70 迷路
洞窟は広くなり、歩きやすくなった。
歩きやすくなったが、それだけのことだった。
長時間歩いた洞窟が、突然行き止まりになっている。
また、長時間かけて戻り、違うルートを選ぶ。
地図のおかげで同じところを歩くことはなかったが、洞窟の分岐は無限と思われるほど、たくさんあった。
途中で遭遇する大コウモリや大ネズミなどの生き物は、虫にくらべれば戦いやすく、食料には困らなかった。
壁から水が染み出しているところも多く、水にも困らなかった。
ただ、時間が過ぎていった。
何度眠ったかはわからない。
陽が昇らないので、眠った回数が過ぎた日数かどうかもわからない。
時間だけは、たくさんあった。
僕とウホウホは、たくさんの話をした。
角猿は、人間と変わらないほどの、知性を持っていた。
喉の違いか、言葉は人間ほどわかりやすく発音できなかった。
それでも、話をするたびに言葉の細かい意味合いも、通じるようになってきた。
ウホウホにも、幼い時の記憶の中に両親がいた。
大きな群れの中で、にぎやかに暮らしていた。
その両親が、1匹ずついなくなった。
獣にやられたのか、人間にやられたのか、わからない。
自分1匹になったとき、群れの長老が面倒を見てくれた。
その長老も、なくなった。
その後の群れは、あまりウホウホに親切ではなかった。
ウホウホは、群れを出た。
最初は大変だったが、すぐにエサをとれるようになった。
ウホウホは陽気で、他の猿と近づきたかった。
何匹かの猿、いくつかの群れに近づいたが、拒まれた。
それでも、ウホウホの陽気さは、めげることがなかった。
僕に興味を持ち、果物を投げてくれた。
『ゴロゴロのおかげで、ぼくはまだいきてる! あのとき、くだものをなげておいて、よかったよ!』
ウホウホは笑う。
『僕の方こそ!』
僕も笑う。
『こんな、暗いところ、一人で長い時間歩いていたら、寂しくて死んじゃうよ。』
ウホウホは、怖がりで寒がりだけど、いつも楽しそうだ。
僕も、寂しさを感じるのを忘れてしまう。
他にも、森のことを教えてもらった。
食べ物のことが多かった。
おいしい果物や、動物の肉。
猿は、もともと生で肉を食べるが、僕の影響で、焼いた肉のほうが好きになったそうだ。
ウホウホが歩き回った森の範囲は、限定されていた。
それが、猿の縄張りのようだ。
その、猿の縄張りの中で、多くの群れが勢力を争い、群れの縄張りが分かれている。
だから、自分たちのエサ場に他の猿を近づけない。
ウホウホは、猿の縄張りの外のことを、小さな頃から知りたくて仕方がなかった。
群れにいたときは、群れの縄張りを出ることは、許されなかった。
群れを離れても、自分の怖がりな性格から、猿の縄張りを出る勇気がでなかった。
『ゴロゴロはつよいもんね。ゴロゴロがいれば、どこにでもいけるね!』
ウホウホがうれしそうに言う。
『そうだな。僕も、ウホウホがいれば、楽しいな。ここから出られたら、いっしょに冒険しよう!』
僕も、こたえた。
でも、僕らがここから出ることはしばらくなかった。




