37 ベリー
メスの牙熊の死骸があるあたりに向かうと、不吉な気配があった。
そっと、木の陰からようすをうかがうと、死骸のそばにオスの牙熊が座っていた。
頭の毛が焼けて、ところどころ皮膚のただれているオスの牙熊は、何をするでもなく、ただ座っていた。
怒るでもなく、イラつくでもなく、ただ、そこにいた。
僕は、なんだか居心地が悪くなって、そこを離れた。
ドリアンが言っていた大きな木は、すぐにわかった。
大木の下に立ち、左腕を回してみた。
まだ少し、しびれているけど、だいぶ回復していた。
僕は両手を使って、木に登った。
すぐに、何本もの大きな枝が分かれているところに、たどり着いた。
そこは、広くなっており、ひとりの男がうつぶせで倒れていた。
男には、気配がなかった。生き物としての精気が、全く感じられない。
僕は、男の横にしゃがみ、ようすを確認した。
男は目を閉じている。
しているのかわからないほどに、かすかな呼吸をしている。
背中には牙熊の爪がえぐった傷があるが、ふさがりかけている。
男は静かに目をひらき、僕を見た。
だが、言葉を発することはなかった。
穏やかに微笑み、自分は大丈夫だと、伝えてきた。
牙熊は生き物の気配を読む感覚は、それほどでもないが、音や匂いは、とてもするどく感じとる。
それを知っているんだ。
ベリーは、優秀な猟師だった。
僕はベリーに、背負って逃げると伝えた。
ベリーは少し考えていたが、僕に任せることにしたようだ。
うなずいて、すまなそうな顔をした。
僕は、静かにベリーを背負い、牙熊に目をやった。
牙熊は、変わらず静かに座っている。
僕は牙熊と反対方向に飛び降りた。
着地の音と、浮遊術の精気の放出を天秤にかけ、精気の放出を選んだ。
うまく、音をたてずに着地して、そのまま走った。
全力で走りながら背後の気配を探ったが、牙熊が追ってくる気配はなかった。
僕は、念の為に、何度か無駄に曲がり、遠回りしながら、ドリアンの小屋に向かった。
「ありがとう。どうやら、助かったようだね。私はベリー。ドコンの村で、猟師をしている。」
「知ってるよ。僕は、ゴロゴロ。村長にたのまれて来たんだ。ドリアンさんは、先に小屋に帰ってるよ。」
「そうか。」
ベリーは、安心したようにつぶやいた。




