94 アコカンテラの涙
アコカンテラは瀕死だった。
ばあちゃんよりも、ひどく見えた。
寝台に横たわるアコカンテラからは、精気がほとんど感じられなかった。
ばあちゃんは、長寿のアコカンテラはまだ若いと言っていたが、老衰死寸前の老人のように見えた。
頭髪に艶はなくまばら、身体の肉は落ちて皮だけになり艶もなくシワシワ、目は落ちくぼみ影を作っている。
僕は、怪訝に感じていた。
大量の魔力を持つ、強力な魔道士といわれたアコカンテラが、なぜ、ここまで衰弱しているのだろう。
シーフのばあちゃんにできていた、精気の流れを整えることを、なぜ魔道士がうまくできていないのだろう。
村長の補佐がうなずくと、付き添っていた女性がアコカンテラにそっと声をかける。
アコカンテラが静かにまぶたを持ち上げる。
焦点が定まらないのか、しばらくぼんやりしている。
補佐の男が、アコカンテラに顔を近づけて、はっきりとした声で話しかける。
「アコカンテラ。
あなたがずっと探していたハナさんの、遣いの方が見えられた。」
アコカンテラの目に、みるみる生気が宿ってくる。
アコカンテラが見回すので、一歩前に出て話す。
「ばあちゃんの…、ハナの使いだ。
ばあちゃんの呪いを解いてもらいに来た。
あんたは、ばあちゃんの呪いを解く気があるのか?
どうすれば、呪いを解くことができる?」
僕の話を時間をかけて理解すると、アコカンテラの目から涙が溢れてきた。
「そうか、ハナの孫か。
ハナには謝っても、どうにも取り返しのつかないことを、してしまった。
それでも、ハナに謝りたい。
そして、ハナの呪いを解きたい。
こんな、尽きない苦しみを与えてしまったことを、許してもらえなくても、謝りたい。なんどでも、謝りたい。」
アコカンテラは悔恨の涙を流し続けた。
「どうすればいい?
どうすれば、呪いを解ける?」
僕は、もう一度聞いた。
「呪いをかけたときと同じように、ハナが私の視界にいなければならない。
ハナは近くにいるのか?
私の命は、もう長くはない。
長旅には耐えられないだろう。」
アコカンテラは無念そうにうなだれる。
「長旅に耐えられる程度に、元気になればいいんだな?」
そう言って、唐突に不安に襲われる。
ばあちゃんも、大賢者ラフレシアも、アコカンテラを気味悪がっていた。
「だが、ばあちゃんを眼の前にして、変な気は起こさないほうがいい。
一瞬で、肉片に変わることになる。」
僕が言うと、周りの人達は目を見開いて、僕を見ていた。
「ズッキーニなら、やりかねない。」
僕は、急いで言い足した。




