三毛のこども
『うむうむ、今日も我が住み処は、世界樹は美しい。まったくもっていい朝だにゃあ』
『うふ、そうですわね。お姉さま』
『むむ?我が美しき姉妹よなんだかご機嫌だにゃ?』
『ええ、昨夜、荷の確認をしている時にかわいいお友達ができましたの』
やはり昨夜に用意された寝床を抜けたのはそのためだったみたいだにゃ。
美しくも真面目で優しいとは…我が種に雄が居なくてよかったにゃ。
古猫種は長年あの可笑しな山で暮らしてきたせいか生物としての枠から外れどちらからというと精霊に近い、と我は思うのにゃ。
そうであれば、魔力のみ食し生き永らえたり、雄と雌で番って子を成すわけでもなく、ほんの少し精霊の声が聞こえるのにも説明がつくんだがにゃあ。
それにしても……精霊に近いとは、ちと傲慢かにゃ?
しかし魔力が永き時をかけ命石に宿り世に生を受けるってにゃあ精霊と同じにゃんがにゃあ。
となると命石が鍵ってことかにゃあ。うむむむむ。
ん?そう言えばにゃんか………
『友達?』
『あら?さっきのお話のつづきですの?』
ああ、首を傾げる姉妹も美しい。灰銀の毛皮に陽の光が反射し全身が輝いているようだにゃ。黒い模様がこれまた灰銀に映えてよりいっそう………
『お姉さま?そろそろ出発いたしましょう?』
『はっ!?にゃ、まだにゃ!』
『うふふ、そんなに慌ててどうなさったの?』
『…その友とやらに興味がわいたにゃ。連れて来るにゃ』
シテーゼドランの村長、セトラックは呆然と頭を抱えていた。
昨夜は針と兜の驚異の前に村全体が纏まった。驚異が去り取引の話題になった時に多少の混乱があったがカブリスの娘がそれを鎮め、村の方針も決まった。
150人近い人間の意志が完全に纏まるなんて普通ならば不可能だろう。なんせ此処は権力に背いた者達の村なのだから尚更だ。しかし直前の針と兜、この驚異を乗り越えた事により更なる結束が生まれた。
そうして、量だけをかき集めて用意した荷を改めて、質を重視した新しい荷も包み終わり、あとは古猫種と古犬種に運んでもらうだけ。
これでひと安心。
そう思ったところにまた問題が発生したのだ、それもとびっきりのである。
「ごめんなさい村長さん!私が悪いんです!」
山から甘露を持ち出し事態を引き起こした例の娘が泣きながら謝っているがいまは目にも耳にも入らなかった。
何故ならばセトラックの前には、子どもらしい大きな瞳に溢れんばかりの涙をためた、亡き息子夫婦の忘れ形見がいたからだった。
「リーラ!!!何故シルヴィを連れ出した!!」
そうじゃ、カブリスの言う通り、シルヴィは事が終わるまで家に居るはずじゃった。
愛しい孫は病を患っていた。年のわりには小柄な体は更に小さくなり、幼くして眼から光を失った。村唯一の治癒師に見せたが、彼は苦しそうに顔を歪めてこう言った。
病は病だが、これは栄養が足りなくて起こる病だ。薬と栄養をよくとって眠ればじきに治るとされてる。
シルヴィは子どもだ。早く治さなきゃ目は絶望的だ。
それに薬はもとより、栄養も…ただクルー芋を食べさせればいいって話じゃない。今の村では…。
村長…シルヴィを含めて…何人かの子が症状を訴えている。すまない、俺は治癒師なのに…すまない…俺には打つ手がない。
妻と二人、神を呪い、孫に満足に食事もさせられない力無い己を憎んだ。
しかし、しかし!奇跡はおこり精霊とその加護者によって救われた!例え気紛れと偶然が成した事でも良かった、神に祈っても起こらなかった奇跡が今此処にあるんじゃからのう!
村を危険に晒したのだ、リーラがしたことは許されることではない。しかし古猫種殿に聞くと、リーラが動いた事によりシルヴィを含めて数人に奇跡が起こった可能性があるという。
おじいちゃん、おばあちゃん大好きよ。そう言ってはにかむ最愛の宝を前にして、リーラに罰を与える事は出来なかったが、まさか、まさかこんな事になるとは…。
「おじいちゃん…ごめんなさい…」
「シルヴィや、何故…何故外に出たんじゃ…なにがあった?」
可哀想に目が真っ赤に腫れている。しかしシルヴィは名指しで古猫種殿に呼ばれたのだ、祖父としても村長としても話を聞かなければ…。
「あ、あのね、光が見たかったの」
「光?」
「…うん。急にたくさんの魔力光がでたから…きれいだなって…それで、おばあちゃんがおじいちゃん達に夜食を持っていった時に家をでたの。
それで…光を見てたら小さい声が聞こえたの…それで、それで…」
「シルヴィや、続きを」
「村長さん!私が悪いんですシルヴィを責めないで!
シルヴィが寂しそうにしてたから少しだけ一緒に外に出たの。そこで古猫種と少しだけ話した、本当にただそれだけなのよ!?シルヴィは悪くないわ!」
「リーラ!今はシルヴィに話を聞いているんだ!お前の意見はこの場では必要ない。シュゼ、リーラを連れてけ」
「わかった」
カブリスがシュゼに命じ、リーラは一時的に部屋を移す。
「おじいちゃん…ごめんなさい…リーラは悪くないの、私が…」
「シルヴィ、リーラを庇うのは後にするんしゃ。今は続きを話なさい」
「っ、はい、それで声が聞こえて…私に似てる、髪色かわいいねって…あと…私のこと、小さい友達って…。
光の側で私、よく見えなくて…友達って、髪をほめられて嬉しくって…その声と、あ、遊ぶ約束をしてしまったの」
「っ!!」
カブリスが息をのむ音がやけに大きく聞こえたがシルヴィの話を聞いて少しじゃが納得した。
確かにシルヴィは似ているのだ__三毛の古猫種に。
シルヴィの母親は白黒模様の猫の獣人だった。娘であるシルヴィにも引き継がれ耳と尻尾がある。それに加えて母親からは白と黒、父である息子からは赤毛を引き継いだ。結果、シルヴィの髪色は三色が所々に色を主張する不思議な髪色となった。
人と違う髪色をシルヴィは気にしていたが、亡き両親の色だからと嫌うことはなかった。それを誉められて、夜道に一人ではないということもあって浮かれて返事をしてしまったのだろう。
シルヴィは本来ならば聡明で臆病な子なのだ。
「村長…」
「わかっておる。シルヴィや、これから古猫種殿に会いに行くぞい。なぁに、安心せい…シルヴィ、シルヴィがちゃんと帰って来れるよう、じいちゃんも一緒に話にいくぞい」
「うん…」
『にゃるほど、そうしてこの子どもが来たわけだにゃ?』
『ええ、お姉さまにそっくり。うふふ、かわいいでしょ?』
『うむ、たしかに…髪色に複数の色が出るとは珍しいにゃあ。それに猫の獣人とはにゃ』
痩せっぽっちの人の子どもは緊張か恐怖かからわからにゃいが固まっている。猫の獣人はたいして珍しくにゃいが毛色が珍しい。
「もうよいじゃろうか?子どもにはこの場はちときつい」
『ふむ』
『お姉さま、この子を連れ帰っては駄目かしら?』
「っ古猫種殿!」
『黙るにゃ。して、我が姉妹よ、我等には人間を飼う趣味はないはずだがにゃ?』
『ええ、お姉さま。ただ、他の姉妹達は今、帰り道を整えているでしょう?あの子達にわたしのお友達を自慢したいとおもいましたの』
にゃるほどにゃるほど。
シナと我との関係を真似したいとは…姉妹とはにゃんと可愛いものだにゃ。
『許可するにゃ』
「古猫種殿!シルヴィはワシのっ」
『孫だにゃあ。臭いでわかるにゃ。安心するにゃ、ただこの三毛の子どもを他の姉妹達に見せたらそっちに返すにゃ』
「っしかし、シルヴィはまだ十になったばかりの子どもなのですぞ!連れて行くのならばワシを!」
『じじい連れてっても意味ないにゃ。それに荷は我が友の物で我等のではにゃい。人は餌。我等と人間との関係が変わったわけじゃにゃいのにゃ』
「っ…しっしかしの!」
くどいにゃあ、食べてしまおうかにゃあ。
『お姉さま落ちついてくださいまし。わたしのお友達のお祖父さま?』
「っ、なんじゃ!?」
『わたしとシルヴィはお友達ですわ。うふふ、シルヴィの髪色はとてもすき。だって大好きなお姉さまと同じ色なのよ?そんな稀有なシルヴィに傷をつける姉妹はうちにはいないわ』
「誓えるか?」
むっ!我が姉妹の見せ場に横槍を入れる愚か者は誰にゃ!?
『うふふ、それでシルヴィが安心するのなら』
「それでは、精霊とその荷の相手に」
「カブリス!」
自警団か…リーラとかいう小娘に話を遮られてるしか印象がにゃかったがちゃんと話せるんだにゃあ。
しかしシナはともかく精霊とは…。そんにゃ気紛れな存在に誓うっていいのかにゃ。
「村長、私情を挟んだと言われないよう俺に任せてください」
「っ…すまん」
にゃるほど。
『ええ、誓いますわ』
「その誓い有り難く受けとる」
にゃるほど。
『其処の精霊に誓った所で、早速だが出発だにゃ』
「気付いて」
『勿論だにゃ!さてさて!時間食ったが出発にゃ!…えーと、三毛の子どもは三日程で返すにゃ』
「おじいちゃん…行ってきます」
「あぁ…あぁ、じいちゃん達は待っとるからの…」
ふふん。最後にカブリスとやらの言葉を遮ってやったにゃ。にゃぜだか気分がいい!
しかし、こんにゃ所に精霊が宿ってる剣があるとはにゃあ。形もにゃんだか細くて微妙に湾曲しててかわってるしにゃあ、まぁ、気紛れな精霊にぴったりってとこかにゃ。
さてさて!大分時間がかかったが、いざ!シナのもとへ!!
ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます。
次回!品川さんがついに眠りから覚めます!




