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かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしていたらカタブツ学者さまに愛されました~  作者: 山田あとり
揺れる二人の心はどこへ

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第25話 弟夫婦につながる手がかり

 ダニールが留守番していた部屋の戸が叩かれたのは、それからしばらくした時だ。帰ってきたミュシカがダニールに飛びつく。


「お父さま、ただいま!」

「おかえりミュシカ」

「お留守番ありがと。マルーシャはどう?」


 訊いてはみたが、ラリサも返事は期待していなかった。女性の様子を見に行くわけもないと思ったのだが、あにはからずやダニールは普通に答える。


「昼食を届けたら起きてくれたよ。扉越しに話した感じでは、しっかりしていた」

「……あら。じゃあ一日休めば平気かしらね」

「食べられたかどうかは見ていないぞ」

「のぞきは禁止よ」


 ラリサは意地悪く笑う。フイとそっぽを向いてしまうダニールがやや照れたように見えて、おや、となった


「お母さま、げんきになる?」


 不安げなミュシカの手には小箱がある。町で買ってきたお見舞いだそうだ。


「あのね、さとうづけ。くだものとか」


 馬車の中で疲れた時に甘い物を口にできるよう考えたらしい。なるほど、ミュシカはしっかりしていると感心した。ダニールではそんなこと思いつかない。


「じゃあ静かに様子をみておいで。起きていたらお見舞いを渡すといい」

「お父さまは?」

「女性が寝てる部屋に行けるわけないだろう」


 やや厳しい顔をして、ダニールは机に向き直ってしまった。そんな風にされるとマルーシャと何かあったかと思うじゃないか。ラリサはワクワクと目を輝かせたし、イグナートも低く笑う。


「そりゃあダニールは紳士だから。失礼なことはしないよなあ?」

「でも食事は届けたのよねえ?」


 夫婦が笑い含みの声でからかうとムスッとしながらにらまれた。吹き出すのをこらえながらラリサはミュシカを連れて出ていった。

 見送ったイグナートは声をひそめ問い詰めた。


「ほんとに、何かしたのか」

「そんなわけないだろう!」

「じゃ、なんで照れてんだよ」


 ガタ、と向かいに座りイグナートは脚を組む。腰を据えて話す体勢だ。観念したのかダニールはゴニョゴニョ言った。


「……寝間着姿だと言われたんで、扉を挟んでやり取りしただけだ」

「うん……? うっかりチラ見したのか」

「違う。まあ……お盆を取るのに腕は見えたけど」

「腕」


 イグナートは首をかしげる。それがどうした。


「だって細かったんだ。袖から出た手首が」

「そりゃ女の子だもんよ」


 そういうことか。ニヤつくのを抑え、イグナートは初心な友人の目覚めを後押ししようと思った。

 小さいもの、弱いものに心を掛けるダニールのことだ、マルーシャの愛らしさに気づけば惚れるかもしれない!


「あの細腕で、あんなにたくましいなんて……」

「はん?」

「いやマルーシャさんは暮らしを切り回し、クリフトさんの仕事を助け、しかもおまじないも上手いんだぞ。尊敬しかないな」


 ダニールがしみじみ腕を組んで、イグナートは絶望した。こいつの感性がわからない。

 仕方ないので話を変えることにした。町で重要な情報を仕入れてきたのだった。


「キナ臭い話を聞いたんだよ」

「――どんなだ?」

「小麦なんだがな」


 どうも値上がりしているらしい。

 クローシュ公国全体ではなく、このパルバの町だけかもしれない。どうやら隣国バルテリスで買い集める商人がおり、そちらにやや高値で売れるとみて流出してしまったようだ。


「小麦――?」


 基本となる食糧だ。買い占めて投機的に利用することもできる。

 だがそのためにはどこかで需給が逼迫しなければ売りさばけないはずだ。その読みはどこからきたのか不審に感じた。普通に考えれば小麦の動きなど限られる。


「戦争への備え、あるいはそれを嗅ぎつけた民間の勝手な動き」

「バルテリスでそれは」


 少々やっかいな事態になる。ダニールは眉根を寄せた。

 バルテリスはマルーシャの暮らすこの国とファロニアの間にある。この近辺では力のある王国だ。それがどこと事を構えようというのだろう。


「だが俺が疑ったのは、〈冬〉だ」


 そう言ったイグナートは目を細めて考える顔だった。

 戦争が視野に入っているならば、動くのは小麦だけではない。鉄や皮革製品、石材、木材などにも影響する。だが今ざっと聞き込んできた範囲では、そんなことはなさそうだった。


「……戦争じゃなく、〈冬〉を使って稼ぐ気だと?」

「冷害を引き起こせばできるだろ? 他の農産物も調べりゃ確証が――ただその流れだと得するのは商人だけだな。国家としてのバルテリスは関係ないのかもしれん」


 世情に通じるイグナートなので少しは政治も論ずるが、いかんせん専門は軍事。ダニールはお抱え学者とはいえ経済までは詳しくない。だが今は、二人の知恵を寄せ集めてなんとかするしかなかった。


「……小麦の投機元の商人を探せば、ルスランとリージヤにつながるか」

「あくまで可能性だぞ」

「だがバルテリスなら。当たりだといいな」


 ダニールがつぶやくのは、誘拐事件が起きたのがバルテリスに滞在中だったからだ。


 ダニールの実家ジートキフ家は古物商をいとなんでいる。長男のダニールが学問の道にはまってしまったので弟のルスランが商売を継いでくれた。好きだからいいんだよ、とルスランは笑っていた。

 その言葉通りルスランにはそちらの才能があったらしい。美術品の鑑定などを依頼されることも多く、何件か重なった仕事のためにバルテリスに向かったのだ。

 何日も滞在するから、とリージヤとミュシカも伴った。家族旅行だが〈冬〉のミュシカを連れて行くならと護衛にダニールも同行する。そしてダニールがミュシカを預かり街を見物している間に、仕事に出かけた夫婦は消えた。


 ミュシカは無事だが弟夫婦を守れなかった。あれからずっと、その思いがダニールを(さいな)んでいる。


「情報収集しながら行こう。マルーシャちゃんは旅慣れないんだし、のんびり行こうぜ」


 イグナートになるべく気楽そうに言われてダニールはうなずいた。



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