孤児院の二人と二人の幻影
# 死地へ向かう弓
## 留守番の選定
「白鳥には形だけでも守備隊を残さねばならん」
光雷卿は広間を見渡した。遷都の命令を出し終えた直後の言葉だった。
「敵がすぐに攻めてくるとは思えませんが……」
ロレンソ(時渡)が眉をひそめる。遷都自体が既に極秘作戦である以上、余計な人員配置は混乱を招く。
「分かっている」
光雷卿は低い声で答えた。「だが形式は必要だ。しかも……」
彼の視線が鋭くなる。
「もし敵が白鳥を占領したとき、抵抗した形跡が必要なのだ」
パベル王国に報告の時に守ったが落ちたと
「つまり……捨て駒の部隊ということですか」
ロレンソ(時渡)が苦々しく言った。
「そうだ」
光雷卿の口調に迷いはなかった。「指揮官は攻城戦になるであろうから弓兵を率いる二人の中から選ぶ」
## 二人の候補
寝室に中央に二人の将が進み出た。
「遠目殿」
目がいいため遠くの状況を把握でき、弓も一流
「スベッチ」
弓が得意で孤児院から引きあげた
「遠目は長年当家に仕えてきた事があり兵士たちからの信頼も厚い」
光雷卿はまず遠目を評価した。
「スベッチは弓の名手だが。かつて孤児であったことを考えれば、残すのはスベッチだろう」
「どちらも優秀な将です」
ロレンソ(時渡)が慎重に言葉を選ぶ。「ただ……」
「分かっている」
光雷卿は彼を遮った。「この任務は『死』を前提としたものだ」
寝室に重い沈黙が落ちた。
## 選択の理由
スベッチを寝室に残るよう、そしてスベッチだけに聞こえるよう
「遠目は忠義の塊だ」
光雷卿の声には微かな揺れがあった。
「彼は命令があれば死ぬまで戦うだろう。だが……私はそんな死に方をして欲しくない」
「だからな……スベッチ」
光雷卿は若き将を正面から見据えた。「君を白鳥の守備隊指揮官に任ずる」
「ただし」
光雷卿は声を潜めた。「これは表向きだけの話だ」
「正直に言う」
光雷卿の表情が厳しさを増す。「この任務は死を前提としている。白鳥の守備隊はいずれ包囲され、降伏か玉砕かという局面に追い込まれるだろう」
「もし本当に窮地に陥ったら……逃げろ」
「!」
「俺は死は望んでない」
光雷卿の眼差しに揺るぎはなかった。「お前を選んだのは。遠目は命令に忠実すぎる。彼にこんな役目を与えたら確実に死ぬ。」
「閣下……」
「俺はお前が生き延びることを期待している」
光雷卿はスベッチの肩を強く握った。「弓使いとしての才能は貴重だ。将来必ず俺に必要になる」
「ありがたきお言葉です」
スベッチの喉仏が上下した。
「遠目にこの真意は伝えるな」
「承知しました」
スベッチは短く応じた。その表情には何か言いたげなものが浮かんでいたが、光雷卿はそれ以上触れなかった。
「任せたぞ」
スベッチは礼をし寝室を出た。
## 遷都作戦、発動
三日目の夜明け前。
白鳥は不自然なほど静寂に包まれていた。遷都作業は水面下で着々と進行中だった。
「第十五便馬車が出発します」
兵が光雷卿に報告する。彼は寝室で報告を受けていた。
「順調だな」
光雷卿は窓辺から視線を離さない。「ヒヘルまでの道筋に伏兵は?」
「今のところ確認されておりません」
「光雷卿そろそろ立ちます」
怪我をしている光雷卿は、専用の人を乗せる輿運ばれ馬車に乗る
「スベッチはどうだ」
「予定通り東門周辺に居られます」
光雷卿は東門の上を見上げる
「武運を祈る」
馬車は、走り出す。
スベッチは東門の見張り櫓に身を潜めていた。わずかな手勢弓兵3000名。これが彼に与えられた「名誉ある」守備隊だった。
# 絡み合う双頭の幻影
## 双頭の幻影
幻影の双子は完全に光雷卿の遷都作戦を見抜いていたのだ。
幻影の双子「ご武運を」お互い違う方向に分かれていく
遷都で光雷卿がいなくなり指令関係が混乱している白鳥、混乱中のその夜に
## 東門の襲撃
夜半、突如として地鳴りが響いた。白鳥の東門が大きく揺れる。
「来ました!」
見張り兵の叫びにスベッチは素早く身構える。門の外に松明の列が蠢いている――幻影の軍勢だ。
「スベッチ殿!幻影軍は1万を越えます!」
副官の報告にスベッチは歯を食いしばった。当初予測していた数を遥かに上回っている。
「構えろ!白鳥は死守する!」
だが彼の瞳には迷いが宿っていた。光雷卿から命じられた「危なくなったら逃げろ」という命令が頭をよぎる。
# 同時刻、月明かりの下の死闘
## ヒヘルへの道
遷都中のパベル軍と光雷卿は馬車に乗りヒヘルへの主要街道を進んでいた。月明かりのみが頼りの深夜、突如として森の中から不気味な気配が漂い始める。
「陛下!前方に敵影!」
斥候の警告が闇を切り裂く。
「来たか……」
輿に座る光雷卿は冷静に前方を凝視した。そこには松明の明かりの中に浮かぶ人影。
「幻影だ」
## 刹那の邂逅
「光雷卿!」
森から響く声に光雷卿の眉が動く。月光に照らされた前にも見た「幻影」。
「厄介な」
光雷卿の呟きと同時に陣営が騒然となる。
孤児院から女騎士隊長までになったマリイカが馬を駆る。その手には槍。
「ここは幻影の猟場です」
馬を並べたマリイカが鋭く告げる。「ここにいては危険です。光雷卿はヒヘルへ行ってください。殿は私がします」
彼女の瞳には揺るぎない決意が燃えていた。光雷卿を庇うように立つ背中に、月光が銀色の鎧を浮かび上がらせる。
「マリイカ……」
「行くぞ」
近衛隊長カルロス、光雷卿の馬車をヒヘルに向け走らす「この場は任せたぞ、マリイカ」
「はい」
同時刻の夜に幻影との二つの戦いが始まった。




