を訊くこともできない。どうせ頼りになるわけないが、ラリサは文句を言った。


「……あの態度はひどくない? 何があったのよ」

「悪い、あとで話すから」


 夫婦がこそこそ言っている。ミュシカに聞かせたくない話――つまり誘拐犯に関することなのだとマルーシャは確信した。



 そして服や靴を選び終わり広場で休憩しようとしたところ、ダニールは思い詰めた声でマルーシャを呼んだ。


「すみませんマルーシャさん――僕に、アクセサリーを贈らせてもらえませんか」

「――は、い?」


 ぽかんとするマルーシャの横でラリサも息をのんだ。男性から女性にアクセサリーを贈る。その意味は、さすがにダニールだってわかっているだろうに。


「やん! お父さま、あいのこくはく?」

「え――? あ、いや、うわ!」


 喜色満面のミュシカの声にダニールがハッとなり、大人たちはガックリした。マルーシャも止まりそうになっていた呼吸を再開する。ううん、どうせそんなことだろうと思ったけど!


「ダニールさん……」

「あの、あの本当に申し訳ない。そういうつもりではなくてですね」

「わかってますよ、何か理由があるんでしょう? ええと……こそっと教えて下さい。こっちで」


 ミュシカをおもんばかってマルーシャはその場を離れた。しょんぼりとついてくるダニールが大型犬のようで笑えてしまう。マルーシャは笑顔で振り向いたのに、不安そうなままダニールはあらためて謝罪した。


「すみませんでした。これだから僕は駄目なんですね」

「ぜんぜん駄目じゃないです。そういう人だとわかってますし、言ったでしょう、面白いって」

「あなたは……器の大きい人だ」


 女性へのほめ言葉としてそれは適切なのだろうか。なんとなく釈然としないものを感じたが、マルーシャはニッコリうなずいてみせた。


「アクセサリーをというのは、ミュシカの両親のことにつながるんですね?」

「はい」


 ダニールは過去に会ったメレルスという男とザラエの商人が同一人物なら、という推論を話して聞かせた。

 なんてことだ。マルーシャはため息をもらす。それは思いついたら顔色も変わるだろう。弟夫婦の行方不明の原因がダニールだなんて。

 どう言ってあげればいいかと考え、マルーシャはいちばん前向きな言い方を選んだ。


「手がかりが見つかってよかったです。これが当たりなら二人を取り戻せますね」


 なるべくニコニコと言ってみたら、ダニールは妙なものでも見るような顔になった。


「マルーシャさん……あなたも面白いです」

「そんなことないでしょう」


 なんだか心外だった。ダニールの方がよっぽど変わっているのに。不満そうにしたらダニールは笑った。


「そこは普通なぐさめるものじゃないんですか。よかったと言われるとは思わなかった」

「……元気出してってなぐさめても、元気ってなかなか出ませんから」

「そうなんですね」


 ダニールは安堵したような笑顔を見せた。


「肚が決まりました。あなたがいると前を向ける。ありがとうございます」

「……そんな」


 そんな風に言われたらマルーシャは照れてしまう。でもダニールはいたって真面目だ。

 マルーシャは言うこと為すこと明るい春の息吹のよう。ダニールはそう感じた。

 いつだってダニールが考えるよりも良い方へ、嬉しい方へ、明るい方へ導いてくれるマルーシャ――だから、守りたいと思う。

 マルーシャに危害が及ぶ可能性を思いついて、ダニールは心臓が凍りそうになったのだった。その気持ちがなんなのかとは考えずに提案する。


「アクセサリーは、お守りにしたいんです」

「お守りですか」


 首をかしげたマルーシャに、ダニールは真剣な表情だった。


「ミュシカがいつも、紅い石を身につけていますね?」


 それはマルーシャも知っている。昼間は首飾りにし、夜は寝間着のポケットに入れて、必ず持っているようにとダニールにしては珍しくきつく申し渡してあった。


「あれは僕とつながっています。ミュシカに何かあって僕の追跡を阻害する術を使われても、あれと僕とを断ち切ることはできない」


 術、とダニールが言った。

 相手のしてくることが、〈おまじない〉ではなく〈術〉の域に達すると考えているのだとマルーシャにもわかった。それほどの手練れが相手ということ。


「そのお守りを、私にも?」

「そうです。あなたは〈春〉ですし……それに元が僕への恨みなら、マルーシャさんが狙われてもおかしくない……はたからは、妻だと思われているかもしれないでしょう」

「あ」


 何しろ「お父さま、お母さま」だ。ベルドニッツでもさんざん結婚するのかと冷やかされたのを思い出してマルーシャはほんのり赤くなってしまった。それを見てダニールも狼狽する。


「その、とても失礼なのは重々承知なのですが」

「失礼だなんて、そんなこと。光栄です」

「は、はあ。そうですか嬉しいです」


 二人は互いに言いつのりながら、モゴモゴとうつむき黙ってしまった。




「……なあ、あいつら照れ照れして何やってんだと思う? ほんとにプロポーズとかしてんじゃねえだろな」

「そんな甲斐性がダニールにあったら、もう雪が降るわよ」

「わたし、ふゆはよんでないよ!」


 離れた場所から様子をうかがって、三人は無責任な感想を述べ合った。



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