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異世界ガクブル半隠遁  作者: 尾中垂太
乙女の身嗜みがととのうまで編
16/26

光が灯る夜

あと一話で品川さんは眠りから覚めます(笑)

罪始まる村シテーゼドランは異様な程の魔力光と静寂に包まれていた。

通常時の夜ならば村の出入口と数ヵ所に灯りを灯すだけの村は、夜半にも関わらず昼と見紛うばかりの光で溢れている。

村の中央に位置する広場には動ける者全てが集められ、村長であるセトラックの話を待っている。

異常なほどの光の量に、あるいは村にモンスターが迫っているという噂に、村人達は怯えて口をつぐむ。



母に手を引かれ広場に着いたばかりの幼い少女がいた。いつも村長が話をする位置から少し離れた大木の根に座り込んでおり、眠いのだろう仕切りに眼をこすっている。


「おかあさん、おねえちゃん」


「しー!ミリス静かに」

「でもね、おねえちゃん」


少女が姉に注意されるも、口を開く。

再び姉が注意する前に母親が少女を抱き上げ優しく問いかける。


「ふふっ、セリアありがとね、大丈夫よ。どうしたのミリス?」

「あのね、ミリス、まだねなくていいの?」

「あらあらミリスはもうオネムなのね~。でももう少し待ってね、いまね、村長さん達がお話の準備をしているから」


「おそらは~?おねえちゃん、おほしさまおっきいね」

「ミリス、アレは星じゃないから指差すのも近付くのも止めなさいよ」


少女が古猫種の造り出した魔力光のうちの一つを感心したように指を差し姉に話しかける。

話しかけられた姉はいつも通りの幼い妹の姿に緊張が少し溶けたのであろう、先程よりも柔らかい表情でいつも通り対応する。

すると会話を聞いていたであろう周囲の村人達が表情を和らげ母子達に話しかけだした。


「流石はカブリスさんとこの子達だね!胆が座ってるよ!」

「んだんだ、ミリスちゃんあれはお星さんでねぇぞぉ。おっかねぇ古猫種が造った魔法の光なんだぞ~」

「こんな時にもしっかり家族を守ろうとするなんざ、やっぱりセリアとシュゼは双子だな!戦士の心ってーのかね!カブリスさんとこの奥さんは安泰だねぇ!」


セリアとミリスの姉妹とその母である

ルミリアを中心にその和は広がり出す。


「なっ!わ、私はただ父さんとシュゼがいないから…べ、別に戦士とかそんなつもりじゃ…」

「ふふっ、そうでしょ?うちの子は凄く優しくて強いから此処が一番安心なのよ~、だからうちに任せてね?」

「おねえちゃんつよいんだよー!」

「かっ、母さん!ミリス!違う、違うからっ」



顔をリルゴの実のように真っ赤にしたセリアの言葉を遮り、母ルミリアと妹ミリスがさらりと愛しい自慢の家族を誇る。

そんな二人にさらに顔を赤くし恥じらうセリアは先程の硬い表情の時よりもずっと年相応の顔となっていた。



「よっ!謙遜しなさんな。この何が起こるかわからねぇ時に母ちゃんとちっさい妹守ろうと動いてんのは、ちょーっと戦いを知ってる奴ならすぐ解るってもんだ」

「まったくほんとだよ、いいかいセリア!」

「な、なに!?」

「周りをよーく見てごらんよ」


向かいの家の奥さん、ジーネの言葉にセリアは周囲を見回すが意図をつかめずに首をかしげる。


「?」


そんなセリアに何人かの村人は微笑ましいような、ほんの少し困ったような顔をした。ますます訳がわからずに後ろの母に助けを求めようと顔を向けるも母は微笑むだけで何も言わずにセリアを見つめる。

なんだか居心地が悪いようなそうでないようなむず痒い視線にセリアが耐えられなくなった頃、ミリスが口を開く。


「ミリスのおねえちゃん、つよいんだよー!」


とうとう恥ずかしさに耐えきれずにセリアの視線は地面を向く。とたんに周囲から小さい歓声が聞こえる。


「流石はミリスだ!」

「よくわかってるなぁ!ミリス!」


「うん!おねえちゃんつよいんだよー!」


村人の歓声に胸を張って自慢気に主張する妹にますます顔が赤くなる。

ミリス、なんであんたはそんなにご機嫌なのよ!こんな赤くなった顔を尊敬する師である父や良きライバルである双子の分身に見られたら恥ずかしすぎる…そんな血がのぼった頭で半ば現実逃避気味で考えてしまう始末だった。


「どうやら解ってねぇのはセリアだけみたいだなぁ」

「まったく…セリア!」

「は、はいぃ!」


返事の声が裏返ってしまって更に恥ずかしいがこの状況が終わるならと、セリアはジーネを見つめる。


「いいかい、セリアあんたは強く優しい戦士だ」


違う、セリアはそう思った。

真にセリアが強ければ今頃は父とシュゼと一緒に自警団と共に村を守っているはずだ。

真にセリアが優しければ…いま、この≪・・≫位置≪・・≫に居るはずがないのだから。

先程は恥ずかしさからだが、今は情けなさやら罪悪感やらで目が地面を見てしまいそうになるのを堪える。


「セリア、もう一度言うよ。あんたはカブリスやシュゼにも引けをとらない立派な戦士だ!」

「違う!」


反射的に答えてしまい、セリアは焦った。不味い、否定した理由を聞かれたら自分は答えられない。そして答えられなかった自分をセリアは一生許すことがないだろう。

そんなセリアの葛藤を見透かしたようにジーネが先程よりも力強く言葉を紡ぐ。


「セリア!もう一度言うよ。周りをよく見てごらん。皆あんたと同じだよ。自身や、家族を守ろうと動いてる」



反射的に周囲を見回す。



戦う術を持たない者達は木や村で共有している粉引き小屋や井戸、所々にある建物の近くに。

自警団までとは行かなくとも戦える者は出入口や家族の近くや若い娘または幼い子供の近くに。


足腰の悪い老人達は村長が話をする真ん前を陣どっている。

ミリスのように幼い子供を連れている数少ない家は何ヵ所かに別れてまとまっていた…そう、それはセリアの側にも。

ああ、先程、母が任せてと言ったのは…。


理解した瞬間にセリアは泣きたくなった。自分は、精一杯警戒したつもりでいた自分はいったい何を見ていたのだろうか。


「ちらっと見たシュゼが辛気臭ぇ顔してたから何事だぁ、と思えば…お前ぇら双子は本当に…」

「大丈夫だ、みんな同じなんだよ。何もあんただけ罪悪感を持つ必要はないんだ。

みんながみんな生きようとしている。父親が居ないその中で自分で考えて動いたあんたはシュゼにも負けない戦士だよ!カブリスが信頼して守りを任せるぐらいとびっきりのね!」


泣きそうになるのをぐっと堪える。

そうだ、自分は精一杯考えた。その卑怯な計画を父の耳に入れることも恐ろしく、分身であるシュゼだけにこっそりと打ち明けた。


それは、広場が兜と針に襲われたら即座に木と周囲を盾にして転移魔法を使い母と幼い妹を村から離れた場所にある命石の元へ逃がすというものだ。

新しい命を内包し育む命石の側は決してモンスターに襲われる事はない、ある種の聖域といってもいい。

良き隣人である村人や村を守護する自警団を囮にするという卑怯極まりない計画だと解っている。解っているがセリアは決意した。




セリアとシュゼは男女の双子だ。産まれる前から一緒の二人はお互いのみの間で念話が使えた。なぜ高位の魔法使いや魔術師しか使えないはずの念話が使えるのかは解らないが、かつての父は精霊に愛されているのではと気を揉んだらしい。


かつての父は商人だった。行商の途中に命を落とし、セリアとシュゼは亡くなった父の友人だった、当時里にて高位のサムライであった今の父カブリスに引き取られた。

時が流れ、止める父に逆らい父の部下達と共にシテーゼドランへと移った。そこで父は今の母と出会ったのだ。

二人は愛し合いミリスが産まれた。正真正銘の二人の子の誕生に一時は身を引く決意もした。

けれど一番に気付き引き留めてくれたのはルミリアだった。私達は家族でしょう?そう言って産まれたばかりのミリスを抱いたその手で抱きしめてくれたのだ。


その時にシュゼと共に誓った、何があろうとも家族を守ろうと。


シュゼは解ったと一言だけ残して父と共に村を守るために家を出た。

お互いに覚悟していた。計画がばれたら逆に自分達が囮とされると。だから、だから周囲を精一杯警戒した。


「私は…」

「そうだ。あんたは自分の出来ることをしようとした。それでいいのさ!」



改めて周囲を見回す。



木や小屋など、なるべく障害物がある場に行くのは木や周囲を盾に、小屋の地下にある簡易の避難場所に誰よりも早く避難するため。


子供や若い娘は肉が柔らかく襲われやすい。それを利用して狩るため、そして守るためにより近くに。

出入口にも居るのは其処からの侵入にそなえているのだろう。


老人達は村長の近くに少しでも近づこうと。何故なら自警団の中には結界魔術を使える者が居るからだ。

有事の際に少しでも長く生き残るため、結界魔法の射程内であることを祈りながら身を寄せ会う。きっと、射程外になった時は自警団の盾となる覚悟を決めているのだろう。


セリアの周囲を含め、何ヵ所かに別れて纏まる幼い子を持つ家族。彼等は子供を生かす為だけに動いている。彼等が纏まっている場所の中心には必ず転移魔法を使える者が。しかしながらこんな辺境の魔法使いが使う魔法だ、範囲はすこぶる狭く精度も悪い。そんな失敗するかも知れない魔法に希望を託し、子供達の親は魔法発動時には狭い射程内に入ろうと我先にと我が子の背を押すのだろう。



やはり自分は戦士としても魔法使いとしても駆け出しの若造である、そう痛感した。実力も去ること、その覚悟が。


重い。

けれど気づかせてもらった。

ならば自分の取るべき行動は一つ。持てる力のすべてで転移魔法を行使する。

セリアの眼に力が宿る。


「…私は、躊躇わない」

「そうだよ。それでいいんだ!どのみち針やら兜やらが襲ってきたら村は全滅さ!だから、あんたは魔法で子供達の英雄になるんだよ!」

「ミリスのおねえちゃん、つよいんだよ!ね、おかあさん?」

「ええ、そうよ。セリアは強いわ、ね?セリア」


「当たり前よ!私は、私達は強いわ。私達はサムライの子なんだから!」



この後、村長であるセトラックから話が伝わる。針と兜は精霊の加護者が処置し、村での奇跡も加護者によるものだと。そしてその加護者はシテーゼドランとの物品の取引を望んでいる、と。


古猫種と古犬種の友であるその存在に、村の数少ない蓄えを取引と言う名の下に食い潰されるのではと恐慌状態になった一部の村人に渇を入れたのは、とあるサムライの娘だったという。



「静かになさい!!

さっき覚悟したばかりでしょ!!

大丈夫!!話が分からない存在じゃないわ!村長、荷の見直しを!あっちは無償で奇跡を起こした、なら、次はこっちが誠意を見せる番よ!!」



こうして加護者とのやり取りの方針が変わった。我々は恐怖によって応じるのではなく、感謝から取引に応じるのだ。

その言葉に嘘偽りなく動くと誓った人々は、自らの運命を変えたことをまだ知らないのであった。







魔力光が村を煌々と照すなか、その分闇が強調された村の外。


『すっげぇなぁあの人間。でも…なぁ兄ちゃん達、サムライって知ってる??』

『否、シナにでも問え』

『兄者と同じく、興味無し』


『む!覚えてたら後で聞いとく!兄ちゃん達には教えてやんないかんなー』




暗闇の中で銀が笑った。






なんか品川さんより主人公らしい子が出てきましたが本作の主人公はあくまで品川さんですよ!

ええ、主人公は精神的に成長するサムライ娘、ではなく、惰眠を貪っている方なのです(笑)


ちなみに、

噂は消炭君の念話をキャッチしちゃった皆さんによるものです。

ミリスちゃんは現状よく解ってません。ただ単に皆にお姉ちゃん自慢したいだけです。お母さんは転移した子達全てを受け入れる覚悟でした。



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