スベッチの望み(スベッチ編)
# 堅城の悲劇
## 難攻不落の白鳥
月光に照らされる白鳥の城壁は荘厳だった。高さ十メートルの漆喰塗りの壁が十二キロにわたって円を描く。その上にはカタパルトが整然と並び、守備隊の威容を見せつけていた。
「まるで巨大な鳥籠だな」
幻影は偵察兵からの報告を受けながら冷ややかに笑った。「だが……」
「狩りが楽しくなりそうだ」
## 開戦の狼煙
夜明け前から戦いは始まった。
幻影の軍勢1万が四方から押し寄せる。一方、白鳥の守備は弓兵三千のみ。圧倒的な兵力差だった。
だが意外なことに——戦況はスベッチ《弓》側に傾き始めた。
「射よ!敵を寄せ付けるな!」
スベッチ《弓》の号令と共に千の矢が雨あられと降り注ぐ。漆喰塗りの壁は梯子をかけることを困難にし、カタパルトからは大石が投擲される。幻影の兵は次々と倒れていく。
「やるな」
幻影の影は冷静に戦況を街の中から観察していた。「だが……」
彼の唇に不吉な笑みが浮かぶ。「罠には気づいていないようだな」
## 影と真実
戦闘が三日目に突入した頃、変化が起こった。幻影の姿が見えないのだ。彼は常に先頭に立ち指揮を執るタイプだったはずなのに。
「おかしい……」
スベッチが眉をひそめる。弓兵の一人が不安げに進言する。
「将軍、敵の動きが妙です。まるで……」
「時間稼ぎをしているようだと言いたいのか」
スベッチは窓から遠くを見る。確かに幻影の姿はない。だが城壁を取り囲む軍勢は確かにそこにいる。
「油断するな」
彼は自らを鼓舞するように言った。「このまま持ちこたえれば……」
突然背後から近づいてくる足音にスベッチ《弓》は凍りついた。
振り返った彼の目に映ったのは——幻影の冷徹な顔だった。
「な……!」
「私が先頭に立つのを不審に思わなかったのかあれは影だ?光雷卿の真似だ」
幻影がゆっくりと近づいてくる。「最初から白鳥の中に入っていたのだよ」
「内通者か!」
スベッチ《弓》は腰の刀に手を伸ばすが——
「遅い」
首筋に冷たい感触。幻影の斧が彼の命脈を捉えていた。
「降伏しろ」
「ああ間抜けだな逃げることもできないなんて」
# 法廷の空虚
降伏したスベッチ《弓》
「処刑しろ!」「すぐに殺せ!」
群衆の怒号が白鳥の広場を埋め尽くす。スベッチ《弓》の敗北が宣言された瞬間から始まった歓喜の声は、今や狂気に変わっていた。
「静粛に!」
壇上で凛とした声が響く。女政治家が毅然とした態度で前に出た。
「スベッチは罪を犯した。だが法に基づいて裁かれなければならない。感情に流されず正当な手続きを——」
「士気が落ちる」
女政治家の言葉を遮ったのは幻影だった。ともに戦った兵を見下ろした。
「今の自由を勝ち取るために動く集団だ。君たちの怒りは分かる。即刻処刑しよう!!」
「だからといって処刑は法を持ってやらなければ——」
女政治家、崩壊していく民主主義の理念、シビリアンコントロールができない文民統制それは政軍関係の始まり。
「軍務の統制できてない民主主義は暴徒の集まりと同じだ。だがそれは今言っても無駄。」幻影と女政治家の関係の崩壊が始まっていた
彼の指示で兵たちがスベッチを広場中央へ連れてきた。鎖で繋がれた弓使いの目は焦点を失っていた。
「処刑は明日行う」幻影が宣言すると
「今だ!」「待てない!」
罵声と拍手が入り混じる。
「では」
幻影は静かに言った。「今すぐ行おう」
「待て!!」
女政治家が割って入ろうとしたが、兵に阻まれる。彼女の顔に諦念の色が浮かんだ。
## 処刑の朝
処刑台に登る途中、スベッチの足が止まった。朝靄の中で見える街並みを見渡す。
「皮肉なものだな」
誰にも聞こえないような小声で呟く。
「孤児院で育ち、運よく拾われ。ここまで昇り詰めた。偉くなっても幸せとは限らない。結局は処刑台で終わる」
兵が背中を押す。処刑台に上ると、幻影が彼を見下ろしていた。
「何か言い残すことは?」
「ない」
スベッチは静かに頭を垂れた。
「ただ一つ」
彼の目が僅かに潤む。
「次に生まれ変わる時は……偉くならなくていい。ただ普通に……長く生きたい」
幻影の斧が振り下ろされた。
次の日の夜にマリイカも奪わていた。




