81 ばあちゃんの呪い
「ワシは、魔道士アコカンテラに呪われておる。」
ばあちゃんは、確認するように、呟いた。
「ワシは、自分が呪われるまで、この世に呪いなどというものがあることすら、知らんじゃった。
ワシはアコカンテラから逃げたあと、この森に向かった。
どこかでだれかから見かけられても、目的地の見当がつかんくらい、あちこち無駄なルートを通りながらここまで来た。
この森は、そのパーティーに入るずっと前に、来たことがあった。
若い駆け出しの頃、大陸から渡ってきて、この森に挑んで、すぐに逃げ出した。
この森には、貴重な資源や素材がたくさんあり、自分を鍛えるには強い獣がたくさんおる。
昔から、自分の力を見誤った若い冒険者が挑み、もどらんかった。
ワシはシーフじゃ。
戦わずに、隠れ、進む。
魔道士アコカンテラは、大イノシシよりもずっと強い。
本当は、もっと奥地の方が安心なんじゃが、ワシの力じゃ牙熊から逃げ続ける自信がもてんかった。
それにアコカンテラは、綺麗好きで暑いところが苦手じゃった。
根拠もなくこんな熱帯のジャングルには来まい。
ワシは、ここにたどり着くまでのいろいろな町で、身体を診てもらった。
最初は、病気だと思っておった。
じゃが、ワシの身体にはどこにも悪いところはなかった。
大陸には、いろいろな考えに基づく治療師がおる。
誰に診せても、肉体的には健康だと言われた。
じゃが、ワシの肩は重く、呼吸は苦しく、汗が出る。
おまけに、世界から色を失ったままじゃ。
ある森の民が、これはおそらく、黒い森の民の呪いであると教えてくれた。
人が精気を整える根幹の部分に、小さな異物があると。
それは、ワシを少しずつ蝕み、損ない続けるそうじゃ。
しかし同時に、それと共存することもできると、教えてくれた。
ワシは気術を学び、意図的に、のちに無意識に、異物が乱した精気を整えつづけておった。
数十年、そうしておった。
そいつに、限界が訪れたということじゃろう。」
ばあちゃんは、目をつぶって、ゆっくりと呼吸を整えた。
「恐ろしいのは、この呪いは、術者にも同じ作用があるということじゃ。
アコカンテラも、この呪いに苦しんでおる。
あるいは、無理やり抑えているのやもしれん。
ただ、森の民は総じて、ワシら人族よりも、倍以上長命じゃ。
ワシを呪い殺せば、自分への呪いは解けるのやもしれん。
なんという、執念じゃろう。」
ばあちゃんは、ため息をついた。




