03
○
「くっそー超いってぇぇぇ!!!あの小僧今度あったらただじゃ済まさねぇぞ!」
とのたうち回る、大槌少女は全身やけどで一般人であれば生きているのが奇跡的な程の怪我だったのにもかかわらず文句を垂れる元気すら有る。
「だいたいね、ハンマーのねぇちゃんはいっつも相手をなめてかかるからいけないんだよ。今回だってどうせハンデとか言って自分で自分の力抑えちゃったんでしょ?」
「んだと!てめー分かってねぇな!俺が本気出したら一瞬で終わるだろうが!!・・・でもよ、わかった今度からは同じ徹は踏まない奴等に関しては最初から本気で行く!」
図星を突かれ逆上するが、反省すべき点であることは認めようとする。
「奴等だけじゃなくて他のやつも一瞬で終わらせればいいのに」
小さな大鋏は呆れたように言う。
「俺はよ逃げ惑い泣き叫ぶ顔を見ながら殺るのが好きなんだ」
「見解の相違だね、僕は分厚い肉を切れればそれでいい」
「牧場にでも行って牛でも殺してろ」
「さすがに牛は面白く無いな~、やっぱ人間がいいよ!人間の首を斬るのが気持ちいいんだ」
「ハッ潰すほうが楽しいに決まってるだろうが」
「それも見解の相違だね」
まるで相容れないとでも言いたげな、小さな大鋏。
「何ならここで殺しあうか?」
「やめといてあげるよ、今のハンマーのねぇちゃんじゃ僕の圧勝でしょ」
「・・・生意気なガキは嫌いだ」
「奇遇だね、僕も口の悪い女の人は苦手なんだ」
「ケッ」
あれから一週間、さすがは災害とまで言われた集団の一人、大槌少女は生き延びていた。
さすがに無傷とはいかなくとも。
それでも生きていた。
全身に大やけどを負いながら。
場所は郊外にある廃ビルの二階、ゴスロリファッションではなくジャージを来た、大槌少女は、特に口調を気にする必要もなく普通にしゃべっていた。
「ところでよ、他の連中はまだなのかよ」
「さあ?そんな事言われても他の皆様が僕より早くに集合時間を守って来たことがあったかな?」
「ぎゃはは、ちげぇねぇ・・・いってぇぇぇ!!」
笑う度に全身に激痛が走るため満足に笑うことも出来ない大槌少女。
「特にフェニックスなんて自分で呼び出しといていっつも最後に来るじゃん」
「ぎゃはは・・・いってぇぇぇ、てめえあんま人を笑わすんじゃねぇ。ぞこちとら全身に大やけどでめちゃくちゃいてぇんだぞ」
「はーいそれ、責任転嫁は良くないよ~自業自得でしょそれは」
「てめえ殺すぞ」
「はいはいフェニックスが来てからね~」
まるで赤ちゃんをあやすかのような口調で、小さな大鋏は、大槌少女を宥める。
そして続ける、
「それとも、またやけど薬でも塗ってあげようか?あはははは」
「やめてくれ、あれマジいてぇ。俺は自然治癒派なんだ」
ピンポーンとインターホンが鳴る。
東雲宅。
いかにも上流階級が住んでますというような大きなマンションの一室で三人は目を合わせる。
というのもこの家、この部屋は東雲司がレイとミナヅキの為だけに用意した部屋だからだ。
この部屋を訪れる者などこの三人以外はいない。
どうせ他の部屋と間違えて鳴らしたのだろうとインターホンの電話口に出る東雲司だが。
「あのー、そち、らにナンバー6、さんは・・・いらっしゃいますか?」
その言葉で司は凍りつく。
か細い女性の声だ。
既に追手が掛かったか!?
しかしならば何故此処にたどり着く?
結界とは言わずともこのマンションには幾つものセキュリティがかけられそう簡単にインターホンすら押すのも一苦労だ。
それに追手にしては声がか細すぎる。
「ナンバーなに?ちょっとわからないな君部屋間違えてない?」
「とぼけ、ないで。入るところ、見ました・・・ここにたどり着くのに、一週間、・・・掛かりました。お腹が空いて、力が出ません」
ドサッ。
そう言うと扉の前で倒れた音がする。
生け捕りにするか?
能力の分からないナンバーズならば最悪命取りになりかねない選択肢でもある。
だが、このまま放置すれば近隣住民の注目の的になる。
それに今彼女は”お腹が空いて”と言った。
今は安全だろうと判断を下し扉を開けフードを深々と被った女性を担ぎあげ、部屋に入れることにした。
「ほう、これはこれは面白いお客様じゃのう」
そう言ったのはレイ。
どうやら見覚えがあるらしい。
ならばやはりナンバーズか。
「何か知っているのかいレイちゃん」
「お主よいい加減ちゃん付けでわしを呼ぶのはよさんか。むず痒い」
「ああ、ごめんよどうしても君を見ていると年下の女の子としゃべっている気になってさ」
「それがむず痒いのじゃ、まあいいわ。こいつにはたらふく飯を食わせてやれ」
ミナヅキの為に作った流動食があるだろう、それから食べさせてやれとレイは気軽に言う。
「え?この娘ナンバーズではないの?」
「ナンバーズじゃよ?じゃが其奴の能力に何ら脅威はない、それに害意もないじゃろうて」
そう言うと生き倒れの少女の左手を晒す。
そこにはミナヅキと同じ、レイとも同じ怪しく光る石が埋め込まれていた。
ナンバーズは全て敵ではないのか?
司は考える、がレイの言うとおり生き倒れの少女をそのまま拘束し続けるのも忍びない。
いや、司の本質は本来『冷徹』である。
でなければ18歳になるかならないかの高校生が軍に身を置き、大佐という肩書をを手に入れることは出来ない。
それでもやはり裏があるのだが。
ただここで死なれても後始末が面倒だくらいの感覚で彼は彼女に食事を用意した。
「失礼しました、私はナンバーズの16、能力は”痛みの受け取り”です」
ナンバーズを名乗りながら自らの能力まで晒した彼女は敵意が無いことをアピールするのに必死だった。
「私の目的はただナンバー6さんに会いたいだけです
「あの日、ナンバー6さんがナンバー0を誘拐して脱走した日のことです
「あの日、私も脱走しました
「脱走したのは私だけではありませんけれど
「でも、成功したのは一部だけだと聞いています
「私はあの日脱走したナンバー6さんのおかげで今日まで生きてこれました
「自由に
「お金には不憫しましたけれど
「組織から逃げ出すときに盗んだ機械なんかを売ったりして工面しました
「私に敵意はありません
「あるのは感謝だけです
「ナンバー6さんのお役に立てればと」
そこで一呼吸置き、
「もう、私は長くないかもしれません資金も尽きましたなので”もう一度”会いたい、ナンバー6さんに」
そう彼女は言った。
「今の話どうみる?レイちゃん」
「どうもこうもうそじゃないじゃろうて、ワシの知るデータと同じじゃ、ナンバー16の能力は”痛みの受け取り”全くの役立たずじゃがそれが組織から追手がかからなかった理由じゃ」
ただ、奴等は本質を見失っておるなと小声で笑っていたレイを誰が気づけただろうか?
「君の言いたいことはなんとなくわかった、僕は確かにこの部屋でナンバー6を匿っている」
「本当ですか!?
「早く会いたいです!
「何処にいらっしゃるのですか?
「早く会いたいです!
「もったいぶらないでください
「早く会いたいです
「早く会いたいです」
「落ち着いてナンバー16さん・・・っていうのも抵抗が有るな、ナンバー16・・・16そうだね今日から君はイザヨイと名乗るといい」
「イザヨイ?」
「うむ名前っぽくてよい」
名前っぽいのか?
実のところを言うとレイもミナヅキも名付け親は司だったりする。
「イザヨイですか、わかりましたそうな乗りましょう、それでナンバー6さんに会えるのであれば」
「そうそう、君の言うナンバー6も今はミナヅキと名乗っている」
「ミナヅキ・・・ああなんてあの方にお似合いの名前なんでしょう!」
本気でそう思っている顔で目がキラキラと輝いている。
「彼には今隣の部屋で養生してもらっている」
「今、何と?」
「養生してもらっていると」
「なんでそれをもっと早くに言ってくれないんですか!」
「ええ!?」
「ほれ、此奴の能力は”痛みの受け取り”じゃ、痛みであれば病気であろうがなんだろうが受け取ることが出来る」
「だからそれが?役に立たないんじゃなかったのかい?」
「いいえナンバー6さん、いえミナヅキ様の為なら私は死ねます!早く案内してください!」
その様子を面白いことになったとやはり小声で笑っているレイに気づけるものはいなかっただろう。
「わかった今案内する」
隣のへ移動。
ベッドで横たわるミナヅキ。
「まあ大体の話は筒抜けだったよ」
とミナヅキ。
そして続ける、
「ナンバー16・・・イザヨイか、ちょっと顔見せてくれ」
そう、今の今までフードを深々とかぶっていたのだ。
「あ、失礼しましたミナヅキ様」
と言ってフードを外す。
そこに映ったのは真っ黒の瞳に真っ黒の長髪。
目は少しタレ目だが優しさすら感じさせる。
そこそこに整った顔だった。
「すまない、ぜんっぜん覚えてない!」
そういうミナヅキに。
「構いません!」
即答だった。
そして、
「今日からは貴方の奴隷として生きることをお許し下さい」
と続けた。
「あはははははっははははははは」
そこで笑いを堪え切れずに笑い出したのはレイだった。
「どういうこと?」
と司はレイに聞く。
「此奴、ミナヅキに惚れておるわ。いーっひひっひひひ」
更に続け、
「自分の自由のきっかけを作り出したミナヅキを崇拝し過ぎてそれが恋心に変化したのじゃろうて」
「失礼ですが、さっきから貴方は誰ですか?」
イザヨイはレイに鋭い眼光を向ける。
「もしもミナヅキ様の恋人だとすれば貴方を殺して私も死にます」
「あひゃひゃひゃ、そんな事は無いから安心しろ、わしはナンバー0じゃといえば全てわかるじゃろうて」
「ナンバー0・・・貴方がナンバー0ですって!?」
より眼光は鋭くなる。
左手をさすりながら。
「貴方の所為で私達は・・・」
「お門違いな責任転嫁はよしとくれ、わしも被害者の一人じゃ大体70年近くもあのカプセルに入れられておったのじゃ。毎日が退屈じゃったよ」
「そう、ですね・・・貴方も被害者の一人なのですね」
「分かってくれればそれで良い良い、あとはしっぽり二人でやっておくれ、行くぞ司」
と部屋に二人を残して出て行くレイと司。
「ちょっと待て」
というミナヅキの言葉も聞こえないふりをして。
「では、はじめますね」
「ちょっと待てって何をする気だ」
「怖がらなくてもいいですよ、すぐ楽にしてあげます。でもその前に確認させてくださいね」
バチン。
びんたされた。
痛い何なのこれ?
「痛ッ!」
「すみません、でも重要な事です」
今びんたした頬をゆっくりとさするイザヨイ。
すると、
「あれ?痛みが消えた?」
驚くのはミナヅキ。
「当然です私の能力は”痛みの受け取り”ですから」
「というと当然この痛みは・・・」
「今私に返ってきました、私って結構鋭いびんたするんですね。痛いです」
頬を撫でながら言う。
続けて、
「貴方の今の痛みをすべて引き取ります」
「は?」
「傷、やけど、骨折、病気、すべて引き取ります」
そう言うと頭に手を置き数秒が経つと全ての痛みがミナヅキからイザヨイに受け渡された。
「待て、そんなことしたら・・・」
「はぁん!これがミナヅキ様の痛みとても至高でございます」
「ドMかお前は!」
「気持よくて体が言うことを効きません」
「痛くてだろ、手を貸してやるから早くベッドで寝てな」
「私めの手をお取りになってくださるなんて光栄です」
「なんでもいいから横になれ」
半ば無理やり引き起こし今自分の寝ていたベットへとイザヨイを寝かしつける。
「あぁんこれがミナヅキ様の体温で暖められたベッド究極の幸福でございます」
「ああ、なんか調子狂うな」
「奴隷冥利に尽きます」
「ところでお前にはチップは内蔵されてないのか?」
「私めのナンバーは16、チップを搭載し始めたのは100番台だと聞き及んでいます」
やはりナンバー326の言うことは正しかったのか。
するとあの逃亡劇は”仕組まれていた可能性”が高くなる。
では何故?
ミナヅキは考える。
しかし、判断材料が少なすぎて選択肢すら思い浮かばない。
あの日。
あの日の逃亡からどれだけの日にちが経っただろうか?
少なくともまだ一年は経っていないと記憶しているが。
「おい、腹は減ってねぇか?あれだけの痛みだ、腹減ってんだろ」
「心配のお声までもう感激です、でもご心配無用で先程食べさせてもらったので」
「そうか、ありがとうな」
「はぁん!」
「やっぱやりづれぇ、あとそれとなお前も此処で暮らせいろいろうろちょろされて他のナンバーズに見つかったら厄介だ。それと・・・それと奴隷なんて悲しいこと言うなよ、今日から俺たちは”家族”だ」
「つまり、私と夫婦の契りを結ぶと!!!?」
「そんなこと言ってねぇよ!!!ほんっとうに調子狂うなお前」
「残念です」
「いいから寝てろ、ただでさえ全治二ヶ月の傷だ」
「お優しいのですね、やはりあの時と何も変わっておりません」
少女は思い出す。
古く幼い記憶を。
「ねーねーロクくん」
「なに?ジューロクちゃん」
「あたしののーりょくみせてあげるね、えい」
バチン。
びんたした。
ロクと呼ばれる子供を。
当然、
「びええええええん」
と泣き出しロク。
「大丈夫だよ、いたいのいたいのとんでけー」
「あれ?」
さっきまで泣いていたロクだがジューロクと呼ばれた子供がロクの頬を撫でるのと一緒に痛みが消えたことに驚きを覚えた。
「うっぐ、うぐ痛い」
「どうしたのジューロクちゃん」
「な、なんでもないの・・・びええええええん」
自分で叩いた痛みが予想外に痛かったことにジューロク、当時のイザヨイは我慢できずに泣いてしまった。
するとロクは。
「これやるよ、飴」
「うっぐうぐ?」
「痛い時はおいしい物食べると治るんだよってお母さんが言ってた」
「あ、ありがとう・・・おいしい」
「ジューロクちゃんののーりょくはとてもやさしいのーりょくなんだね」
聞こえないようにびんたは痛かったけどと付け加えておく。
「そんなことないよ、ロクくんも早くのーりょくに目覚めてわたしにみせてね」
「わかったよ、ジューロクちゃん」
そんな他愛のないやりとりこれが少女の記憶、
古く幼い記憶。
「くそぉぉぉいてぇ!!!やけどってこんなに痛いものなのかよ!」
「粉塵爆発の中を何の装備なしで生き延びたとは思えない発言だね。普通死んでるよ?」
「あれが粉塵爆発ってのか漫画でしか読んだことねぇけどよ、なんかやべぇと思ったから地面に思いっきりハンマーぶつけて周りの粉を空気で払った」
「へー、ハンマーのねぇちゃんにしては頭使ったじゃん」
「てめー後でゼッテー殺す」
廃ビルの二階でのやりとりだ。
「あ、あのう、集合場所はここであってます?」
「あ!ソードのねぇちゃん待ちくたびれたよ、あってるから入って入って」
「で、では失礼して」
ソードのねぇちゃんと呼ばれた少女はセーラー服に日本刀、もちろん鞘には入っているがというアンバランスな出で立ちでオドオドとしながら部屋に入る。
「ク、クラブちゃんはいつも早いね、集合時間は三日前だよ?」
「あのさー集合時間って守るものだと思うんだけど三日も過ぎて早いってのはちょっと違うと思うんだ」
「だ、だって私方向音痴だし、はじめての街だし探すの苦労したんだよぉ」
「これだから地図の読めない女の子は嫌だね、もっともそこで寝っ転がってるハンマーのねぇちゃんなんて僕より早くに街についていても誰かが呼びに行かないと絶対来ないもんね」
「あ、あらハンマーさんいらしてたんですか?」
「いちゃ悪いかよ」
「い、いえ意外だったもので、でもいつものような可愛らしい服は?」
「・・・」
そこを答えるのはバツが悪いのか口をつぐんだ。
「いやーハンマーのねぇちゃんのさいつもの癖さ」
「く、癖?」
「相手をなめて掛かったらドッカーンとやられちゃったってわけ、しょうがないからその辺の服屋からジャージ取ってきて着せてあげたんだ」
「てめぇゼッテー殺す」
「私が貴方を殺してあげましょうか?」
意外にもそういったのはソードのねぇちゃんと呼ばれる少女だった。
続けて、
「私は誰よりも弱い人間だと常に自分に言い聞かせています。だから相手を舐めたりしません、そんな驕りでそのような傷を負ったというのであれば、もう死んだ方がマシですよね、殺してあげます」
「ああん?それが怪我人に言うセリフかぁ?まぁそれは許してやろう、だがお前、ソードごときがハンマーに勝てるなんて本気で思ってるのならその喧嘩この体でも買うぜ?」
ジャキンジャキン、と鋏を取り出した、小さな大鋏。
「面白そうだねその喧嘩僕も混ぜてよ」
「「ガキは引っ込んでな」」
「僕だって今年で十歳、慎重も百五十センチになった立派な男の子だよ?ガキ扱いしないでくれる?」
大槌少女はゆっくりと立ち上がり、そしてそれぞれが自身の獲物を構える。
「傑作だ」
何処からとも無く響く声。
三人はその声の主を知っている。
暗黒不死鳥。
声だけで身震いを起こしそうなほどの重圧感。
コツーンコツーンと階段を上がってくる足音には恐怖を覚える。
一触即発の状態だった三人は自身の獲物を地に置き我らが首領を出迎える。
獲物を地に置くことは主従関係をはっきりとさせる意味合いがある。
敵意はない、あなたのために働きますというそういう合図だ。
「なんだもう終わるのか?つまらん」
「やだなー、もうフェニックスが来るまでの余興だよ・・・ね、ねえハンマーのねぇちゃん」
「そうだ、あまりにも暇すぎてちょっと本気になりすぎただけだちょっとしたお遊びだよ・・・なあソード」
「そ、そうです」
にっこりと。
三者三様に怯えきっている、それほどまでに忠誠しきっている相手それが、暗黒不死鳥。
「ふん、傑作が凡作に成り下がったか、まあいいトマが到着するまでジュンは北、ミナは西というか動けるのかお前?」
「問題ねえ」
「そうか、サヤは東」
「は、はい」
「俺は南、好きにしていいが、今騒がれるとまた怖い軍隊様がお出ましになるぞ。ははははは」
好きにしていい。
それは本来殺戮開始の合図。
ましてやレッドアイズが四人も揃っての行動など前代未聞。
更に人を殺すなという制限まで付いた。
これは一般人はよりも特別な役職に付いた人間や警官、消防隊を中心に殺せという命令だ。
異例。
「フェニックス、もしかして軍隊を潰す気?」
小さな大鋏はおそるおそる聞く。
「潰す、それも面白そうだが、俺の”見つけた”相手は軍隊にいる。とりあえず軍隊をおびき寄せろ。その後ことは俺に任せればいい。トマが居ない分中心部は手薄になるが奴もそろそろ来るだろう。書き置きでも残しておけば勝手にやってくれる」
と言い左手を壁に向けると黒い、どす黒い炎が壁を焼く。
焼かれた先にはこう書かれていた。
『中心部をやれ』
それよりも驚きなのはその左手にはあの怪しく光る石が埋め込まれていた事だ。
「なー!326ちゃんはこの辺で死んだんだよね?」
「死んだかどうかはわからないけれど反応が無くなったのはこの辺り、だから私達が調査に来てるんじゃない」
「でも111ちゃん」
「なんだ218」
後に続く言葉は大体想像が付いた。
「瓦礫の山で何も見えないよ」
性格に言えばナンバー326が死んだ地点からは少し離れている瓦礫の山。
一つの能力と一つの災害で出来た瓦礫の山を見て彼らはそこがなんだよナンバー326が死んだ地点だと断定した。
「よくもまあこんなになるまで戦ったもんだよ326ちゃんは」
と言うのはキツネ目で虫も殺せそうにない顔をしているナンバー218と呼ばれる少年。
一方111と呼ばれは方は単発で左目に眼帯をした少女。
「111ちゃん?326ちゃんは誰と、何と戦ったんだろうね?」
「しらないよ、ただあの”浮遊”の能力なら大抵のものは避けられそうだけど」
「あれれ?111ちゃん知らなかった?326ちゃんの能力は”浮遊”じゃなくて”見えない手”だよ?」
「?」
「本当に知らなかったの?仲間の能力くらい把握しておこうよ、浮遊してるのは相手にそう錯覚させ油断させるためにしてるんだって言ってたじゃん。実際は”見えない手”で自分を持ち上げているだけだって」
腕立て伏せのようにしてねと付け加える。
「そうだったのか」
「111ちゃんしっかりしてよ~、まさか僕の能力も忘れたとか言わないよね?」
「大丈夫だ、問題ない」
と親指を立てて言う。
「それ絶対覚えてないでしょ~、いい機会だから覚えておいて」
そう言うとナンバー111の前にビー玉くらいの小さなグレーの玉がでた。
「思い出した」
「やっぱり忘れてるじゃん」
「思い出したからいいじゃないか」
「でも、忘れてないことも有る」
「「この仕事が終われば自由になれる」」
二人は息を揃えてそう言った。
ジャキンジャキン。
二人はとっさに振り返る。
「自由になれるか~いい言葉だね、でも自由って何だい?僕は究極的に言って死だと思うんだよね。だからいま二人を自由にしてあげるよ。言動から察するにナンバーズでしょ?ナンバーズをみて放っておいたら名折れだからね、この」
小さな大鋏の。
「111ちゃん戦闘態勢!」
「わかっている」
途端ナンバー111の右腕が地面まで伸びる。
みるみるうちに変色していき暴力的な形へと色へと変色、変身していく。
それは動物的で植物的でもあり、それでもやはり暴力的な絵面だ。
対してナンバー218は先ほど出したグレーの球体を、小さな大鋏の前に出した。
「なにこれビー玉?」
ちょんと人差し指でつついてみた。
それが”間違いだった”。
その玉には触れてはいけなかった。
瞬間、小さな大鋏の体は地面に這いつくばる姿勢を取らされる。
「僕はそれグラビティボールって呼んでるんだけどね、それを触るとみんなそんな格好を取らされるんだよ」
ふふふ、と笑ってすらいるナンバー218。
そこにナンバー111の暴力的な右腕が襲い掛かる!
瓦礫の海を粉砕、
「やったか!?」
「218それフラグ」
見事に避けられた。
「なんで?」
「手元が狂った、きっと218のそのなんちゃらボールの所為」
「ええ~僕の所為?」
「殴りかかったときに何かに引き寄せられて手元が狂った」
「ああ~あれ小さな重力の塊みたいなものだからね」
と事も無げにあの『一級指定災害』の一人を二人がかりとは言えもう一歩というところまで追い詰めていた。
ジャキンジャキン。
「いや~凄い連携だよ僕見劣りししちゃった。これじゃ分が悪いな~この戦い方は好きじゃないんだけど、好き嫌い言っている間は子供だからね」
と鋏を止めるネジを外し大きな鋏は二つの刃となった。
右手の刃を順手、左手の刃を逆手に持ち構える。
そして告げる、
「見事な連携も種が割れれば回避可能だよね」
二度は通じないと。
「218嫌な予感がするさっさと片付ける」
「111ちゃん僕も同じ意見、出し惜しみは無しだ!グラビティボール・・・」
「それもう見飽きた」
グサッっと心臓を一突き。
右手で持っていた刃で貫いた。
「出し惜しみなんてしてるからこうなるんだよ」
返り血を浴びながら、小さな大鋏は言う。
「どうせグラビティボールは一つしか出せないかと思ってた?残念!とか言うつもりだったんでしょ?残念なのは君だよ。君単体の力じゃ足止めしか出来ない癖に、問題はこっちだよね」
ナンバー111を見据えて言う。
「あの腕とハンマーのねぇちゃんのハンマーどっちが頑丈かな」
にやにやと、ジリジリとナンバー111との間合いを詰めていく。
「あ、あのすみません道に迷ってしまって」
交番に居たのはソードのねぇちゃんと呼ばれた少女。
通称、剣閃乱舞。
「あ、はい何処に行きたいの」
駐在が対応する。
「そ、それはこちらが聞きたいのです」
「は?お嬢ちゃんからかってるのなら帰りなさい、こっちだっていま仕事中で忙しいんだよ?」
怒りこそすれ諭すように優しく答える駐在。
「天国に行きてぇか!地獄に行きてぇか!こっちが聞いてやってんだよ!」
瞬間豹変する少女にたじろぐ駐在。
しかし。
「もう”終わりました”」
「へ?」
と言うと駐在の体に無数の傷が浮き上がりブシャーと血を噴出する。
「か、返り血は浴びたくない性質なので帰らせてもらいますね」
ぺこりと頭をさげ交番をあとにする、剣閃乱舞。
それを偶然何かの間違いだろう見ていたのは司だった。
折れてしまった刀の代わりを探し先ほど手に入れたのはまたもや『無銘』。
『無銘』とは名前をつける価値すら無いと言われるほどの出来の悪い刀だ。
訳あって司には『無銘』を持つ義務が課せられている。
「これは一軍人としては見過ごせない事態に出会ってしまったな」
「ぐ、軍人・・・」
ぴくりとその単語に反応する。
「ぐ、軍人を一人殺せば軍は動きますか?」
司に問う。
「さあ?死んだ軍人の階級によるんじゃ無いの?僕は下っ端だけど」
大嘘をこく司。
大佐ともなれば多くの部下を持つ身である。
だが別に司は卑下しているつもりはない、ただ運が良かっただけ。
自分の力でのし上がった身分ではないと重々に承知しているという意味での下っ端。
上役の顔色をうかがってその通り以上に働いて手に入れた階級。
そのくらいにしか思っていない。
「で、では試させてもらいます」
朱い目、セーラー服に日本刀。
間違いなく、剣閃乱舞だということは把握している司は迷いなく。
「東雲司抜刀」
ゆっくりと、しかし威嚇するように剣を抜き。
「開放」
最初から東雲一刀流奥義、黄金を放つ。
「あ、あのもう”終わりました”」
「”知ってる”でもそれじゃ僕は殺せない」
「え?」
「君の持っているその刀は妖刀・桜一文字だろ?」
「そ、そうですけど」
「まさか本当に使いこなせる人間がこの世に居たなんて驚きだよ」
言って一本の刀となった司の体から無数の傷が浮かび上がる。
「やっぱり手応え通り斬れてるじゃないですか脅かさないでくださいよ」
全く・・・と言いたげな顔をして踵を返しながら言う。
「か、返り血は浴びたくない性質なので」
しかし、
「勝負の最中に敵に後ろを見せるとは余裕だねッ!」
黄金に輝く剣で横薙ぎに斬る司。
それを背面跳びの要領で避ける剣閃乱舞。
「な、何故?貴方は死んでいない!?」
目の前で起きている全ての事象に疑問を持っている風だ。
いつもならここでブシャーと血が吹き出て相手は出血多量で死ぬ。
だが目の前の男はどうだ?
血が滲んでいるだけで吹き出ていない!
どうして?
「刀身までは見えなかったけど、」
司が応える。
「32回の太刀筋”全部見切っていたとしたら?”君はどう思うのかな?」
なるほどと納得する剣閃乱舞。
「な、ならば64回に増やすだけです」
「いてぇ・・・体がいてぇ」
ハンマーを引きずり歩く大槌少女は目の間にあるもの全てを壊していた。
建物だろうが電柱だろうがカフェテラスに置かれたテーブル席だろうが構わず一直線に歩いていた。
特に目的地もないのだがあちこちと動き回れる体じゃないことは自明の理。
ただまっすぐ歩くことにしたのだ。
「動くな!でなければ撃つ!」
近隣住民からの通報だろうか?
警官隊とパトカー四台が駆けつけた。
「飴よりあめぇんだよ!」
あの驚異的なスピードでパトカー四台を一瞬にして潰した。
中にはまだ人が、警官が乗っていたのにもかかわらず一台ごとに一撃である。
「動くな?ああん?動いたら撃つ?ああん?ならさっさとやれっつーの」
パトカーから先に降りていた五人の警官の内三人は逃げ出し、一人は失禁。
もう一人は辛うじてまだ拳銃を構えている。
「はいはい、撃ってみろよどうせ今の今まで拳銃も撃ったことのない腰抜けだろ?この国の警官はなんてみんなそうだ」
呆れた様子で最後の一人を見やるほれ撃ってみろと体を大の字にまで広げて挑発までしている。
パンッ!
と乾いた音がなる。
撃った。
警官は決意し撃ったのだ。
しかし。
「ぎゃははははは、バカかてめぇはよ!お前たち警官の持つリボルバー式の拳銃の一発目が空砲だって位俺様だって知ってるぜ?ぎゃははは」
言うとおりだ。
「だがまあさっき逃げた三人とそこでちびってるやつとじゃ根性がちげぇな気に入ったぜ、せめて楽に殺してやる」
ドンッ!グチャー!
と気味の悪い音を立てて警官は絶命した。
「そこでちびってるアホと、あと逃げた三人はゆっくり殺すとして・・・ついでに拳銃も奪っておくか、拷問に使えそうだしな。ぎゃははは」
暗黒不死鳥はただ時を待つ。
「俺が一番乗り・・・なわけがないか」
廃ビルの二階壁に書かれた文字を見て落胆するガタイのいい青年。
通称、血染めの手斧。
「どうも時間通りに動くっていうのは性に合わない、時間にルーズな連中ばかりだと思っていたがたった集合時間五日遅れできただけで置いてけぼりだ、五人全員が揃うなんざなかなかないっていうのにその大切さをわかっていねぇ・・・はぁ」
深い溜息を吐く。
「フェニックスからの伝言は・・・『中心部をやれ』。相変わらず曖昧な指令だよ、具体的に何をすればいいのか全く分からないが・・・分かった目に映ったもの全てを殺す、っとその前に寝るか」
と言い本当に眠りについた、血染めの手斧。




