表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしていたらカタブツ学者さまに愛されました~  作者: 山田あとり
内堀までも埋まってく

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/48

第23話 それぞれが目指すもの

 夕食のため、濡れた服から着替えたマルーシャを見てミュシカが歓声をあげた。


「お母さま、かわいい!」

「あ、ありがと」


 マルーシャは少し照れる。

 身に着けたのはベルドニッツで新調したワンピースだ。シックな茶色は大人しい雰囲気だが、タックを寄せゆとりを作った胸、編み上げ紐で締めたウエスト、腰からふわりと広がるスカート。

 体の線をダニールに見られた懸念を考えると、もう少しゆったりした服にしたかった。でもラリサとミュシカがこれにしろと決めてしまったのだ。マルーシャを上から下まで検分し、ラリサは満足げだ。


「似合うわよ。ゴテゴテしない方がマルーシャの良さが出るのね。かわいいんだから、自信持って」

「かわいいなんて、近所のおじいちゃんおばあちゃんにしか言われたことないもの」


 マルーシャの訴えにラリサは声を上げて笑う。それは確かに信用できない評価だ。

 でもこの姿、ダニールへの売り込みはできると思う。体格はそこそこ大きいダニールの目に、小柄なマルーシャは女性らしく映るはずだ。だけどラリサは心配になってひょいとマルーシャの胴をさわった。


「この細さ。ちゃんと食べてる?」

「た、食べてはいるわよ。だけど無駄づかいできないし。文句はうちのお父さんに言って」

「ほんとに倹約家の主婦よね、マルーシャって」


 ため息をつかれたが仕方ない。事実そうなのだから。


「旅の間に少し肉をつけたいわ。とくに胸と腰」

「なんでそこ!?」

「いいじゃないの、マルーシャも女の子らしくなりなさい」


 姉貴分の威厳をこめて、ラリサは言い渡した。


「さあそれじゃ、お食事に行きましょう。マルーシャを育てなきゃ」

「わたしも、おおきくなりたーい!」


 ミュシカも決意を述べる。幼女が成長するのは喜ばしいことだが、マルーシャの場合は家畜の肥育に近いのではないかと微妙な気分だった。



 食堂でダニールとイグナートも合流し夕食にした。昼間は軽食で済ませているので温かいシチューが嬉しい。胃にしみていく。

 あまり食べつけない煮込まれた肉を噛みしめていると、ガツガツ食べていたイグナートがふと手をとめた。


「マルーシャちゃん、たくさん食べてる? ゆっくりなだけ?」

「食べてますよ」


 このままでは同行者全員から餌付けされるかもしれない。マルーシャは危機感におそわれた。今はいいが、朝や昼にあまり食べては馬車に酔ってしまいそうだ。


「――あのう、お食事中失礼します」

「あ、パン屋さん?」


 横から遠慮がちな声がした。見れば先ほど屋根修理人の騒動があったパン屋の店主だ。わざわざ探しあてて挨拶に来たらしい。まあ見慣れぬ旅人など、宿にいて当然だが。


「お礼も申し上げず失礼を。おかげさまで職人は怪我で済みましたし、薪も確保できました」

「それはよかったです」

「ここにはウチのパンを卸してるんで。明日の朝のパンは奥さまのおかげですよ」

「……じゃあ美味しくいただきますね」


 奥さま。

 そう呼ばれてマルーシャの笑顔がぎこちなくなった。誰と夫婦のように見えたのか――流れを考えればダニールだろう。また妙に意識してしまう。

 頭を下げて帰っていくパン屋を見送り、ミュシカがコソッと尋ねた。


「お母さま、さっきおまじないしたんだよねえ?」

「……バレた?」

「わたしわかるもん!」


 雨よけのおまじないを使ったのを馬車にいながら感じたのか。さすが〈冬告げの姫〉なのだが、マルーシャのこともほめてくれる。


「お母さますごい!」

「ダニールさんが教えてくれたおかげだから」

「お父さまも、お母さまがおまじないできたらうれしいよ」


 ミュシカは満面の笑みだ。しかし突然ダニールが思い詰めた口調になった。


「僕は――研究しているだけなんです」

「はい? それはすごいことですよね?」

「でも暮らしに活かすのは難しい」


 ダニールは顔を上げ、マルーシャを見つめた。


「花を咲かせて商売にする可能性なんて僕は気づかなかった。村の少年が花を探していることも僕だけじゃわからなかった。パン屋を助けた方がいいかとは思ったけど、動くよりまず考えてしまった。それじゃ、いくら知識があっても駄目なんです」


 マルーシャはきょとんとなって食事の手を止める。この人は何を言っているんだろう。


「マルーシャさんの行動力を僕は見習うべきかと。情けない言い方で申し訳ありませんが」

「おまえが見習うべきは、マルーシャちゃんの生活力だと思うぜ?」


 苦笑いのイグナートがバシンと友人の背を叩いた。

 ダニールも行動だけならできる。調査研究にも必要不可欠な力なのだから。ただ学問に没頭し浮世離れしていたせいで応用がきかず、世間に対応できないのだ。


「そう……か」

「おう。旅の間は一緒にいられるし、おまじない教えたりもするんだろ。二人で理解を深め合えるじゃないか」

「迷惑でなければ、もちろん」


 おまじないの知識は豊富だが使いみちがわからない。そんなポンコツのダニールは真剣に考え込んでつぶやいた。


「僕も人の役に立てるでしょうか。マルーシャさんのように」

「私、そんなたいしたものじゃないです……!」


 真っ直ぐすぎる志を表明されてマルーシャは赤面した。感じたままに動き、話しているだけなのに、尊敬する口ぶりなどされても困ってしまう。

 そしてマルーシャの可愛らしさをアピールする作戦だったラリサとイグナート。この話の流れに首をひねってしまう。

 ダニールの感覚は、やっぱり捉えどころがなさすぎるのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ