73 角猿の群れ
僕らは、地図の最後のルートを進んでいた。
この、無限にも思えた分岐の、最後のルートが出口だったなんて可能性を、楽観的な僕でも信じていない。
僕たちの進む先に、たくさんの獣の気配を感じた。
どうも、馴染みのある気配だ。
『角猿だね…。』
僕が確認した。
『そうだね。』
ウホウホは、覚悟を決めた顔をしている。
『やつらはきっと、とうちゃんのかたきだ。』
ウホウホは続けた。
『え? おまえのとうちゃん、何にやられたかはわからないって言ったろ?』
僕は驚いて言った。
『そのときぼくは、ちっちゃかったんだよ。でも、はっきりおもいだした。このとてもつよくて、いやなけはいとにおいはまちがいないよ。むれをおそったやつだ。』
ウホウホの真剣な顔は、いい加減なことを言っているようには見えない。
『てつだってくれる?』
『それは、もちろんだけど…』
『でも、ぼすは、ぼくにやらせてほしいんだ。』
『ああ、わかった。』
僕は、ウホウホの強い決意の前では、うなずくだけだった。
僕らは、角猿の集団に向かって進んだ。
近づいて見ると、奴らの気配が明らかになる。
そうとうに強い攻撃的な気配が、その大人の角猿たちからは立ち昇っている。
『奴ら、強いぞ?』
僕は確認した。
『だいじょうぶだよ。いまのぼくらなら。』
そう笑って、ウホウホは飛び出していった。
ウホウホは、手近な角猿の背中を蹴り倒して、その勢いで隣の角猿を殴り飛ばした。
群れの角猿たちは、突然襲われて驚いていた。
でも、戦い慣れているのか、すぐにウホウホをとり囲んだ。
僕は、遅れて飛び込んで、背を向けている角猿の頭を回し蹴りで蹴り飛ばした。
けられた角猿は、隣の角猿を巻き込んで、吹っ飛んでいった。
ウホウホよりも大きな10数匹の角猿たちが、僕達を取り囲んだ。
その向こうに、ひときわ大きな角猿が、こちらを不思議そうに見ている。
『2ひきでとびこんでくるとは、どういうことだ? しにてえのか?』
ボスザルと思しき、巨大な角猿が低い声で怒鳴った。
『おまえは、ぼくのいたむれをおそって、とうちゃんをころした。こんどはぼくが、やっつけてやる。』
『うん?』
ボスザルは、ウホウホを見て、首を傾げる。
『そのつのには、みおぼえがあるなぁ。みなみのたにのボスザルのウンババが3ぼんつのだった。つよいボスだったなぁ。』
『おまえがころしただろ?』
ウホウホは、強い声で聞く。
『オレもむれをひきいていたからな。えさばをうばわないと、うえじにだ。だが、ウンババがつよくて、オレもひどいケガをしてにげだしたけどな。おれのケガのほうがひどくみえたが、あのあとウンババがしんだときいた。』
ボスザルは、よくわからんというふうに、首を振って続けた。
『だが、おまえもりっぱなおとなのつのざるだ。なわばりをあらそって、やったりやられたりは、オレらのさがだ。もちろん、うられたけんかはうけてたつが、2ひきでやれんのか? しかも、そっちはひよわなにんげんじゃないか?』
ボスザルが意地悪く笑う。
『ぼくも、それほどうらんでいるわけじゃないよ。しょうがないよね、つのざるだもん。でも、とうちゃんのかたきがちかくにいたら、たたかわないわけにはいかないだろ? つのざるだもん。』
ウホウホは朗らかに笑う。
『いいこころがけだ。やっちまえ!』
ボスザルが、洞窟に響く大声を上げた。
大きな角猿たちが、雪崩を打って押し寄せてきた。




