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かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしていたらカタブツ学者さまに愛されました~  作者: 山田あとり
揺れる二人の心はどこへ

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第27話 その心をつかまえて

 バルテリス王国に入って最初の町、コルニクはこじんまりしていた。宿も一軒しかなく、それなのに混んでもいない。また二部屋押さえ、荷物を運びこんだ。


「さあて、じゃあ俺はぶらぶら情報収集してくるわ」


 イグナートは気軽な調子で宣言した。前の町で聞いた、小麦の買い占めについて調べるつもりだった。

 それがルスランとリージヤ夫婦を探してのことだとマルーシャも説明されていたが、ミュシカ本人には伏せてある。首尾よく手がかりに当たればいいが、そう上手くいくまい。期待させるのは酷というものだ。


「気をつけてな」

「おう。雇い主の愚痴でも言い散らかすとしよう」


 ダニールの胸をつついてイグナートがニヤリとする。旅の主人とその護衛、という設定らしい。

 酒場に行き、愚痴りながら世間話をするだけでいろいろなものが見えてくる。だがこの役目はダニールにはできないのだった。おもに会話力の問題で。


「あんまり飲むんじゃないわよ」

「飲まねえよ。こんな小さな町だ、たいしたこともわからんだろ。すぐ戻る」


 夫婦の会話をながめ、ちょこんと首をかしげたのはミュシカだった。


「ラリサ、べつのおへやするの?」

「うん? ああ、戻るってのは、この宿にってこと。ラリサはミュシカと一緒でいいぜ」


 イグナートは笑ってミュシカの頭をくしゃくしゃとなでる。

 マルーシャを加えるまでの旅路では、ダニールとミュシカを一部屋にして夫婦で泊まったこともある。それを思い出したのだろう。でもミュシカは無邪気に言い放った。


「わたしお母さまがいればいい。お父さまもいっしょにねよ!」


 さすがに大人たちが動きをとめた。

 一緒に寝よう、というのは無理がある。いくら「お父さま、お母さま」と呼ばれていても夫婦ではないし恋人ですらないのだ。

 マルーシャはボン、と赤面した。同じ寝台にミュシカを挟んで三人並んだところを考えてしまったのだ。なんという想像。はしたないにもほどがある。慌てて否定した。


「ミュシカ、それは駄目なの」

「なんで?」

「なんで……ってねえ」


 子どもになんと説明すればいいのかわからなくなり、マルーシャの脳みそは空転した。するとラリサが大笑いする。


「それはねえ……今夜は女子会だからよ!」

「は? ラリサ何を」

「いいからマルーシャも参加! さあイグナートは行ってらっしゃい。私らは宿で夕食をいただきましょう」



 ✻ ✻ ✻



 そして食事の後、マルーシャは早々に女子部屋に連れ戻された。ダニールはしっしっと手を振って追い払われる。

 そんなラリサの勢いが意味不明だ。わけがわからないながらミュシカもワクワクしている。楽しい話が始まりそうな気がするのだ。


「はいはい、ちょっと確かめたいんだけどマルーシャ」

「……なあに?」

「あなたダニールのこと、どう思ってる?」

「え!」


 不意打ちの直球でうろたえてしまった。

 どう。どうって。

 ラリサはふ、と優しい顔になる。


「特に旅に出てからだけど、ダニールに対してジタバタしてる気がするんだもの」

「え、えーと」

「マルーシャから見たダニールって、そこそこ男らしい感じ? そうだわ、土がはじけた時にはあなたたちを片手ずつにして飛びのいたっけ」


 思い出してマルーシャはドギマギする。

 おまじないを教えてくれるダニールはいつも真剣で、でもマルーシャを守ろうとしてくれていて――おかげで立ち位置が近い。


「仕事のできる男ではあるでしょ?」


 細かい聞き取りが始まってしまった。三人そろって寝台に座り込む。


「まあ……そう思いマス」

「仕事以外がちょっと頼りないけど。そこは可愛げってことで」

「そんな。しっかりした人だわ」

「あら。そうね、他人を気づかえるし。一緒に暮らすのに思いやりって必要だから」

「一緒ってラリサ!」


 話の飛躍に抗議したが、ラリサは不敵な微笑みだった。

 恋をし、結婚し、子どもだの義家族だのをさばいてきたラリサ。女性としてくぐってきた経験値がマルーシャとは比べものにならない。


「言ったでしょ、夫として優良物件だって。だからそこまで見据えての話。そりゃ甘い言葉をささやいたり素敵なデートを演出したりはできないと思うわよ? でも男の価値ってそんなところじゃないから」

「え、じゃ、じゃあなに?」

「そうねえ」


 誠実。包容力。財力。腕力。

 一概には言えないし、ラリサにだって決めることはできない。

 だけどマルーシャになら、ダニールはこよなく似合いなんじゃないかとラリサは思う。つまりただの勘だけど。


「男性としてのダニールに少しでもときめくんだったら、少し考えてみてくれない? 私も友人の行く末が気がかりなのよ」

「……でも」

「ダニールのこと嫌い?」

「そんなわけないでしょ!」


 その問いに、マルーシャは即答した。そしてハッとなる。しまった。

 正直に言えば――素敵だなと感じてはいる。恋かどうかは知らないけれど。

 でもラリサはとても優しく微笑んだ。遅めの初恋に戸惑う若者をからかったりするものか。


「ちょっといいかも、て思ったら、進んでみればいいのよ」

「そうかなあ……」

「そうなの! 考え込まない!」


 ラリサの叱咤にマルーシャはブツブツ反論を試みる。


「私なんかずっと年下だし」

「ダニールも研究以外は子どもっぽいから問題なし」

「住んでる国も違うし」

「〈春〉を務めるならファロニアに移住したっていいでしょ」

「お父さんが独りになっちゃう」

「子どもはそのうち独立するものです。だいたいファロニアからアレーシャさんを連れ出したのはクリフトさんの方じゃないの。逆があっても文句は言えないわよ」


 その通りだ。

 妖精のアレーシャと恋をして、故国から奪い取っていったクリフト。両親たちのその情熱までもマルーシャは受け継ぐのだろうか。


「この人だ、と思ったら心に従わないと。でないと幸せなんて、すぐ逃げていくんだからね」


 そう言われるとマルーシャは反論できなかった。

 だってクリフトが手に入れた幸せ、愛した女性は十年かそこらでいなくなってしまったのだから。

 ただ共にいた時間はこよなく幸せだったはずで――自分もそうなりたいと考えたマルーシャの胸はうずいた。



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