36 逃走
岩穴に入ると、ドリアンがけわしい顔をしている。
「大丈夫か。ひどい格好をしているぞ。」
言われて、自分を見てみた。
はあちゃんに作ってもらった革の胸当てがボロボロだった。
片方の肩当てはなくなっている。
「まあ、大丈夫かな。ちょっと左手が使えないけど。それより、逃げるよ。痛いと思うけど、我慢して。」
僕は、ドリアンを背負い上げた。
「ぎゃー。」
ドリアンの折れた足が動き、悲鳴を上げた。
僕は、かまわずに入り口から飛び出た。
牙熊の炎は消えていたが、苦しげに激しく頭を振っていた。
僕は気配を消して、牙熊と反対方向に走り出した。
ドリアンは、さすがだった。
痛いだろうに、声をあげずに気配を消していた。
後ろを素早く振り返ると、牙熊は僕らが逃げ出していることに気がついて、こっちに向かっていた。
僕は無心で走った。
牙熊のほうが僕よりも速いはずだが、頭のやけどのせいか、距離は縮んでいなかった。
牙熊はときどき、いまいましげに吠えている。
僕らは気配を消しているので、牙熊の視界の外に出れば、逃げ切れるはずだ。
「そこを左。」
しばらく走ると、背中から苦しげな小声が聞こえた。
「大きな木を右。」
なんどか、指示にしたがって走ると、背後の牙熊の気配は、なくなっていた。
速度をおとして、ゆれないような歩きに変えた。
「この先を、右に行けば、メスの牙熊が倒れている。大きな木の上にベリーがおるはずじゃ。」
「2人いっしょには運べないよ。いっぺん小屋に帰ろう。」
僕が言うと、ドリアンは無念そうに同意した。
背中では、苦しそうな息づかいが続いている。
ドリアンの言ったとおりに進むと、ドリアンの小屋に着いた。
ドリアンをベッドに寝かせ、水を飲ませると、僕は小屋を出た。




