85 ズッキーニの剣
僕は、じいちゃんの家を出て、ズッキーニの耕す畑に向かった。
よく晴れた、暑い日だ。
雲の輪郭がはっきりしている。
強い日差しの中、畑に立つ巨体が見えてくる。
巨人族としては小さくても、人族としては巨大だ。
頭髪のない頭に、濃いヒゲ。
眉骨の影が暗く、表情はわからない。
こっちに気づいたのか、手をひさしにして見ている。
口の端がわずかに動く。
これが、彼の会釈なのかもしれない。
身体から立ち昇る精気は、以前にもまして確かな揺るぎないものになっている。
「やあ、ズッキーニ。剣を振ってみてくれないか?」
ズッキーニはわずかに目を見開くと、畑から出て、大木に立てかけてある剣をとった。
ズッキーニの体格にはかなり短い、見るからに安物の古い剣だ。
剣をかまえ、頭上で止める。
精気のゆらぎも止まり、時間が止まったように感じる。
なんの前触れもなく静かに振り下ろされた剣は、空間を切り裂いた。
じいちゃんの言っていたことが、理解できた。
ズッキーニの剣は速くて、強い。そして、なにより、静かだ。
大イノシシ程度なら、わけもなく両断されそうだ。
「ズッキーニ、僕と行くかい?
何があるか、わからないけど。」
ズッキーニは、口角をわずかに上げた。
今度は、微笑んだのだろう。
「じいちゃん、ばあちゃん、ちょっと行ってくる。」
ズッキーニは野太い声で、畑の外で作業をしているじいちゃんとばあちゃんに言った。
「ああ、気をつけてな。」
のんびりとした声が、返ってきた。
しかし、問題は剣だ。
ズッキーニはずっと素振りをしてきた。
何かを斬ったことはないのだろう。
ズッキーニの力で何かを斬ったときに、この剣が耐えるとは思えなかった。
「ちょっとまってて。」
僕は、ズッキーニをそこに残したまま、じいちゃんちに走った。
さっき、あずけられたばかりのカバンを催促され、じいちゃんは怪訝な顔をしていた。
僕は、大賢者のカバンに手を突っ込み、《巨大で強い剣》を思い浮かべた。
引き抜いた僕の手に握られていたのは、僕の背丈より長くて分厚い、ヤバい気配を漂わせた剣だった。
「なんじゃ、それは?」
じいちゃんは、普通の大きさのカバンから出された巨大な剣に、のけぞって驚いた。
やはり、そうだ。
これは大賢者ラフレシアが大昔に集めたコレクションだ。
《マグマの短剣》と《氷河の短剣》の出所を考えたときに、ここしかないと気がついた。
「ついでに。」
僕は、もう一度手を突っ込み、《巨大で丈夫な鎧》を思い浮かべた。
カバンから引きずり出されたのは、黒くてイガイガした、禍々しい瘴気を放つ巨大な鎧だった。
じいちゃんは、眉間にシワを寄せている。
「僕の分も。」
僕は、さらに手を突っ込み、《僕に合う大きさの、丈夫な鎧》を思い浮かべた。
出てきたのは、白っぽい地味な普通の服だった。帽子も付いてるけど。
これしか、持ち合わせが無かったんだね…。
見た目は地味だけど、まとう気配は安心感を感じさせるものだった。
僕は、出てきた服に着替えた。
そして、じいちゃんに礼を言って、ズッキーニの新しい剣と鎧を持って、ズッキーニの元に走った。
ズッキーニは大剣を軽々と持ち上げると、自分の小さな剣となんら変わらないとばかりに、ピュンと振り抜いた。
そして、イガイガした鎧を見ると、子供のように目をキラキラさせていた。




