79 ばあちゃんの容態
ばあちゃんは、静かに眠っていた。
顔が小さくなっていた。
布団から出ている手も、細い枝のようだ。
僕は寝台の横に膝をついて、ばあちゃんの手をとった。
ばあちゃんは静かに目を開け、病人とは思えない満面の笑みをうかべた。
「やっぱり、無事じゃったな。ゴロゴロが簡単にくたばるわけがあるかって、言っておったんじゃ。お前には話さんといかんことがある。間に合ってよかった。」
ばあちゃんの笑顔と弱々しい声に接して、僕の目からは涙が溢れてきた。
涙はつぎからつぎへと流れ、止まらない。
「なんじゃ? まだ、死んでないぞ?」
ハナは屈託なく笑った。
「まずは、要件をすませておこう。お前にやったカバンじゃ。あれはただの便利なカバンではない。あれは、太古の大賢者ラフレシアへの、入り口じゃ。」
ばあちゃんがおかしなことをいいだした。
気が触れたようには見えないけど…。
「なんじゃ、その顔は。ワシはまだ正常じゃ。」
ばあちゃんは怒るふりをしたが、もう大きな声は出せないようだ。
「まぁ、これだけを言っても、なんのことかわかるまいな。順を追って話そう。
ワシは若い頃、数人のパーティーで冒険者をしておった。お宝を探して、世界中を回っておった。
パーティーでのワシの役目はシーフじゃった。地図を見て、追跡し、罠を見つけ、短剣で戦う。要するに雑用係じゃ。戦力は期待されておらん。
そのパーティーが、『《大賢者の滅魔法》というものが、ある迷宮に眠る』という噂を聞いた。
大陸では、気術は魔法、精気は魔力と呼ぶのが一般的じゃ。
ここよりも文明の進んだ大陸では、魔法が研究されておる。
それでも、1度失われたいにしえの魔法におよぶものはないと言われておる。
その時パーティーで魔道士をしていたのは、森の民との類似種である、黒き森の民じゃった。精気が膨大で、強い魔道士じゃった。
そやつが大賢者の滅魔法を欲しがった。
ワシは反対じゃった。
そやつは、悪人ではなかったが、魔法に対する執着は、恐ろしいほどじゃった。
雑用係のワシの反対など、そやつは聞かなかった。
パーティーのメンバーも、パーティーの戦力が上がるのであれば良いのではないか、という判断じゃった。
だが、ひと月探しても見つからんかった。大賢者が強力な魔法を、そんなに簡単に見つかるところに隠すはずがなかったんじゃ。
パーティーメンバーはすでにあきらめかけておったが、その魔道士はあきらめんかった。
魔道士の目には狂気が宿っておった。
ワシはそれを危ぶんで、もうあきらめようとパーティーに再度進言し、パーティーリーダーも撤退する決断を下した。
じゃが、魔道士はそこに残ると言った。
パーティーを抜けて探し続けると。
その迷宮で、隠せるところはあとわずかじゃと。
リーダーは悩んだ。
そのパーティーには強力な剣士はおったが、強い魔法を使えるのは、その魔道士だけじゃった。
それでも、リーダーは、その迷宮から撤退することを決めた。」
ばあちゃんは、目をつぶって深い息をついた。




