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異世界ガクブル半隠遁  作者: 尾中垂太
番外その1
21/26

一夜干しの行方 後編

後編です!


「っ、おじいちゃん、ごめんなさぃ…」


泣き腫らした目でシルヴィが帰還したのは昼と夜の間だった。古猫種は三日後にシルヴィを帰すと言っていたため、一息ついていた村人達は大いに慌てた。

自警団が村中を走り回り各家庭に村長宅で会議が行われる事を通知。暫く自宅からは外出しないようにと言い含める光景がそこかしこで見られた。


今、シテーゼドラン村長であるセトラックの家にて村の中で発言力のある者を集めた会議が始まろうとしていた。


「シルヴィ、何があったか話してごらん」


セトリックが愛しい孫娘を宥めながら話を促す。シルヴィは泣き腫らした目と泣きすぎで掠れた声で話し始めた。


村を出て直ぐに転移魔法で山の何処かに行ったこと。先に村を出た古猫種達と少しだけ話したあと、そこに置き去りにされたこと。

古犬種の遠吠えが聞こえて少しすると、急いだ古猫種達が暗くなる前にと言って転移魔法を使い村に帰れたこと。

古猫種の友から家族宛にと包みを受け取り、そうしていま帰ってきた、と締めくくった。


しゃくりあげながらも泣くまいと話続けるシルヴィの様子に気が立っていた者達も気まずそうに座り直す。

そんな場の空気を和ますような陽気な声で、シュゼが話しかける。


「おかえりシルヴィ。古猫種達と直接話をするなんて凄いじゃないか。

これは自警団にだって出来ない偉業だぞ~」

「そうね、シルヴィってばすっごく勇気があるわ!ね、古猫種と何を話したの?

シルヴィの武勇伝を聞きたいわ!」


シュゼに続いてセリアが明るい声を出して話を促す。安堵からか気恥ずかしさからかくしゃりと顔を歪めてシルヴィは古猫種とのやり取りを一生懸命詳しく伝える。

その顔には先程のような不安の色は無かった。


「あのね、ほんとうに少ししかお話してないの。

髪色が古猫種のおねえさんと同じ色ね、とか、とっておきって食べ物がすごくおいしくてすき、とか、お土産どうぞって。

それにずっと、お返事をしてたの…」


その後も勢いよく話すシルヴィの姿にセトラックはやっとひとまず安心する事ができたのだった。

シュゼとセリアはなおもシルヴィに話しかける。

周囲の大人達は双子が適任と判断し、せめてシルヴィが話しやすいようにと努めて笑顔を作り見守るのだった。


「いいえ!その返事が凄く難しいんだもの。シルヴィは誇っていいのよ!

あなたは凄いわ!」

「ああ!俺もそう思うぞシルヴィ。

小さいのに大したもんだ。

それでその友達は何をくれたんだ?」


「えっと、お薬とお魚…」

「魚!?」

「薬!?」

「ぴゃっ!?」


「これ!やめんか!

シルヴィは病み上がりなんじゃそ!!」



驚いた双子に驚いたシルヴィが奇声をあげて尻餅をつく。包みはいまだ開かれていなかったため、先に話を聞いていたセトラックとカブリス以外は中身を知らなかったのだ。


セトラックが慌ててシルヴィを立ち上がらせて怪我の有無を確認する。

そのいつも通り過保護な様子に何人かがくすりと笑う。次に話し出したカブリスもその一人だった。


「うちの双子が悪いなシルヴィ。

古猫種の友の顔を見たか?」

「ううん、これをくれたのは銀色の古猫種だったから…」

「そうか…これで最後だ。

薬はシルヴィで魚は家族にと言ったんだな?」

「うん…」


少し考えカブリスはセリアに目配せをする。すぐさまそれに答えセリアはシルヴィに話しかける。


「お疲れ様、シルヴィ!

お腹すいたでしょ?うちでご飯食べましょ。

村長さん、皆、いいわよね?」

「ああ頼んだぞセリア」

「でも…」


いい淀み祖父であるセトラックを見る。シルヴィとしては今日はもうくたくたで早く休みたい。

しかしシルヴィは古猫種の友から贈り物をもらってしまった。

自分が居なくなった後にその事で村長である祖父が悪く言われてしまうのではないかと心配したのだ。



だって、よく考えたらタダであんな高価なお薬をくれるわけないもの。

みんな怒らないし…きっと、わたしのかわりにおじいちゃんが怒られるんだ。

どうしよう、おじいちゃんが怒られちゃったら…。わたしが、わたしが悪いのに。



小さな身体を更に小さくして急にふるふるとするシルヴィになんだなんだと視線が集まる。

それがシルヴィの勘違いを更に助長させた。


「ごっ、ごめんなさぃ…っ…シ、ルヴィが悪いの!!!おじぃ、ちゃ、を怒らないでぇ…っ!!!」


大好きな祖父を背にして、普段大人しいシルヴィから出たとは思えないほどの大きな声だった。


村人達は最初から村長を責めるつもりはなかった。

古猫種や古犬種は災害の一種と考えているため、今回の事はむしろ愛しい孫娘を連れていかれたセトラックに同情的なのだ。


そんな大人達の考えを知らない幼い少女は必死に祖父を庇い、何故かカブリスとひたと視線を会わせ続けていた。

気をきかせて自分の娘に指示を出したら勘違いされてしまったカブリスとしたら堪ったものではない。



目をそらしたいが何故かそらせない。



汗が吹き出し周囲に助けを求めるもニヤニヤと笑いながら許してやれよとのたまう者が出る始末。

むむむ、と意味も無く唸り声が出てきた頃、セトラックがシルヴィに話しかけた。


「大丈夫じゃよシルヴィ。最初っから誰も怒っとらんよ」

「おじぃちゃん…」


泣くのを我慢し無意識にだろう、自身の尾を抱きしめている孫娘を愛しく思う。ああ息子夫婦の忘れ形見は立派に成長している!この子はこんなにも心優しいのだと村中に自慢して回りたい位だった。



「大丈夫じゃよ。行っておいでシルヴィ」

「うん…」

「決まりね!ミリスにもシルヴィの武勇伝を話してあげてくれる?あの子今日はシルヴィと寝るんだって騒いでるのよ。

村長さん達もうちで食べてくから先にいきましょ!」



そう言ってセリアがシルヴィを連れて退出する。



よかったぁ、おじいちゃん怒られないんだ!

お姫さまのことはヒミツにしよう。

悪い人から隠れてるのかもしれない。

おじちゃんも偉いやつほど逃げて隠れるっていってたし、きっとそうだ。

やさしいお姫さま。

ハンカチはきれいにして返します。

お姫さまは大丈夫だよ。

ああ、いつかちょっとでもいいからお姫さまにあいたいなぁ。



ドアが閉まり足音が遠ざかる。


「……」


「ぶっ!」

「シュゼ!」

「ぶふふっ!無理だ!セリアが爆笑しながら思念送って来る!!…ぶっ!」


シュゼが我慢できないと言うように噴き出すのを皮切りに周囲は笑いの渦にのまれる。そんな中、カブリスは髭がいけないのだろうかと真剣に悩むのであった。

一通り笑いあい周囲がおちついたころ、セトラックが口を開く。



「さて、皆の者おちついたかの?

この包みなんじゃが…」


ごくりと皆がセトラックを見つめる。

包みはシルヴィとその家族宛。シルヴィが貰ってきた物だしどうしようと保護者のセトラックの自由だがやはり気になる。


「ベラんとこの娘の婚姻式の時に食べるとしよう。衣装が無い分、せめて食事だけは豪華にせんとな。

幸い餓死者はまだでておらんし、魚は当分備蓄じゃ。

回復薬じゃが一応シルヴィ宛じゃからニ、三滴は使わせて貰う。

そしたら薄めて病を患っている者達に飲ませようかの。

古猫種は嘘はつかん。友は対価はいらないと言ったそうじゃし、今回はこれで大丈夫じゃろう」


その言葉に魚が食べれると喜びをあらわにガヤガヤと騒ぎだす周囲を満足気に見るとセトラックはひとつ頷いた。

山の麓にある分、魚は非常に珍しい。

村には井戸があるため水には困らないが川や泉に釣りに行くには危険すぎるのだ。




各自セトラックに別れを告げて帰宅する中でカブリスとシュゼは最後まで残っていた。


「親父どう思う?」

「…まだなんとも言えん」

「ワシはシルヴィを守るぞい」


セトラックは続ける。


「シルヴィ宛じゃと!?下心が透けて見えるわっ!!

ピンクのハンカチで気を引きおってからに!

うちのシルヴィは絶対に渡さん!!!」


「じいさん…」

「村長…まだ決まったわけでは」



やっぱりな、そう思いながらも親子は二人がかりでセトラックを宥めるのだった。




「まったくあの人ったら…」


そんな三人を苦笑して眺めながらセトラックの愛妻シーラは包みをとく。そうして一夜干しを地下の貯蔵庫へとしまう。

暗く涼しい貯蔵庫の中で一夜干しは、いつか来る目出度き日まで保管されるのだった。




シテーゼドランの夜は更けていく。






ちなみに品川さんがハンカチを巻いたのは、包みが解けないようにと念には念を入れた結果です。

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