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「パラレルワールドを救済した場合、その場にいた時間遡行者がどうなるか、ね…」
悠馬に質問されたことだけ答えろと言われた星屑は、顎に手を当てて興味深そうな反応を見せる。
「結論から言うと前例はないが、予測はできる」
「それは?」
「まずこのパラレルワールドから弾き出されるのは確実だね。そもそも君らは招かれざる客だ。何年も何十年も居座ることはできないし、この世界の可能性の破壊という大前提が崩れるのだから、時間遡行者はこの世界から追い出されるだろう」
「…じゃあ、弾き出された後は…追い出された後はどうなる?」
その後はどうなるのか。
肝心な部分について尋ねる。
「まぁ、元の世界に戻るだろうね。君らのいるべき場所は、君たちの生まれた世界なんだから」
元いた世界へと戻る。
それはそうだ。
この時間軸に存在しない人間、招かれざる客なのだから、大前提の可能性の破壊が不可能ならば、元の世界に戻される。
ならばどの時間帯に戻される?
そんな疑問が頭に浮かぶ。
「やはり時間遡行を決断した後に巻き戻るのか?」
「それはないよ。大前提が崩れてるんだ。簡単に言うと、可能性が無数に存在するタイミングまで巻き戻すって感じかな?」
「ってことは…」
「俺は…花蓮ちゃんと…やり直せるのか?」
思っても見ない結末。
可能性を破壊する他に、世界を救うことで自分が救われると知った彼は、口をぽかんと開けて気の抜けた表情を浮かべている。
「ここで勘違いしてほしくないのは、君らが特別だから元の世界に戻れるだけだよ」
「特別…」
特別ってなんだ?
まぁ、確かに記憶を引き継いでいるという点で彼は特別な存在だ。
本来この世界に住まう重要人物しか引き継いでいないはずの記憶を引き継いでいるのだから、特別と言っていい。
これで彼に対する心配やその後のことは考えなくて良くなった。
「それじゃあ、次はシステムウィンドウからの通知と、この世界についてだ」
「この世界については彼に聞いてくれ。干渉力を使いたくない」
「おっけー。それじゃあシステムウィンドウは?」
「言うなれば世界の意思。君たち人類が存続するために何をすべきなのかをガイドしてくれると思ったらいい」
「なるほど…」
確かに、クソいい加減なガイドではあるものの、これまでこのシステムウィンドウに邪魔をされたことはない。
星屑が言うように、世界の意思がシステムウィンドウに反映され、映し出されていると考えていいだろう。
これが何者からの通知か気になっていた悠馬は、ようやくシステムウィンドウが何であるのかを知り、安堵感に包まれる。
「おっと…あまり干渉していると、目をつけられちゃうから、そろそろお暇させてもらうよ?」
「ああ。ありがとな」
「どうも。目に見える敵が全てじゃないことだけはよく覚えておいて」
星屑は去り際に、そう告げる。
目に見える敵だけが全てじゃない。
一体どう言う意味だ?
異能王として、これまで目に見えない敵…つまり潜在悪に関しては意識してきたつもりだが、もしかするとそれらのことを言っているのかもしれない。
別時間軸の星屑のアドバイスを聞いた悠馬は、小さく頷く。
「…わかった」
「ばいばーい」
星屑は悠馬の発言に満足したのか、手を振って消滅する。
そんな星屑を見送り、彼へと向き直る。
「再生終わったろ。…そして今の話も聞いただろ。俺に協力しろ」
腹部を思い切り殴ってやったが、シヴァの再生のおかげで完治しているし、刀で刺した肩も、傷口が塞がっている。
そんな彼に対して視線を落とす悠馬は、彼の真っ黒な瞳をじっと見つめる。
「ああ…だがその前にハッキリさせておきたいことがある」
「なんだ?」
「お前、死相ってどういうことだ?」
「…ああそれ。聞いての通り、俺は近々死ぬんだよ」
彼の質問に答える。
このパラレルワールドにおいて隠す必要のない内容だし、正直に伝えたって問題ないだろう。
彼は悠馬の返事を聞いて、何を言っているんだと言いたげな表情を浮かべる。
「なんで平然としていられる?理解ができない」
「それなりに長く生きてりゃ覚悟も決まるって」
「正直、お前が死ぬのは考えられないな。…その様子、さっきの攻撃、明らかに1度目の特異点に居たお前よりも強かった」
「…まぁ、だろうな」
なんてったって彼が1度目に遭遇した暁悠馬は悪羅百鬼で、悪羅百鬼は俺が殺したわけだしな。
ここで俺が殺したと宣言すれば、また戦闘に陥りそうだから黙っておく。
「って、そんな話はどうでもいいんだよ。俺が知りたいのはこの特異点…パラレルワールドの敵が何者で、1度目のお前はどうなったかって話だ」
「ああ、悪い。ここの敵が誰か…だな」
彼は悠馬にこの世界について訊かれ、1度目の話を始める。
「ここは混沌が解放された来るべき日…その後の世界だ」
「となると、ティナと夕夏が負けたと考えていいか?」
「恐らくな。詳しくはわからないが、混沌…アイツはセカイの領域に至っている」
「ならティナと夕夏は負けてるな。物語能力は物語能力者を殺すことで奪うことができる」
「そうだ。…俺は前回、もう1人の暁悠馬に反転セカイを託して死んだから」
「つまりお前は、1人では混沌に勝てないってことか?」
「無理だろうな。2人で戦っても劣勢は覆せなかった」
悪羅に反転セカイを託したことにより、アイツはレベル99に至ったと言うことだ。
まぁ、当然と言えば当然か。
悠馬自身も反転セカイに至った時は、混沌のレベル89よりも能力値が少し低かった。
タルタロスで戦った際には押されていたし、深淵を覗くことができなければ、負けていたのも事実。
そこから推測するに、暁悠馬の本来の限界値は反転セカイだ。
彼らは反転セカイを越えられない。セカイに至ることができない。
だから悪羅ですら、セカイではなく反転セカイだったのだ。
「混沌のヤツ、そんなに強いのか。興味湧くな」
「興味を抱くのは結構なことだが、お前アイツを救うなんてできるのか?…あれは殺すだけでも一苦労だぞ」
「うーん。実際戦ってみないとわからないな。…ちなみに混沌はどこにいる?」
「アメリカ支部に巣食ってるよ」
「んじゃ、いっちょアメリカ旅行と行きますかぁ」
混沌を救うのが、どれだけの難易度なのかはまだわからない。
セカイを手に入れた混沌とは一度戦ったことがあるが、あの時はかなりギリギリだったし、今回混沌を倒せるとも限らない。
彼の言うように、殺すことはできても救うことができるかという疑問に答えることができない悠馬は、ひとまず混沌のいるアメリカに向かう決意をする。
「ゲート開ける?」
「は?お前が開けよ」
「あのなぁ、今から混沌と戦うんだぞ?普通俺の体力心配しない?」
「んなこと知るかよ」
チッ、コイツ協力的になるのかと思いきや、言うこと聞かねえじゃねえか!
体力の消耗を気にしてゲートを出し渋る悠馬に対して、彼も自分で開けと言ってくる。
「じゃあお前は留守番な。雑魚を連れてくほど余裕があるかわからねえんだ。地球の反対側で待機してな」
「雑魚だと?これでも一度は混沌と戦っ…」
「はいはい。戦うのと勝つのは話が違うんで〜。それに俺は混沌と2回戦って2回とも勝ってま〜す」
「くっ…我ながらああ言えばこう言うクソ野郎だな」
「当たり前だ。誰を相手にしてると思ってんだ。そもそもお前、俺がここで手を引いたら1人で混沌に勝てるのかよ?」
「わかったよ!俺がゲートを開いてやる!」
言い合いに負けた彼は、渋々ゲートを展開させる。
2人の前に黒いモヤのような渦が発生し、悠馬は気を引き締める。
「改めて言っとくが、この世界の混沌はマジでやばいからな。…まともに話し合えるとは思わず、半殺しにしてから話す方が賢明だと思う」
「ああ。わかった。頭の片隅に入れておこう」
彼の計画を聞き、ゲートを潜る。
すると周囲の空気は一気に変わり、生臭い腐敗臭が漂う異質な空間へと辿り着いた。
蝿が飛び回り、半壊した建物が並び立つアメリカ支部。
世界で最も栄えていると言っても過言ではないアメリカ支部がここまで廃れてしまっているのを見ると、こう、なんというか言葉を失ってしまう。
薄暗い闇夜の中、シトシトと降り頻る雨を肌で感じ、上空を見上げる。
悠馬はレッドパープルの瞳で上空を見上げると、そこから全てを見下ろす1人の男を見て、不敵な笑みを浮かべた。
「よお。久しぶり」
「あんだぁ?お前ら、また来たのかよ…懲りねえなぁ」
「お前も懲りてねえなぁ。これで俺に殺されるのは、かれこれ4回目になるんじゃないのか?」
悠馬は不敵に挑発をする。
過去に2回混沌を殺した過去を持つ悠馬と、元々この特異点は悪羅が混沌を始末しているという事実。
それに加えて今回の1回で、お前が死ぬのは4回目になると挑発した悠馬に、混沌はピキピキと額に青筋を浮かべる。
「どっちか片方が死なないと俺と渡り合うこともできない出涸らしの分際で…勘違いしてんじゃねえよ!」
「そうでもないさ。バリアフィールド」
右腕を大きく振り翳し、腕で極夜のような大規模闇異能を放つ。
そんな混沌の異能を目の当たりにし、悠馬は微動だにせずバリアフィールドを発動させる。
「雑な攻撃だな。範囲を広げれば俺が吹き飛ぶとでも思ったか?」
「おい、挑発しすぎだろ」
「大丈夫だ。コイツとは過去何回も煽り合ってる」
「それは大丈夫なのか…?」
いや、それは全然大丈夫じゃないだろ。とツッコミを入れてやりたい気持ちもあるが、現状自分が一番のお荷物であるという自覚がある彼は、下手に動かない。
「お前は回避と生き残ることを最優先で考えろ。援護してくれても構わないが、カウンターにはくれぐれも気をつけろよ」
「はっ、誰に言ってんだよ。俺はお前だぞ」
「だからこそ言ってんだよ」
「2人でごちゃごちゃ話してねえで出てきやがれ!」
「おっと、悪い悪い。お前じゃこのシールドを破れないみたいだな」
「ッの…クソガキがぁ!!」
悠馬の挑発に乗るように、怒り心頭に発した混沌が上空から急降下する。
「来いよ…久しぶりに全力でやり合おう」
この場なら、周囲への被害を気にしなくて良い。
自分の世界であれば周囲の被害を1番気にしなくちゃいけなかったが、パラレルワールドでの戦闘というのは悠馬にとって大きなアドバンテージだ。
なにしろ自分の世界では異能王、周囲に被害を出さず、どれだけ早く事件を解決できるかが何より求められる。
だからこそこれまで、大規模な異能行使は避けてきたし、周囲の被害を気にせずに攻撃をするなんて、以ての外だった。
久々の全力とあってか勝ち気に微笑む悠馬は、バリアフィールドに向けて拳を振り上げる混沌を見上げる。
闇を纏い、闇そのものに至った彼が、バリアフィールドを容易く破壊する。
「磨りガラスかと思ったぜ!もっと頑張れよ!」
「磨りガラスに全力出してんじゃねえよ」
右手に魔法陣のようなものを展開し、混沌へと放出する。
その火力は来栖の死の王やこの世界で暁悠馬に放ったものとは別格の、最大火力。
まるで地球が悲鳴を上げたような轟音と共に、黒い雷が光線を作り、その一閃が混沌を貫くと同時に、遅れて炎や氷、烈風が巻き起こる。
「な…」
彼は悠馬が放った最大火力の謎の異能の余波で背後へと転がり、絶望的な光景を目の当たりにする。
「魔王…」
見ていればわかる。
コイツは大陸を…いや、地球そのものを無かったことにできるだけの力を所有している。
悠馬の異能で貫かれた混沌が白目を剥き、墜落していく。
そんな光景を目の当たりにすれば、どちらが魔王かなんて明白だ。
「おい。お前はそんなもんじゃねえだろ混沌」
地面へと墜落した混沌に向けて問う。
混沌は物語能力から構成される異能も強力ではあるものの、その中でも際立っていたのは生命力だ。
もはや執念と言ってもいいほど、しぶとく生き延びてきたコイツが、今の一撃で絶命するはずがない。
そう判断して距離を置いたままにしていると、音を立てて墜落した地面の上で、混沌の指がピクリと動く。
「あめ…」
混沌は空を見上げ、呟く。
一瞬だが、意識を失っていた。
今のは何だ?
今の異能は一体なんだ?
暁悠馬はこんな異能を使えたか?
いいや、1回目の時はこんな異能使っていなかった。
ならば今目の前のコイツは一体何なんだ?
意識を失い、地面に背をつけさせられた混沌は唇を噛む。
「はは…ははは!そういうことが…そういうことだな!?」
世界で1番自分が強い。
この世界では人をも神をも超えるのが自分だと思っていただけに、たかが人間に一瞬でも意識を奪われたというのは、プライドが許さない。
混沌は一通り笑い合えると、ゆっくりと上体を起こし、悠馬の方を見た。
「お前、あの時の暁悠馬じゃないな?」




