95 魔王降臨
みんなが、振り返る。
振り返った先には、黒いトゲトゲの鎧に包まれた、無愛想で巨大なズッキーニがいる。
つられてズッキーニを見たアコカンテラが、目を見開いて震えだす。
「魔王様。」
アコカンテラが、ぼそっとつぶやく。
「そう呼ぶ、口の悪いやつもいるよ。」
僕が答えた。
「いや、間違いない。
あの胸の、血のような炎の紋章、魔王様の鎧だ。」
アコカンテラが、力のない声で、だが確信を持って言った。
やれやれ、また、おかしなヤツが出てきましたよ。
「私達は、子どもの頃から、絵本であの紋章を見せられて育つ。
いにしえのある代の魔王は、黒き森の民から出ているからな。
数百年前の話だが。」
なるほど、その魔王を大賢者ラフレシアが倒し、お宝コレクションに加えたわけだ。
とりあえず、だまっておこう。
大賢者ラフレシアの宝には、こいつは過剰に反応しそうだし。
「どうしたのだ?
その魔王様の鎧は。」
「大穴の中で拾った。」
ズッキーニが反応する前に、てきとうに答えた。
ズッキーニは、反応しなさそうだけど。
「そうか…。
その魔王様は歴史から、忽然と消えている。
どんな文献にも、その後の魔王様のことは残されていない。
大穴の中に、なにかヒントがあるのかもしれん。」
『ないけど』
思ったけど、言わなかった。
アコカンテラは、目をつぶった。
「アコカンテラの体力を、長旅に耐えられる程度に回復させる方法に、心当たりがあるのですか?」
村長が、僕に聞いた。
「うん。
精気を流し込む。」
「弱った者に、そんなことを?
この村の治癒師にも、そんな微妙な精気の操作をできるものなど…。」
付き添いの女性が、驚く。
「ばあちゃんはその方法で、少し元気になってる。
アコカンテラに効くかどうかはわからないけど、何もしないよりいいでしょ?」
疑問の目に囲まれる中、僕はアコカンテラの手を取り、目を閉じた。
アコカンテラの精気の流れを探ると、どうも、自分で流れを整えている気配がない。
こいつは、繊細な精気の操作などをしたことがないようだ。
ただ、膨大な量の精気を、垂れ流してここまで生きてきたに違いない。
ある意味すごいヤツだけど、精気=魔力を扱うことを商売にしているわりには、だらしがない。
なんだか、ばあちゃんにやったみたいに丁寧にやるのは、バカらしくなった。
雑に、精気を流し込む。
アコカンテラの身体が薄っすらと輝き、頭髪に艶が出てフワフワと浮き上がる。
肌のシワが押し出され、皮膚に張りが出てくる。
アコカンテラは目を開き、興奮気味に笑い出す。
「なんだ?
みなぎる、みなぎるぞ?
アッハッハッハ!」
やっぱり、アコカンテラはちょっと気持ち悪い。
僕は、アコカンテラが壊れてしまう前に、精気を流し込むのをやめた。
アコカンテラは、ひとしきり笑ったあと、バッタリと倒れて寝息を立てていた。




