60 大穴
僕は足に精気を込め、全力のスピードで洞窟に向かった。
洞窟の前に着くと、すぐそばにある大穴の方に向かう。
大穴の縁に立つと、なんとも言えない恐怖が湧き上がる。
下の方は薄暗くて、霧のように煙ってよく見えない。
これほど広い大穴の底の方に陽の光が届かないなんて、どれだけ深いのだろう。
縁から真下を眺めると、小猿が言っていたことが、わかった。
縁の一部が、急な斜面になっている。
斜面と言っても、急すぎて登ることはできないだろう。
おまけに、砂が浮かんでいて、とても滑りそうだ。
僕は、そこに、飛び降りた。
やはり、砂のせいで滑って止まらない。
体勢も、途中から回り始めて、足が下というわけにはいかない。
しばらく滑ったあと、突然止まった。
周りを見ると、薄暗いが、まだ周りの状況を見て取ることができる。
ここは、広い踊り場になっているが、底はまだまだ先のようだ。
僕は、続きの斜面に飛び降りた。
次に止まったのは、漆黒の闇の中だった。
自分の手も見えない、完全な闇の中。
僕は思いついて、鉄の短剣をマグマの短剣と付け替えた。
腰に下げたまま、静かに精気を流し込む。
マグマの短剣は、さやごと柔らかな光を放った。
歩くにはじゅうぶんの明るさだった。
あの、扱い難かったマグマの短剣が、最近、しっくりくるようになってきた。
思い返せば、ミカンのところで気術の練習をしたあたりからだ。
気術に理解を深め、繊細に精気を流すようになり、精気自体の量もずっと増えた。
マグマの短剣が、僕を主と認め、僕に心を開いたような感覚だ。
僕は、マグマの短剣をそっとなぜた。
ウホウホを呼んでみるかどうか、考えていた。
この大穴の中には、トゲアリや他の虫が大量にいるという。
声を出すことによって、虫を呼び寄せるのではないか。
そんな疑問が、頭を巡っていた。
気配を探っても、ウホウホの気配はない。
ウホウホも、警戒して気配くらい消すはずだ。
野生動物なのだから。
僕は、このまま黙って気配を消したまま、しばらくウホウホをさがすことにした。




