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異世界ガクブル半隠遁  作者: 尾中垂太
本編の続き
25/26

ポーションと商人

こんばんは!

ギリギリGWに間に合いました尾中です!

今回もよろしくお願いします。


一ヶ月がたった。




その間、なんにも進展はなく相変わらず私は引きこもっている。

じんわりと汗がにじむような気候に生い茂る緑。

季節は初夏に入ろうとしていた。



一ヶ月の間に狼っぽい魔物がシテーゼドランを襲ったことがあった。

思わず子犬達を見てしまったが違う種族らしく無言で抗議をされた。ごめん。

その時は自警団が団結して魔物を退治するも重傷者が数名でたので、下級ポーションと引き替えに魔術書を譲ってもらった。

現在は勉強に勤しんでいるが古いものらしく言い回しが難しい。


勉強が進まないのはあくまでも古いからであってけっして私の頭が弱いからではないのだ。

だいたい古文を資料も教師もなく勉強するなんて無理無理。


「うまくいかないなぁ…」


もどかしさが口からこぼれる。

此方に来てから全てこみこみで約二ヶ月。

今だ帰り道は見つからない。

気候がズレてるのか、スマホに表示される日付はまだ春だ。

ちなみに卒業式はとっくに過ぎている。

ちくしょう異世界、どう責任とってくれるんだ…。

就活?こんな場所で出来るとでも?

最近は頭を掻き毟りたくなる時がある。人としてまずいのでまだそれはしてないが。


ああ、本当にやるせない気持ちでいっぱいだ。



そうそう魔術書で分かったのだが、異世界のものである文字は自然と読めるようになっていた。

読めるといっても理解とは程遠いが…。

精霊さん達が私の知識に干渉してって事らしいがぶっちゃけ気持ち悪くて仕方ない。

勝手に頭を弄るとかって酷いと思いつつも文字が読めるのはありがたい。

なので不満と利点を差し引いて何も考えないことにしたのだった。



進まない諸々の問題に対してひよこは順調に増えた。

なんていうか目に痛いくらい増えた。


「あ~…ちくしょ~…帰りてぇ~」


一言呟けばカラフルな毛玉達が押し寄せてくる。

黄・黒・白・緑・赤・青・紫・橙と見慣れた色からこいつ毒持ってんだろ的な色まで様々だ。

これらは全て一ヶ月の間で増えたピンクひよこの子孫達だった。


なんとあの後ひよこはほぼ毎日卵を産んだ。

無精卵なはずの卵は何故か孵り、あっという間に大きくなって今現在。

ピンクひよこは健在でまだまだ卵を産み続けており、時たま卵をお裾分けとして持ってきます。

なんでも食肉になれないなら食卵の提供を!とのことらしい。


大きすぎる卵は精霊さんに手伝ってもらって目玉焼きにしたりする。

だってフライパンじゃ焼けないし。

醤油をかけない目玉焼きは物足りなかったが十分美味しく、一回に食べれないため調理したらすぐに【写真収納≪おどうぐばこ≫】にしまう習慣ができた。

残すのは勿体無いほど美味しいのだ。


「鳥くさい…けれどそれもよし!」


もっふもふ。

そんな馬鹿な事を言うほどには癒されている。

ピンクのひよこが指揮していると思われる集団はあの開けた場所に群で住み着き、食肉となれる日を日々夢見ている…らしい。


『やつらは食肉だけでなく、シナに愛玩されたがってるみたいだにゃあ。気を引いて愛でてもらいたい一心で様々な色彩を身に付けるに至ったようだにゃ…にゃんて、にゃんて健気なんだにゃあ』


とは涙ぐんだ三毛猫の言葉だ。

食べなくてはいけない流れに冷や汗ものだが、そろそろ食べてもいい気がしてきたのも事実。

だって黄色いひよこはまだ普通だし。

というか冬に向けて羽毛が欲しい。

初夏だからと油断していてはあっという間に冬が来て凍死してしまう。

忘れがちだがここは山頂だ。

あっという間に寒くなって、下手すりゃ雪が降る。

そうなった場合に近場に食べ物があるって魅力的!そう思えるようにまでなった自分を誉めてあげたい。


私の心境の変化を察したのか、ピンクのひよこはやけに黄色いひよこを押してくる。

推薦された黄色いひよこは嫌がる素振りを見せず、毎回私の前で嬉しそうに仰向けになる。

なんでも今が食べ頃だとか…。

捌くための知識も道具も勇気もないのでお断りしているが、毎度の事ながら複雑になる。


まあまあ元気に暮らしていたある日、シテーゼドランのシュゼ君から連絡がきた。

新しく見つけたアプリである。

スマホ機能で言うメールにあたるこの機能。中々に便利である。


まずはアプリを開いて相手の名前と生年月日を入力。

その後、相手の姿を写真にとって登録完了。

ここら辺を適当にすると上手く機能しないのだ。

ちなみに生年月日は私が相手の年を聞いて勝手に当てはめているが、今の所なんの問題もないのでこれで良いのだろう。


アプリの次は相手側の端末の作成である。

まずは村で回復薬と交換した羊皮紙を湖の水に浸けること数日。

何故か水を吸い上げても濡れてない羊皮紙がうっすらと発光し出したら片仮名で宛名を書いて準備終了!


羊皮紙が端末。

アプリの指示通りに作ってみたが変な笑いしかでてこない。ははは。


宛名の相手が文字を書き込むとスマホにメールがきて、此方から送ると相手の羊皮紙に文字が浮き出るという仕組みだ。

ちなみに使用者以外は浮き出た文字を読むことは出来ても使うことはできない。

【写真収納≪おどうぐばこ≫】ともリンクしているので写真を添付すると羊皮紙サイズの物なら送れる仕様だ。


異世界の水の凄さに驚いたが、そんな不可思議な水を飲んで生きてる自分にはもっと驚いた。

たまにお腹がくだったのは硬度のせいだけじゃなかったみたいだ。


村では村長さんとセリアちゃんとシュゼ君の三人が私のメル友だ。

まあ、そこまで頻繁にやり取りしてないが…。


呼び捨ては私の性格的な問題で出来なかった。

年下とはいえ名前で呼ぶのはハードルが高い。

そう考えると世のトリップ主人公達のコミュニュケーション能力の高さが伺えるものだ。

私にはとうてい無理だな。うん、メールが限界だ。


双子が私とメル友なのは向こうからの希望だ。

どうやら双子が連絡窓口となるらしい。なんでだろうか?いつか聞いてみよう。


【通信手段≪おてがみ≫】とこっそり名付けたが、私の性格上今後も普通にメールと呼ぶことだろう。



『シナ様お久しぶりです。シテーゼドランのシュゼっす。…いま大丈夫ですか?』

『大丈夫、どうしたの?』

『商隊が来たんです。何か入り用な物はありますか?』


シュゼ君はこの年の子にしては珍しく礼儀正しい。

はじめはメールに戸惑っていたがもう慣れた当たり、どこの世界も若者の適応力は半端ないと実感する。

だからか最近は敬語が崩れ始めていたが、相手が不快に思わないギリギリの所を狙う当たり、やはり最近の若者は恐ろしい。


しかし自分の弟くらいの子が、自分よりちゃんとした敬語で話しかけてくるのも微妙な気分になる。

しかもそれが履歴に残る。微妙だ。



うーん…欲しい物かぁ。

商人がたまに商隊を組んで来るって言ってたやつだよねぇ。


【精霊監視網≪おみとおし≫】起動。

村の広場をみる。

小物から作物の種、革製品に布など色々ある。

あっ!シュゼ君を発見!

この発育っぷりでまだ地球換算で未成年って凄い。さすが異世界だ。

変なところで感心しつつメールを打つ。


『絵本をお願いします』


返信をするなりシュゼ君はさっそく買い物代行に取りかかってくれた。

絵本はもちろん勉強用だ。


「よっ!ダーズさん久しぶり!」

「ああ、久しぶりだねシュゼ!何か入り用かい?」


商人に人懐っこく話しかけて私が預けたポーションを売った代金で絵本を買ってくれた。

ちゃっかり値切ってる辺り、さすが異世界っ子だなぁ。


「で?シュゼはこの回復薬どっから仕入れたんだい?」

「仕入れたって言ってもこないだ死んだ冒険者のだよ」

「惚けないでくれよ~。隠したい気持ちも解るけれど悪いようにはしないからさ、ね?」


ん?流れがなんか変だ。


「本当だって!ゴブリンの群れを追って冒険者が来たの知ってるだろ?」

「じゃあカブリスさんかな?それとも村長さん?」

「だから…」

「この回復薬わざと薄めて回復量を落としてあるね。それに香りからしてまだ作られて新しい。原液を作れる薬師が村にいるね?」

「ダーズさんそれって街で流行ってるジョークかなんか?あはは、全然面白くねぇな~」


小さい声で話しているため会話は喧騒に紛れて周囲には聞こえないらしい。

真剣な話なのに字幕の最後に(小声)と書かれるので緊張感が削がれる。

自分の事なんだけどこの小屋まで人は来れないし実際の所あんまり危機感はないのだ。


「信用してほしい」


それまで笑顔だったシュゼ君は無表情に商人のお兄さんを見つめている。

シュゼ君超怖い。


『シナ様、緊急なんじゃが暫しよろしいじゃろうか?』


良い所なのに村長さんからメールが来たため字幕機能のみ残して返信をする。


『お久しぶりです。どうしました?』


『シュゼのことなんじゃが見ておられるかのう?』


『あ、見てます見てます。村長さんから見てあの商人さんはどんな人ですか?』


多分村長さんはバレちゃったシュゼ君に私が何かするかもって心配したんだろう。

なんだかとっても心外だが仕方無い。

村の人にとって私はいまだに正体不明の不振人物だしなぁ。

女の一人暮らしって教えたってデメリットの方が多いだけだしね。

地球にいた頃も女性の独り暮らしは危ないのだから、世界レベルで治安が悪いここではより一層の用心に越したことはないのだ。


『ダーズはワシがここに来る前からの付き合いでな、信用できる者じゃよ』

『じゃあ山に変わり者の薬師が住んでるって教えちゃっていいですよ』


ふむふむ、シュゼ君は商人のダーズさんを村長宅に連れていく途中か。

貨幣が欲しいと思ってたしちょうどいいかな?

いや、精霊さんに頼む事も出来るんだけど、とんでもない所から持ってきそうで…。

ん?村長さんからの返信がいきなり途切れたけどどうしたんだろうか。


『どうしました?』

『本当に話してもよいのかの?』

『別にあの商人さんだけなら構いません。あの人が周囲に話して困るのはシテーゼドランの皆さんなので。そこんところの判断ははお任せします』

『少し話をしてから決めるかのう…』

『見てますから話し合い頑張ってくださいね』


疲れたような顔をした村長さんに申し訳なく思う。

ごめんなさい今度の取引の時に迷惑料持ってくから許してください。


「待たせたのう」

「久しぶりだねゼトリック爺さん。いったいどうなっているんだい?」

「その前にちと訪ねたい。ダーズ、お主知ってどうするつもりじゃ?」

「商売するんだよ。私は商人だからね」


難しい顔の村長さんとニコニコ笑うダーズさん。対称的だ。

回復薬が欲しいだけなのか、もしくは制作者ごと欲しいかでダーズさんの今後が決まるんだろう。


この世界の薬師は基本レシピを秘匿して国なり貴族なりにつかえるからフリーな私は貴重。

かーなーり、貴重。


しかも回復薬やらの薬を作るのには魔力を注がなきゃいけない。

注ぐにしても効果が高い物ほど純度の高い良質な魔力がたっぷり必要となるのだ。

結果、腕の良い薬師は高位の魔法使いや魔術師って事になるらしい。


どうだ!私の勉強も一ヶ月でそこそこ形になっているだろう。ふふん。


ちなみにスマホから引っ張り出すレシピは継承者がいない物を使ってるので、研究を盗まれた!とか言って怒られはしないはずだ。

いちゃもんつけられた時は徹底的に正当性を調べあげた上で対処する所存であります。


ていうかシュゼ君がまだ無表情で怖い。どうしちゃったのこの子!?



「商売のう…話を詳しく頼もうかの。おお、その前に…」

「ん?誓約紙かい。随分な物を使うんだね」

「すまんのう。お主を疑いたくはないんじゃがな」



誓約紙とは、なんか嘘をつくと呪われるっていうとんでもアイテムらしい。

主に大事な公的な約束や商談とかに使われる物だ。

しかし高いので普段あまり使わない。

村長さん気合入ってんなぁ。


村長さんと、ダーズさんは誓約紙に何やら書き込み血を滴らしてからまた話し込む。



「それでゼトリック爺さん、いったい何があったんだい?」



こうして話し合いは幕を開けたのである。

ちなみに卵を産めるのはピンクひよこだけです。

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