遷都(サリバ国)
# 白鳥の危機
## 天蓋の影
サリバの首都・白鳥のに建つ光がよく入るベルガー家の本邸。その天蓋付きの豪奢なベッドで光雷卿は静かに横たわっていた。額には冷えた布が置かれ、足に酷い火傷の後が残っている。ラウテル山の激戦から一週間、彼は白鳥に戻っていたのだ。
「閣下のご容態は……?」
扉の外から侍女の声が漏れ聞こえる。
「良化に向かっておりますが油断は禁物です。焼灼傷からの感染症と体力低下が深刻でしたので」
医師の答えに光雷卿は薄く瞼を開いた。焼灼術後ダリオのが脳裏に蘇る――焦げ付く肉の臭い、光雷卿のトラウマ。まだ完全には癒えていない腿の痛みも疼きはじめていた。
「閣下……お休みください」
気づいた侍女が優しく言い含める。
「……もう三日か」
光雷卿の声は乾いていた。「サリバの反乱はどうなった?」
ちょうどその時扉がノックされ、ロレンソ(時渡)の姿が現れた。
「閣下、緊急事態です」
## 反乱の火種
「各都市で反乱軍が盛り返しています」
ロレンソ(時渡)の報告は急を要していた。
「どうして今になって……」
「閣下のお怪我で動けない聞きつけたようです。敵将軍の『幻影』も前線に立っているとの情報もあります」
「幻影……あの男か」
光雷卿の脳裏にでシルバースノー平原戦いの決闘が浮かぶ。あの幻影。もし本当に前線に出ているなら――
「各地の都市では幻影軍の勢いが増しておりまして」
ロレンソ(時渡)の顔に深刻な影が落ちた。
「すでにサリバにある地方都市の幾つかの城塞が落とされています」
「何だと?」
「さらに悪いことに……」
ロレンソ(時渡)の声が低くなる。「ハインツ様の警護についても問題が発生しました」
## 暗殺者の影
その日の深夜。
白鳥城内の一角で騒ぎが起きた。
「侵入者です!」
近衛兵の叫びと共に剣戟の音が響く。――光雷卿の4歳の息子、ハインツ・ベルガーの寝室。
「幼き命を奪うが為に来たのか!」
近衛隊長カルロス・グラントの声が廊下に響く。屈強な身体と孤児院から引き上げたことにより信義に厚いことで知られる男だった。
カルロス・グラント
統率 56 武力72 知力 56 政治 42 魅力 53
「簡単に行くとだと思ったか?」
市民たちは次々と剣を抜く。十人余りの市民の反乱の集団だった。
「貴様にベルガー家の命は渡さん!」
カルロスの剣が一閃し先頭の暗殺者の腹を裂いた。血飛沫が壁を汚す。
「ここは通さない!」
別の市民がカルロスの背後から短剣を突き出す。しかしカルロスは見向きもせず肘打ちで相手の顔面を粉砕した。
「邪魔をするな!」
カルロスの咆哮と共に七人の市民が床に崩れ落ちる。残るは三人。だが彼らの目的はすでに達成されかけていた――カルロスの隙をついて一人が寝室へ滑り込む。
「しまった!」
カルロスの叫びが遅すぎた。
## 危機一髪
ハインツの寝室は暗闇に包まれていた。月明かりだけが窓から差し込み、4歳の少年の寝顔を照らす。
「美しい獲物だな……」
市民の声は嗄れていた。小さな寝台に忍び寄り短剣を構える。
「申し訳ないが……」
その時だった。
「ハインツ!」
衝撃音と共に市民の体が飛んだ。ドアを開け妊婦の体でファリア飛び込んで市民に体当たりしたのだ。
「お!」
壁に飛ばされた。
「ハインツ様!奥様!」
残った3人の市民を怒りとともに切り殺した。
ファリアが駆け寄るとハインツはまだ眠ったままだった。幸いにも全く目覚めていない。
「良かった……」
安堵のため息をつくのだったがファリアはその表情くもっていた。
## 政権の岐路
ハインツ襲撃の翌朝。
白鳥の本邸では重苦しい沈黙が支配していた。
「閣下……」
近衛隊長カルロス・グラントが膝をつく。彼の鎧には昨夜の戦闘の痕跡が生々しく残っている。
「ハインツを救ってくれたこと、感謝する」
光雷卿の声は疲れ切っていた。焼灼術の影響で起きるものの意識もぼやけていた。
「だが、これは単なる襲撃ではない。政権に対する本格的な反逆の始まりだ」ゆっくりきつそうにしゃべる
「では……いかがされます?」
ロレンソ(時渡)がそのつらそうな様子に不安そうに問いかける。軍幹部たちが固唾を飲んで光雷卿の言葉を待つ。
「白鳥は放棄する」
光雷卿の宣言に広間にざわめきが広がった。
「首都を第二都市ヒヘルへ遷都する」
## 政策の矛盾
「なぜ白鳥を捨てるのでございますか?」
遠目が質問の声を上げる。
「理由は二つある」
光雷卿は苦渋の表情で説明を始めた。
「第一に白鳥は商業都市でありすぎた。自由市場の終わりと私の政策により社会主義と民主主義が対立している」
光雷卿の改革は軍事力と経済、資源集中の国への集中、社会主義の独裁裁量していた。それが自由な商取引と経済的自由を求め民主中心の政策を求める市民たちの反感を買っているのは明らかだった。
「第二に……」
光雷卿は唇を噛んだ。「我が息子が狙われたことだ。もはや白鳥は安全ではない」
「しかし閣下」
遠目が食い下がる。「白鳥を放棄すればサリバ国全体への影響が計り知れません」
「だからこそだ」
光雷卿の瞳が鋭くなった。「私は今まで都市中心の統治を行ってきた。だがそれが間違いだった」
「農村部は違う」
## 農村部への希望
「農村部には都市部ほど反発がない」
光雷卿は地図を示しながら説明を続けた。
「なぜなら彼らはそもそも自由市場を知らないからだ」
従来の封建制度の残滓がある農村では領主や地主による直接統治が当たり前で、交易都市特有の「経済的自由」の概念自体が希薄だった。むしろ安定した秩序と保護を求める傾向が強い。
「それに加えて……」
バックス・ハーベリス(業務処理)が資料を持ち出した。「農村部では光雷卿の新政策による公共事業の学校などの恩恵が大きいのです。ギルドカードを発行、医療の一本化などで治安回復など、安全水準が向上しています」
「そう、農民たちは都市部の人々のように『自由』に飢えていない」
光雷卿の目が遠くを見つめる。「彼らにとって大切なのは安定と生存だ。私の政策はそちらに向いている」
「しかし閣下」
遠目が異議を唱える。「農村部に拠点を移せば防衛上の脆弱性が生まれます。都市ほどの人口も兵員もありません」
「違うのだ」
光雷卿が断言した。「人口の少なさは守るべき場所が減る、気づいていると思うがサリバ全体を守る将が足りてないなので、ヒヘルで農村部と主要な炭鉱を抑えて。農村部と鉱山の防衛で経済の損失を最低減に抑える、我の傷をいやす」
「人口の多さはいい事ばかりではない」静かに言う
## 遷都の決断
「今から七日以内に遷都を完了させる」
光雷卿の命令に驚きの声が上がった。あまりに大胆すぎる期限だ。
「不可能です!」
遠目が叫ぶ。「国民への通告すら……」
「通告は不要だ」
光雷卿の言葉に会議室が凍りついた。
「これは軍事作戦として極秘に行われる」
「閣下……」
「私がここにいても白鳥は守れない。それどころかハインツのような事が起きるだけだ」
「了解しました」
ロレンソ(時渡)が静かに答える。「ならば即刻準備にかかりましょう」
「頼む」




