24 村長のたのみ
「やあ、ゴロゴロ。すこし時間があるかな?」
村長は、笑顔で言った。
僕は、村長と歩き出した。丘へ向かう道、中央の広場を見下ろせる少し高台になったあたりに、大きな木があった。
木の木陰で村長は立ち止まった。
広場の向こうには、民家と畑、その向こうには僕が入ってきた門が見える。
「いい村じゃろう?」
村長は村をながめて、満足気に言った。
「うん。」
僕も村をながめた。道、畑、家。その周りを高い塀が囲んでいる。整っていて、きれいな村だ。
「プラムのことは、聞いているね。ワシの孫だ。」
村長は話し始めた。少し、深刻な顔にみえる。
「プラムの父親が、つまりワシの息子じゃが、村を出ていったまま、帰ってきていない。名をベリーといって、猟師をしている。」
村長は、悲しそうに首を振った。
「そもそも、話はだいぶ前のことになる。ワシの友人に優秀な猟師のドリアンというのがおった。ドリアンは、ワシとは気が合ったのじゃが、自由な性格をしていて、村での生活はあまりあっていなかった。狩猟で何日も帰らない日が増えていった。久しぶりに村に帰ってきたドリアンは、上流の方の強い獲物が多いあたりに移り住むと言った。 そんな時が来ることは予想していた。ドリアンは弓の達人で、上流の過酷な環境にひとりで住んでも、ドリアンなら生きていけると、ワシも思った。ドリアンが移り住んでしばらくの間は、たまにはこの村にも帰ってきた。大イノシシの肉を持ってきて、代わりにこの村の作物を持って行ったりもしておった。じゃが、なんせ遠い。下流のこの村から上流のドリアンの小屋まで、2日以上かかる。そのうちに、ドリアンはまったくこの村に顔を見せなくなった。年齢もワシより少し上じゃ。身体も動かなくなる。」
村長は言葉を切って、遠くを見ていた。
「ワシはずっと考えておった。ドリアンは弓の達人じゃ。比べて、この村の猟師は、昔の猟師ほどの力はない。息子のベリーもそうじゃ。ひいきめだと言われるじゃろうが、弓の素質はある。それでも、現状、ドリアンほどの腕も力もない。ドリアンが指導してくれれば、この村の猟師の腕も上がる。
一方ドリアンも歳じゃ。ひとりで不便なこともでてくる。晩年を人のおるところで過ごすのも悪くないはずじゃ。」
村長は、僕を見て続けた。
「そこで、息子のベリーにドリアンと話をしてこいと、送り出したのが3週間前じゃ。ワシも行けばよかったのだが、ワシも歳をとった。ひとりでは、上流のドリアンのところまで、たどり着けんし、いっしょに行っても足手まといになる。それに村長が長い間、村を空けることもできん。
ベリーも一人前の猟師じゃ。気配も消せる。よもや、大イノシシのえじきになったとも思わん。じゃが、少し時間がかかっておるのが気にかかる。何かの問題が起きているのやもしれん。プラムも口にはせんが、心配しているようじゃ。
そこで、ゴロゴロにたのみじゃ。急がんでもいい。ハナさんのところに帰ったあと、上流のドリアンのところに様子を見に行ってみてはくれんか?
ドリアンは村での生活を堅苦しく感じて村を出たが、偏屈な男ではない。会って、ゴロゴロがイヤな思いをすることはないはずじゃ。」
村長は真剣な目で頭を下げた。
「うん、いいよ。」
僕は引き受けた。
どうせ、時間はいくらでもある。
それに、この森のことを、もっと知りたい。
村長は、僕に感謝して、帰っていった。




