67 小部屋
僕らは、大クモの部屋を通り過ぎ、先へ進んだ。
穴はもとのせまさに戻り、通路のような洞窟だった。
生き物の気配はなく、右に左に曲がっているが、一本道だった。
洞窟は、唐突に行き止まりになった。
行き止まりの壁面の前に、大きな岩があるが、それだけだった。
念の為に大岩の裏側を見てみたが、何もない。
『ウホッ?』
ウホウホが首をかしげている。
「どうしたの?」
ウホウホが、自分の長い腕の毛を指差している。
毛はサワサワとそよいでいる。
僕が近づいていくと、ウホウホは大岩の裏に廻り、しゃがみこんでいた。
大岩の陰になった下の方の壁面に、地面と平行な隙間があるようだ。
ウホウホがふせて、やっと通れる隙間だった。
ウホウホは、隙間に消えていった。
ためらわず入って行ったところを見ると、怖い生き物の匂いも音もしないようだ。
僕も後を追って入った。
中は漆黒の闇。
目に精気を込めても、それほど広くはない部屋のようになっているのが、なんとなく分かるだけだ。
僕はマグマの短剣に、精気を流した。
あたりが照らされ、部屋の状況が見える。
ここは、誰かが住んでいた隠れ家のようだ。
大穴の底にある植物で作った、簡素なベッドや棚や机があった。
ベッドが3つあるところを見ると、3人いたのかもしれない。
ひとつのベッドに、骨になった亡骸がある。
亡骸は、綺麗な糸で複雑な模様を織られた生地を使った、手の込んだローブを着ていた。
ベッドの脇には、不思議な光を放つ石の埋め込まれた、黒光りのする木の杖が立てかけてある。
サイドテーブルには、革表紙のノートが広げてあり、ペンは机の下に落ち、インクつぼは倒れて、インクは乾いて机のシミになっている。
ノートを見てみたが、知らない文字が並んでいる。
「知らない文字?」
ふと、我に返る。
僕にも知っている文字が、あるような気がする。
ベッドから離れた棚には、質素な手作りの食器、ローブと似た生地で作られた肩掛けカバン、柄にどこかで見たようなしるしの彫られたナイフなどが、置かれている。
ここに持ち込まれたもののほとんどからは、何かしらの精気を感じる。
カバンの中からも、強い精気を感じる。
カバンを開けてみると、中には古い4つ折りの紙と、イガイガの玉が3つ入っていた。
イガイガの玉は、おそらく爆裂玉。
投げて衝撃を与えると、爆発するものだと、聞いたことがある。
4つ折りの紙は、強い精気を放っている。
開いてみると、地図だった。
おそらく、この洞窟の地図だ。
ただの地図が、どうして強い精気を放っているのかは、わからない。
もう一度、棚や机、部屋の中を見回してみた。
ここにあるものは、これですべてのようだ。
僕は、なんとも言えないせつない気持ちになった。
ここから出られなくなった者が、この程度の荷物しか持っていなかったことが、気の毒でならなかった。
そして、最後には一人きりになってしまったのだろう。
どんなに、寂しかったことか。
どんな絶望の中で、身体が弱っていったのか。
僕は、どうにかして、この亡骸の書いたノートの内容を知りたくなった。
僕は、ここに亡骸が持ち込んだ道具を、なるべく多く持ち出すことに決めた。
亡骸からローブを脱がすのは、申し訳なく感じたが、このローブには何らかの強い力があり、ここで終わらせるのはローブが気の毒だと思った。
ローブを脱がせた亡骸には、毛布だったと思われる布をかけた。
僕は、ウホウホにローブを着せ、カバンをかるわせ、杖を持たせた。
ウホウホは妙にたかぶって、はしゃいでいる。
杖を片手に持ち、前に突き出し、
『ウホへっ』
と唱えると、電光が杖の先からほとばしった。
ウホウホは、目を丸くして驚いていた。




