31 牙熊
その牙熊は、岩壁の前に座って、岩にあいた小さな穴をにらんでいた。
岩壁の近くには木がなく、少し離れたところの木もなぎ倒されていて、見通しがよくなっている。
これでは、牙熊から隠れる場所がない。
牙熊の身体には、十本以上の矢が刺さっているが、それでダメージを受けている気配はない。
穴の中には、弱い気配がある。
たぶん、ドリアンだろう。
この牙熊は、ドリアンが飢えて出てくるのを待っているのか。
でも、ベリーはどこだ?
岩穴の中からは、ひとつの気配しかしない。
僕がわからないほどに、完全に気配を消せるのか?
いや、ちがう。
穴の中にはひとりしかいない。
どうする?
後ろから、牙熊を攻撃するか?
いや、効かないだろう。
時間をかせいだところで、ドリアンが自力で逃げ出せるかどうかは、わからない。
穴の中の気配が弱い。
気配をかくしているのではなく、弱っている。
穴の中に入ってみるか。
出るのは大変そうだけど、入るのは簡単そうだ。
僕は、気配を消したまま大きく回って、ずっと離れた岩壁に近づいた。
穴のある場所の岩壁のように、まっすぐ切り立っているわけではなく、ところどころに段があり、登りやすい。
登りきって上を歩き、牙熊から見えないように、穴の真上まで来た。
そっと、牙熊の位置を確認すると、ここが穴の真上であることは、間違いなさそうだ。
僕は、素早く飛び出し、穴に向けて飛び降りた。
気配を消したままなので、牙熊は気がついていない。
だいぶ落ちたところで、僕は牙熊の視界に入った。
牙熊は素早く立ち上がり、こちらに向かって大きく跳んだ。
僕が着地寸前に浮遊の気術を使い落下を止めると、牙熊の爪が僕の目の前にせまっていた。
僕は、瞬間的に下に出していた精気を、牙熊の方に切り替えた。
僕は、激しく穴の中に転がり込んだ。




